斑紋はんもん)” の例文
あざのようにあった、うすいさび斑紋はんもんも消えているし、血あぶらにかくれていたにえも、朧夜おぼろよの空のように、ぼうっと美しく現れていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死体にはの毛で突いた程の外傷もなく、鬱血うっけつも、斑紋はんもんも、苦悶の跡も無いばかりでなく、毒物で殺したという疑も絶対にありません。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その褐色かっしょくに黒い斑紋はんもんのある胴中は、太いところで深い山中さんちゅうの松の木ほどもあり、こまかいうろこは、粘液ねんえきで気味のわるい光沢こうたくを放っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや大して沢山はない。斑紋はんもん癩に天疱瘡てんほうそう、断節癩に麻痺癩がある。丘疹きゅうしん癩に眼球ろう、獅子癩に潰瘍かいよう癩、だがおおかたは混合する」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに、彼の胸のあたりの砂の上に、どす黒い斑紋はんもんが浮出して、それがジリジリと、少しずつ拡がっている様に見えるではないか。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水泳などに行って友だちや先輩の背中に妙な斑紋はんもんが規則正しく並んでいて、どうかするとその内の一つ二つの瘡蓋かさぶたがはがれて大きな穴が明き
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その表に雨気のあるきららが浮いています。星は河豚ふぐの皮の斑紋はんもんのように大きくうるんで、その一々の周囲の空を毒っぽく黄ばんでみせています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一番左の端にある遊園で、樹木のしげった弁天の境内けいだいは、蝶の翅に置く唯一の美しい斑紋はんもんとも言われよう。しかしその翅の大部分はまだ田圃たんぼと沼地だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この辺には灰色の斑紋はんもんあるナーという鹿が居りまして、多い所には二百疋も三百疋も谷間に群がって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
動物のからだの斑紋はんもんが周囲の有様によって変ることに注目して、その種類の変ってゆくことを考えたのです。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
南国なんこくの空は紺青こんじょういろに晴れていて、蜜柑の茂みをれる日が、きらきらした斑紋はんもんを、花壇の周囲まわりの砂の上に印している。厩には馬の手入をする金櫛かなぐしの音がしている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
巨獣の斑紋はんもんのように二筋三筋キラリと光って、夏の富士にして始めて見るところの、威嚇いかく的な紫色が、抜打ぬきうちに稲妻でもひらめかしそうに、うつぼつと眉に迫って来る。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
首里しゅりからすぐ近い別荘の前の海で、手ずからすくられたものばかりというのに、名も附けきれないほどの何百という種類で、形よりも色と斑紋はんもんの変化が目ざましく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして何よりもナオミと違っていたところは、その皮膚の色の異常な白さです。白い下にうすい紫の血管が、大理石の斑紋はんもんおもわせるように、ほんのり透いて見える凄艶せいえんさです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは斑紋はんもんのあざやかなたくましい虎であったが、隻方かたほうの眼が小さくすがめになっていた。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大体表皮は厚くして「ふし」(斑紋はんもん)が長い。深い山の中腹以上に育つだという。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこからあふれ出た水がかわききった縁側板に丸い斑紋はんもんをいくつとなく散らかして。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
白い斑紋はんもんのある弾力性の皮膚をそなえている毛のないまっ裸の桃色の蚯蚓みみずを。
首筋から肩、肩から背中にかけて、紅色の大きなあざのような斑紋はんもんがぽつりぽつりと一面にできているのだ。裸体になって見ると色の白い彼の肌にそれは牡丹ぼたんの花弁のようにバッとあかく浮き上っている。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
三十五六歳の、無髥むぜんの男だ。これという特徴もない。その顔の所々に、熱い蝋にやけどをして、異様な斑紋はんもんが現れている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その表に雨気のあるきらゝが浮いています。星は河豚の皮の斑紋はんもんのように大きくうるんで、その一々の周囲の空を毒っぽく黄ばんで見せています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところどころ無氣味な斑紋はんもんはありますが、それも大したこともなく、見た感じは、それほどみにくくもなつて居りません。
なしの葉に病気がついて黄色い斑紋はんもんができて、その黄色い部分から一面に毛のようなものが簇生ぞくせいすることがある。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殺人であって自殺ではないことは、のちに隧道の中から探し出された轢断屍体れきだんしたい咽喉部いんこうぶに残る紫色の斑紋はんもんから明らかなことだった。扼殺やくさつ——つまり喉を締めたのだ。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あざやかな斑紋はんもん、がっしりと太い四肢しし、生きているような長い尻尾しっぽ、まっ青に光る両眼、もう見違いはない。ひょうだ。豹が野放しで歩いているのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それはこの部屋にはむしろ不似合なほどの大暖炉ストーブだった。まわりは黒とあいとの斑紋はんもんもうつくしい大理石に囲われて居り、大きなマントルピースの上には、置時計その他の雑品が並んでいた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黄色に黒く斑紋はんもん美しい猛虎もうこと、まっ黒な大熊とが、双方後肢あとあしで立ち上がって、お互いの肉に鋭いつめをうち込みながら、まっ赤な口、まっ白なきばみ合わせ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本当の品川は真面目顔、もう一つの方はニヤリと笑って、無修正の、ボタボタと斑紋はんもんをなした陰影が、暗闇の二人に向って、ニューッと迫って来る感じだった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
明智は大切だいじ相に麻のハンカチを解いて、色々な形のびんだとか、ニッケル製の容器だとかを、そこに並べた。それらのなめらかな表面には沢山の黒い斑紋はんもんが現れていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼らは人間の白毛染め薬を用いて、豹の斑紋はんもんを巧みに染めつなぎ、動物のからだ一面に虎斑とらふを描き上げたのだ。人々は豹を探している。虎を探しているのではない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
照子は顔から胸から壁の様に白粉を塗られて、ほとんど皮膚の生地は見えぬ程になっていたが、それでも、白粉のひび割れた箇所、手足などに、毒々しく、紫色の斑紋はんもんが現われていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ガラス板のそとに、彼女を送迎する魚類の夥しさ、その鮮かさ、気味悪さ、そして又美しさ、雀鯛すずめだいひし鯛、天狗てんぐ鯛、鷹羽たかのは鯛、あるものは、紫金しこんに光る縞目、あるものは絵の具で染め出した様な斑紋はんもん
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その金色のからだに、黒い斑紋はんもんが、いっぱいならんでいます。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)