旦暮あけくれ)” の例文
それから片葉かたはあしというのがござんす、帝様がこの土地へおいでになってから、旦暮あけくれ都の空のみをながめて物を思うておいであそばした故
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
甚兵衞聞出しければ彼が留守るすへ忍び入て物せんと茲に惡心あくしんを生じ旦暮あけくれ道庵だうあんたくの樣子をうかゞ或夜あるよ戌刻頃いつゝごろきたりて見れば表は錠前ぢやうまへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そは皆各所の山に分れて、おのが持場を守りたれば、常には洞のほとりにあらずただやつがれとかの黒衣のみ、旦暮あけくれ大王のかたわらに侍りて、かれが機嫌をとるものから。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
旦暮あけくれ存じて居りましたが、此様こんな山の中においでとは存じませんが、沼田の方にいらっしゃるという事ですから、日光から山越やまごしをしてまいりましたも
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
にはかに夜も昼もかぐはしい夢を見る人となつて旦暮あけくれ『若菜集』や『暮笛集』を懐にしては、程近い田畔たんぼの中にある小さい寺の、おほきい栗樹くりのきの下の墓地へ行つて
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
門檣あれて美玉ちりにかくるゝ旦暮あけくれのたゝずまひ悲しく、天道はどうでも善人にくみしたまはぬか、我が祖父、我が母、我が代までも、飛虫ひとつむざとは殺さじ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「函館さ」と十風は答へて、旦暮あけくれ漬物で茶漬を掻込んで、質の出し入れに許り苦心してゐるやうでは東京に居ようが札幌に居ようがたいした相違がある譯では無い。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
清閑の池亭のうち、仏前唱名しょうみょう間々あいあいに、筆を執って仏菩薩ぼさつ引接いんじょうけた善男善女の往迹おうじゃくを物しずかに記した保胤の旦暮あけくれは、如何に塵界じんかいを超脱した清浄三昧しょうじょうさんまいのものであったろうか。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯其折ただそのをりの形見には、涙のひまに拝しまゐらせ候御姿おんすがたのみ、今に目に附き候て旦暮あけくれわすれやらず、あらぬ人の顔までも御前様おんまへさまのやうに見え候て、此頃は心も空に泣暮し居りまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さすがに幼馴染おさななじみの葉石の、今は昔互いにむつみ親しみつつ旦暮あけくれいつ訪われつ教えを受けし事さえ多かりしをおもい、また今の葉石とて妾に対してつゆ悪意のあるにあらざるを察しやりては
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この迂愚おろかなる旅人が旅宿インを逭れて五日といふ旦暮あけくれは、これなる(かれは首から下げたズダ袋をはたくしぐさをしてみせる)山蟻、あれなる黄蜂の巣、さては天牛虫かみきり、油虫、これに酢模すかんぽ、山独活をそへ
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
何事も此ぎりと旦暮あけくれ愀悒しういう嗟嘆さたん相極め居候、御深察可下候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
我よりも母は忘れじ旦暮あけくれにとりつきしをさな心を
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
虚妄の糸が旦暮あけくれこの身にまつわって
旦暮あけくれ御折檻おせつかん遊ばし日夜おんなみだかわく間もなく誠に/\御愍然いぢらしく存じ上參らせ候それに付御先代せんだいよりの御用人しうと御相談さうだん申上去る十二月廿二日の夜御二方樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
済まぬは花瀬が胸のうち、その日よりして物狂はしく。旦暮あけくれ小屋にのみ入りて、与ふる食物かて果敢々々敷はかばかしくくらはず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一ト間のうちには預けられたお嬢さん、心に想う人があって旦暮あけくれ忘れる暇はないけれど、堅い気象の伯父様が頑張ってるから、思うように逢う事も出来ず、唯くよ/\と案じ煩い
初めて人生の曙の光が動いて居ると氣が附いてから、遽かに夜も晝もかぐはしい夢を見る人となつて、旦暮あけくれ『若菜集』や『暮笛集』を懷にしては、程近い田圃の中にある小さい寺の
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
暦日のない旦暮あけくれに、遽かにしめ立つものの白さが、身に沁みてきた。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
さてまた牡丹がおっと文角ぶんかくといへるは、性来うまれえて義気深き牛なりければ、花瀬が遺言を堅く守りて、黄金丸の養育に、旦暮あけくれ心を傾けつつ、数多あまたこうしむれに入れて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
旦暮あけくれ妻子眷属さいしけんぞく衣食財宝にのみ心を尽して自ら病を求める、人には病は無いものじゃ、思う念慮ねんりょが重なるによって胸に詰って来ると毛孔けあなひらいて風邪を引くような事になる、人間元来もと病なく
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)