斯道しどう)” の例文
そして将軍家自身の熱心な実践と唱道も大きな素因となって、斯道しどうの名人達人は、まさにこのときを陽春のさきがけとして輩出した観がある。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその前山さんが陶製上の予備知識を絶無とはいわないが殆どというも過言ではないほど斯道しどう知識をもたれなかったこと。
あたかもこの時に当り小説家の淵叢えんそうたりし硯友杜けんゆうしゃの才人元禄文学の研究と共にまた盛んに俳句を咏ぜしは斯道しどうの復興にあずかつてはなはだ力ありしなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
喜兵衛は斯道しどうの研究者であるだけに、浜主の名を知っていた。尾張おわりむらじ浜主はまぬしはわが朝に初めて笛をひろめた人で斯道の開祖として仰がれている。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
於此乎ここにおいて斯道しどう愛好者は宜しく冷静に熟慮反省して、決して人間界に於てこの声を発せず、換言すれば深山幽谷に去って哀猿悲鳥を共として吟ずるか
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仁義礼智じんぎれいちなどとは斯道しどうの人にあらざればかいあたわぬ倫理りんりとして、素人しろうとのあえて関せざる道理のごとくみなすふうがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
事実をいへば余は英文学卒業の学士たるの故を以て選抜の上留学を命ぜらるるほど、斯道しどうに精通せるものにあらず。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こう云う風であるから真面目に熱心に斯道しどうの研究をしようと云う考えはなく少しく名が出れば肖像でも画いて黄白こうはくむさぼろうと云うさもしい奴ばかりで
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
吉は、闇太郎のような、斯道しどうの大先輩と、同じ部屋に坐っているのさえ幸福だ。まして、今、いれて出した茶を讃められて、ますます歓喜に堪えない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
和尚この一喝の下に始めて大いに感悟するところあり、すなわち改めて滴水と号し、爾来じらい斯道しどうに刻意すること久しく、いよいよますます一滴水の深味を体得す。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
コスモは古代および現代の武器については非常にくわしく、斯道しどうの権威者とみとめられていた。ことに武器の使い方にかけては、学生仲間にも並ぶ者がなかった。
心ばかりは、何かと斯道しどうのために尽くしたいものであると思いおる次第であります。ついでながら今日の帝室技芸員で在京の人々の顔触れをいって置きましょう。
宗祇の忌日は、歿後も斯道しどうにおいて永く記憶され、時としては遠忌の実隆邸に催さるることもあった。
今尚諸国を経巡へめぐりて、斯道しどうの達人を求めおる次第、しかるに只今お聞きすれば、忍術の心得ござるおもむき、拙者にとっては何よりの幸い、なにとぞ拙者の懇望こんもうを入れられ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
欣々女史の書画——篆刻のわざは、素人しろうとのいきをぬけて、斯道しどうの人にも認められていたのだ。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
重い鉄槌てっついをふるう平鍛冶のやからなればこそ、これも道理とうなずけて、弥生は、こころからなる信頼のほほえみを禁じ得なかったと同時に、斯道しどうに対する老人の熱意のまえには
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
職業作家になろうなどと思わず道楽として斯道しどうに精進されるよう、おすすめしたい。
推理小説論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
念の為め主人と私の関係を話して置くと、私の父は幼時に維新の匆騒そうそうを越えて来たアマチュアの有職故実ゆうそくこじつ家であったが、斯道しどうに熱心で、研究の手傅てだすけのため一人娘の私に絵画を習わせた。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
更に勇猛心を振い興して斯道しどうに力を尽そうと考えていた矢先であったので、それらの教員団体、並びに旧友であるところの柳原極堂、村上霽月、御手洗不迷みたらいふめいらの諸君を病床に引きつけて
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
実に心細き時勢なれば売弘うりひろめなどは出来ざるものと覚悟して出版然るべし、その費用の如きは迂老が斯道しどうの為め又先人へ報恩の為めにたすくべしとて、持参したる数円金を出し懇談に及びしかば
蘭学事始再版之序 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこには甘蠅かんよう老師とて古今ここんむなしゅうする斯道しどうの大家がおられるはず。老師の技に比べれば、我々の射のごときはほとんど児戯じぎに類する。儞の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまいと。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
其後斯道しどうの専門家たる新村出博士の研究によって、現在他には林若樹氏と新村氏との所蔵のみが世に知られて居るということを学んだが、此両大家に伍するを得たことは私のひそかに喜ぶ所であり
春水と三馬 (新字新仮名) / 桑木厳翼(著)
失明の後に始めて味到みとうしたいつもお師匠様は斯道しどうの天才であられると口では云っていたもののようやくその真価が分り自分の技倆ぎりょう未熟みじゅくさに比べて余りにも懸隔けんかくがあり過ぎるのに驚き今までそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふと見ると、可愛いらしく着飾った十三くらいの女の子が、斯道しどうの名手と一緒に踊っている。別に二人の一組イザイーが、娘の前で踊っている。そして、壁ぎわの椅子には、娘の母親がかけているんです。
みなケプロンの推薦で赴任した斯道しどう一流の人士であった。
と赤石さんは斯道しどうの最高権威をもって任じている。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
柳剛流りゅうごうりゅうをよく使うことで、斯道しどうのものに相当な敬意を払われている湧井道太郎わくいどうたろう——四、五日まえに、柳川の使者についてきて徳島城にいあわせた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治十一、二年頃なりし。神波即山君が官を罷めてもっぱら斯道しどうに従事せらるる事になり月に一、二回ずつ竜岡吟社に会を開き鷲津先生が詩経の講義あり。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
して著述せるものに御座そろって本書をあまねく一般の家庭へ製本実費に些少さしょうの利潤を附して御購求ごこうきゅうを願い一面斯道しどう発達の一助となすと同時に又一面には僅少きんしょうの利潤を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも維新後、能楽没落のただ中に黙々として斯道しどう研鑽けんさんを怠らなかった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
其費用の如きは迂老が斯道しどうの為め又先人へ報恩の為めにたすく可しとて、持参したる数円金を出し懇談に及びしかば、主人も迂老の志をよろこびいよ/\上木と決し、其頃はもとより活版とてはなく
蘭学事始再版序 (新字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
危険を忘れてしまったのであろうか? これは斯道しどうの平青眼、鋩子先を紋也の肩口へさしつけ、引くままに引かれて庭の奥へ、ジリリ、ジリリ、ジリリ、ジリリ、これも刻み足をして追って行く。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくは一つ家根やねに住み、一つかまの御飯をたべ、時には苦労を共にし、また楽しみをも共にし、ひたすらお互いに斯道しどうを励んだことで、今日といえども、私は既に七十有余の高齢に達しておりますが
その小説について、斯道しどうに関係ある我々の見逃みのがあたわざる特殊の現象が毎月刊行の雑誌の上に著るしく現れて来た。それは全体の小説が芸術的作品として、或る水平に達しつつあるという事実である。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このしょ今にいたるもなほ斯道しどう研究者必須ひっすの参考書たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)