敷衍ふえん)” の例文
そして其趣意を敷衍ふえんして新聞記者に演述したものと見える。俺はあの記事を見たときくすぐつたいやうな感じがしてたまらなかつた。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
身は身として、心は皆妹のために与えていくつもりでございますとね。この意味をもっとあなたが敷衍ふえんして申し上げたらいいでしょう
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いづれ僕は税率改正の意見を然るべき政治家に話す積りだ。無論同時に二三の新聞の記者にも話して遣る。彼等に敷衍ふえんさせて遣るのだね。
このせつ敷衍ふえんして日本美術史にほんびじゆつし劈頭へきとうにこれを高唱かうしやうしたものであるが今日こんにちにおいても、なほこのせつしんずるひとすくなくないかとおもふ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
この記事を敷衍ふえんしてバーンスはなお次のような記述を行っている。懸賞のことが広告されたあくる日、無名の手紙が検屍官の許に届いた。
そこに精述と敷衍ふえんとがあるにかかわらず、美の理解においては、ラスキンは彼よりも常に上であったのを否定することができぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
余、すなわち有志の請いに応じて、一夕、霊魂の通俗談を試みたり。今、その考案を敷衍ふえんして一冊子となし、題して『霊魂不滅論』という。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その一端が“豆と豆がら”の小ミダシで書いた正成諫奏かんそうであるが、あれもわずかな史拠を敷衍ふえんしたのでつまりは私の正成観が主なのである。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駒井が読みふけったこの物語は、前の米国史の頁を、もう少し細かく、温かく、滋味豊かに敷衍ふえんしてくれたといってもよい物語でありました。
如来の説かれた小さな原本によってその説を敷衍ふえんするためこの窟に坐禅せられたので、その坐禅の有様を形容して龍宮に入ったというのか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
或いはそれを敷衍ふえんし、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむすびついていると思う。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『曾我物語』にはこの事を敷衍ふえんして李将軍の妻孕んで虎肝を食わんと望む、将軍虎を狩りてくわれ死す、子生れ長じて父の仇をもとめ虎の左眼を射
真にいまだ先覚者の説を翫味がんみせずしてこれを誤解敷衍ふえんするあり、あるいはその反対の人あえて主唱者の意を酙酌しんしゃくせずしてこれを誤解弁駁するあり
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
ペニイのことから敷衍ふえんされてある点ね。これは作品が本ものか本ものであるママか、本ものになれる資質かなれない資質かという位機微にふれた点です。
なお敷衍ふえんしていえば、あなた方はまず公式を頭の中に入れて、その application が必要である。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
以下の三巻に現われるこれらの根本的なものは、多く述べきたったものの変形であり敷衍ふえんであるとも見られる。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今はある何かの観念を過度に敷衍ふえんすべき折りではない。けれども、絶対に遠慮と制限とを守り、かつ憤懣ふんまんの情を覚えながらも、吾人は一言せざるを得ない。
のち敷衍ふえんして『国民之友』に掲出する十回。さらに集めて一冊となさんと欲す、遷延せんえん果さず。このごろ江湖の督責とくせき急なるを以て、咄嗟とっさの間、遂にこれをす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
少しは傍から注解し敷衍ふえんする者がおらぬと、話が人の胸を打つまでには、はずんで来ぬものであったらしい。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一九〇二年のボンナール『独仏高等兵学の方式について』には「ジョミニーの論述する如き一般原則から敷衍ふえんせる戦法の系統は謬妄、危険で絶対に排斥すべきもの」
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
彼はちょっと黙って、その思想を敷衍ふえんしたものかどうか考えた。しかしそれ以上言うべきことを見出さなかった。そしてしばらく黙った後、激した調子で言い出した。
感の鈍い庸三はそれを分明に考えたわけではなかったけれど、敷衍ふえんすればそうも言えるのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
内容がやや戯曲的であるから、いろいろ敷衍ふえんして解釈しがちであるが、これも農民のあいだに行われた労働歌の一種で、農婦等がこぞってうたうのに適したものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
晩翠が出て初期の詩形をある点まで急速に敷衍ふえんし、整頓せいとんして、ある一つの決著けっちゃくをつけた。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
驚愕きょうがくの色に流眄ながしめをくれて、「ところで君は、この事件の疑問一覧表を作ってくれたはずだったね。では、その一箇条一箇条の上に、僕の説を敷衍ふえんさせてゆくことにしようじゃないか」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わたくしは忌憚きたんなき文字二三百言をけづつて此に写し出した。しかし其体裁ていさい措辞そじは大概窺知きちせられるであらう。丁卯は慶応三年である。大意は「人君何天職」の五古を敷衍ふえんしたものである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
更に私をして敷衍ふえんせしむれば、私は進化論を信ずる者ではないが、「キャッキャッ」という音は実は人類の祖先だと信じられている猿の言葉から進化したものである——云々と、私は講演したのだが
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「もうよせ。己は其問題をさう敷衍ふえんして見たくはないのだ。」
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
敷衍ふえんするを要す)
或いはそれを敷衍ふえんし、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむすびついていると思う。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
といってある。かかる小説談がもととなりて、これにいろいろ敷衍ふえんし増飾して、狐の怪談ができたに相違なかろう。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まして、多計代が越智一人への軽蔑を多計代らしく敷衍ふえんして「男なんて」というとき、伸子は漠然と恐怖を感じた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
アヴドーチャがかくべつ熱心に耳をすまし始めたのをちらと見ると、ゾシーモフはいっそうこのテーマを敷衍ふえんした。
櫻田門的なところ迄が吉田松陰の作用といふことでは、小説化してそれを敷衍ふえんすることにはぼくは氣乘りがしない、つまり書けないといふことになるね。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
彼の考えを敷衍ふえんして言えば、経験によって明確に否定されないすべての可能性は、すべて真でありうることを認容してかからねばならないというのである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
道義に立脚した全くの戯作げさくでなく、それぞれかつて実在した事蹟に拠って敷衍ふえんしたものなれば、要は時に臨んで人を感ぜしめた一言一行を称揚したまでで
なお敷衍ふえんしていえばあなた方はまず公式を頭の中に入れて、その application が必要である。
おはなし (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗匠そうしょうは意外に早く世を去り、旧式の教育を受けた俳諧師はなお国内にあふれていて、いずれも自分自分の器量だけにしか、これを解説し敷衍ふえんすることができなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この仮説を敷衍ふえんすれば、熱い酒に冷たい豆腐のひややっこ、アイスクリームの直後のホットカフェーの賞美されるのもやはり一種の涼味の享楽だという事になる。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼のふるさとの先輩葛西善蔵の暗示的な述懐をはじめに書き、それを敷衍ふえんしつつ筆をすすめた。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その中に指示せられたる各項を敷衍ふえん詳解して、小学および家庭における児童をして、一読たちまち各種の妖怪を解し、迷信を悟らしむるの目的をもって、本書を講述したり。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この吸水力が果して精力を表わすか否を試験した上、いよいよエジプト人のいう通りならば、それより敷衍ふえんして婦女精力計という精細な器械を作り出さん事を国家の大事として述べて置く。
実をいうと敬太郎は自分がこれから話す顛末てんまつを、どうして握る事ができたかの苦心談を、まず冒頭に敷衍ふえんして、二つある同じ名の停留所の迷った事から、不思議ななぞきて働らく洋杖ステッキ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別な作者の小説「希望館」についての感想を敷衍ふえんしつつ、嘗て或る時期に
モスコフスキーはこれを敷衍ふえんして「婦人は微分学を創成する事は出来なかったが、ライプニッツを創造した。純粋理性批判は産めないが、カントを産む事が出来る」
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いくらついでにする演説でもそれではあまり情ない。からこの三四頁を口から出まかせに敷衍ふえんして進行して行きます。敷衍しかたをあらかじめ考えていないから、どこをどっちへ敷衍するか分らない。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
サウシーの『コンポステラ巡礼物語』はこれを敷衍ふえんしたものだ。くだんのサンチアゴ大尊者は、スペイン国の守護尊として特に尊ばれ、クラヴィホその他の戦場にしばしば現われてその軍を助けたという。
その「俳諧」の中に含まれた「さび」や「しおり」を白日の明るみに引きずり出してすみからすみまで注釈し敷衍ふえんすることは曲斎的なるドイツ人の仕事であったのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今ここに敷衍ふえんすべき余地もないのであるが、要するにこれは俳諧には限らずあらゆるわが国の表現芸術に共通な指導原理であって、芸と学との間に分水嶺ぶんすいれいを画するものである。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
このような変痴奇論を敷衍ふえんして行くと実に途方もない妙な議論が色々生まれて来るらしい。
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)