数々かずかず)” の例文
旧字:數々
「とんでもない。どうか上座にいてください。打虎だこ武松のご高名は雷のごとしで、義に強い数々かずかずなお噂もつとうかがっております」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、ともだちとうでみ、調子ちょうしをそろえて、労働歌ろうどうかをうたった。そのこえひびあいだは、うつくしい数々かずかず幻想げんそうかびました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
おわりのぞみ、私の妻もあなたのわれ負わるゝ数々かずかずの重荷に対し、真実御同情申上げる旨、呉々くれぐれも申しました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたくしちち旗色はたいろわる南朝方なんちょうがたのもので、したがってわたくしどもは生前せいぜん随分ずいぶん数々かずかず苦労くろう辛酸しんさんめました……。
それは今まで数々かずかずの夢の中で、彼をぽっとさせた、あの、女たちの面影のように優しいものだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
叔母はわれを引き止めてまたもや数々かずかずの言葉もて貴嬢を恨み、この恨み永久とこしえにやまじと言い放ちて泣きぬ、されどいずこにかなお貴嬢をずる心ありて恨めど怒り得ぬさまの苦しげなる
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なほ数々かずかず申上度まをしあげたく存候事ぞんじさふらふことは胸一杯にて、此胸の内には申上度事まをしあげたきことの外は何も無御座候ござなくさふらへば、書くとも書くとも尽き申間敷まをすまじくことつたなき筆に候へば、よしなき事のみくだくだしく相成候ていくらも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
倉地の気分がすさんで行くのももっともだと思われるような事柄を数々かずかず葉子は聞かされた。葉子はしまいには自分自身をまもるためにも正井のきげんを取りはずしてはならないと思うようになった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、鎌倉戦利品の数々かずかずを、献上目録としてさし出した。また千種忠顕個人へは、べつな一目録が、手土産として、贈られた。
そのとき、きさき大事だいじにされた、数々かずかず宝石ほうせきをごらんになって、このあお宝石ほうせきくだいて、てつといっしょにかして、かたちをなくしてしまおうとおかんがえなされたのです。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのほか言葉ことばにつくせぬ数々かずかず難儀なんぎなこと、危険きけんなことにわれましたそうで、歳月つきひつとともに、そのくわしい記憶きおく次第しだいうすれてはっても、そのときむねにしみんだ
「はい。そのかん、朝廷方のきびしい御監視をくぐるため、ことばにも現わせぬ苦心は数々かずかずでござりましたが」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あか宝石ほうせきや、ダイヤモンドの数々かずかずが、自分じぶんらのてのひらうえかがやいているさま想像そうぞうしました。みんなは、みちいそぎました。あかまちが、やがてかれらのまえにあらわれたのです。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
指物師の上手に作らせた五尺ほどな小棚の多い水屋棚みずやだなを作らせ、それに数々かずかずな珍味佳肴かこうを入れ、爼板まないた庖丁ほうちょうのたぐいまで、ふさわしいのを添え、或る折、田沼の慰めに送ったらしい。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)