毀誉褒貶きよほうへん)” の例文
「楊阜、なぜそんなに女々めめしく哭くのかえ。人間は最後にまことをあらわせばいいのです。生きているうちの毀誉褒貶きよほうへんなど心におかけでない」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捜査の苦心、証拠蒐集の不備の為の焦慮、当時の世論の囂々ごう/\たる毀誉褒貶きよほうへんの声、呪の手紙、そんなものが可成かなり彼を苦しめた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶きよほうへん旋風つむじかぜ翻弄ほんろうせられて、予に実にかなわざるいつわりの幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
様々の毀誉褒貶きよほうへんのうちに、夫妻の苦心の愛子——川上座は出来あがっていった。もうやがて落成しようとした折に、不意に夫妻の仲に気まずい争いが出来た。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その内容は一見驚くほど似通っていて、一つの調和あるチェーホフ像を浮びあがらせ、稍〻ややもすればほかのロシヤ作家に見られるような毀誉褒貶きよほうへんの分裂がない。
といって世間の毀誉褒貶きよほうへん無頓着むとんじゃくであったという。僕は悪口に対してはこの心がけをもって世に処したい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
味方が勝つまでは、もののふはみなすすんで死地にとび込む、そのとき毀誉褒貶きよほうへんを誰が考えるか、将も兵も身命を捨てて戦いぬき、勝利をつかむところが全部だ。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
毀誉褒貶きよほうへんは仕方がない、逆賊でも国賊でも、それは何でもかまわないです。ただ看護員でさえあればいい
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらぬだに世間の毀誉褒貶きよほうへんを何の糸瓜へちまとも思わぬ放縦な性分に江戸の通人を一串いっかんした風流情事の慾望と
山なす毀誉褒貶きよほうへんも何のその、かくて両国垢離場こりばの昼席とて第一流人以外は出演できなかった寄席の昼興行の、それも真打とりを勤めることと、圓朝はなったのだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
義理人情の着物を脱ぎ捨て、毀誉褒貶きよほうへんの圏外へ飛び出せばこの世は涼しいにちがいない。この点では禅僧と収賄議員との間にもいくらか相通ずるものがあるかもしれない。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さっき用いた言葉で分るように申しますと、この男の所作しょさは評価を離れたものになります。毀誉褒貶きよほうへんの外に立つべき所作であります。柳は緑花は紅流の死に方であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶きよほうへんを憤る心が沁み出ている。
藤村の文学にうつる自然 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
毀誉褒貶きよほうへんは世の常だから覚悟の前だが——かの「デカダン論」出版のために
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
それに、最早もはや世を去った人などのことはとにかく、現存の人であって見れば、私と師弟関係があるだけ、毀誉褒貶きよほうへん如何いかんに関せずおもしろくないと思いますから、批評がましいことは避けます。
それに対する毀誉褒貶きよほうへんはまちまちで、在来の芝居を一途いちず荒唐無稽こうとうむけいののしっていたその当時のいわゆる知識階級と一部の半可通はんかつうとは、今後の演劇は当然こうならなければならないもののように賞讃した。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兎に角芸術家は毀誉褒貶きよほうへん耳敏みみざとい。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
毀誉褒貶きよほうへん——浮世のありふれ事、前途のお気にさえられなよ。人事すべて、眼前を観ただけでは、何が幸不幸とも申されぬで」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毀誉褒貶きよほうへんは仕方がない、逆賊でも国賊でも、それは何でもかまはないです。唯看護員でさへあればいい
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自らも世間の毀誉褒貶きよほうへんに頓着しなかった頃はかったが、段々重く見られて自分でも高く買うようになると自負と評判とに相応する創作なり批評なりを書かねばならなくなるから
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どうせ一旦女優になったからには、一生取るにも足りない毀誉褒貶きよほうへんの的となってのみ過るのは、余り甲斐ないことではないだろうか、過去十年の時日は、何か、更にもう一歩を期待させる。
印象:九月の帝国劇場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「そうですか」と云った純一は、心のうちになる程とうなずいた。東京の女学校長で、あらゆる毀誉褒貶きよほうへんを一身に集めたことのある人である。校長を退しりぞいた理由としても、種々の風説が伝えられた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
気にするたちの人なら知らぬこと、良人は、そんな毀誉褒貶きよほうへんに心を左右されるお方ではありません。——従って、良人に付いている家来衆とても
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『浮雲』第三編が発表された『都の花』を請取った時は手がふるえたというほどの神経質にも似合わず、この時代は文壇的には無関心であって世間の毀誉褒貶きよほうへんは全く風馬牛ふうばぎゅうであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すべての毀誉褒貶きよほうへんを皆自分のこやしとして、自分が正しいと思う方へひたすら伸びてゆくこと、そして、よかれあしかれ自分の生きっぷりと、そこから生れる仕事で批評をつき抜いて行くこと
近頃の感想 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
世間の毀誉褒貶きよほうへんは顧みない。人が死んでも好い。自分が死んでも好いと云う事なら、解決が附いたのでしょう。それが無いので、今にぐずぐずしているのです。そして母はとうとう亡くなってしまう。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
見る明がなく、世の毀誉褒貶きよほうへんを信じて予を諫め、自ら死んだからいいようなものの、生きていたら予にあわせる顔もあるまい
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこういう毀誉褒貶きよほうへんを気にかける司馬懿でもない。彼は彼として深く信ずるものあるが如く、折々、悠々と朝に上り、また洛内らくないに自適していた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんな毀誉褒貶きよほうへんもかれの顔いろには無価値なものにみえた。ただ、さしもの衆口も近ごろは範宴の修行を認めないではいられなくなったことである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みずから自己の性をどうしようもないとして、世事の毀誉褒貶きよほうへんなどは一こう気にもとめないふうだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時、長安の中央政府もいいかげんなものに違いなかったが、世の中の毀誉褒貶きよほうへんもまたおかしなものである。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毀誉褒貶きよほうへんの口の端にかかって、身も名もけがされることは知れきっていますが——それをしも、忍んでするのが、真に国事に尽すということではありませんか。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
従って、名人論、非名人論、古くから毀誉褒貶きよほうへんのなかに彼の名はただよわされて来た。私はまた小説に書いた。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
識者顔しきしゃがおする者の、毀誉褒貶きよほうへんさえかなり耳うるさいところへ、この人出のほこりは、他人の死ぬか生きるかを、勝つか負けるかを、ただ興味として、見物に駈けて行く——
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
史実非史実をぜて、ずいぶん世の毀誉褒貶きよほうへんにもてあそばれた方だが、ただ一つ、俳聖芭蕉と、あの世の隣組になれたことは、今日そこを訪う遊子にとっても、何か
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さもない間の毀誉褒貶きよほうへんなど、心にかけることもあるまい。——使者としてのお役目は果した。捕まっても、生きていても何の恥かあらん。……方々かたがたも、それがしにならい給え
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不孝もし、放埒もやり、恋もし、毀誉褒貶きよほうへんにも、内々こころをわずらわし、いやはやなっていない憂国ではあった。……だが、ただひとつ、その時期ならでは出来ぬことがあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ですがわが仁山大居士にんざんだいこじはもう御観念でしょう。何事も大悟たいごして、世の流れのままにどんな毀誉褒貶きよほうへんもあの薄らあばたをまぼろしとして地下に笑っておいであるに相違ございませぬ
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとの陰口、毀誉褒貶きよほうへん、中傷讒訴ざんそ、これにかかわっていた日にはりがないからである。障子のさんのチリを吹いて、わが目もチリにこすらなければならない。秀吉の性分しょうぶんに合わないことだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毀誉褒貶きよほうへん叱言こごとの投書もずいぶんつけられるが、実際の仕事に当ってから僕も意外に感じたのは、一方にそういう概念の民衆があるかと思うと、また一面には、熾烈しれつな宮本武蔵研究家と
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申さば、世間の毀誉褒貶きよほうへん、これはたれにも、避けられぬこと、また歯牙しがにかけるにも足らぬことにございましょうが、最前も仰せのごとく、衆口金をとろかすのたとえもある。慎まねばなりません。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武門の上に仰ぎかしこむはただお一方ひとかたのほかあろうや。その大道はわが心源しんげんにあること。知るものはやがて知ろう。——とはいえ五十五年の夢、むれば我も世俗の毀誉褒貶きよほうへんに洩れるものではなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……俗人どもの中傷や陰口には、答える要もないが、かかる折、毀誉褒貶きよほうへんを超えて、たしなむ芸術に、己れの心操を無言に残しておくことは、少しも差しつかえなかろうし、高士の答えとわしは思うが
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世間じゃもの、誰のことでも、毀誉褒貶きよほうへんはありがちじゃ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはふしぎなことだ。見ぬうちからお互いに恋いこがれておったとは。——世上の毀誉褒貶きよほうへんはどうせ善い噂はなく、悪いことのほうが多いだろうに、この筑前如きへ、それほどお心寄せとはかたじけない」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の毀誉褒貶きよほうへんを気にする性であった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)