懇願こんがん)” の例文
私があれほど教えてくださいと懇願こんがんしていることに博士がこたえてくださらない限り、私は博士の有ること無いことを書きなぐって
ほんの心得だけでもと度々懇願こんがんするのだった。大した負担になることでもないし、和服姿の小柴さんと並んで坐れる仕事だ。快く折れよう。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
成経 重盛しげもり懇願こんがんしたからです。しかし結果は残酷ざんこくないたずらと同じになりました。ちょうど中をへだてた一つのおりに親子のけものをつなぐように。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
数か月にわたる議論と懇願こんがんと、叱責しっせき慰撫いぶとが続いた後、父親もとうとうわが子の熱心に動かされずにはいなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
保吉はしばらく待たされたのち懇願こんがんするようにこう云った。主計官は肩越しにこちらを向いた。そのくちびるには明らかに「すぐです」と云う言葉が出かかっていた。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正当に警戒けいかいし、懇願こんがんして見ても駄目だめでしたら、妻自身も移り気の振りをして見せしめてやりなさい。それでもだめならあきらめるか、別れるか、どちらでも。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
病人は暮方から熱が高まり、夜は悪夢にうなされて譫言たわごとを言い、屡〻しばしば水をもとめた。明方に漸く寝しずまるのが例であった。附添の男は和尚に祈祷きとう懇願こんがんした。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すなわち紹介しょうかいを求めて軍艦奉行ぐんかんぶぎょうやしき伺候しこうし、従僕じゅうぼくとなりて随行ずいこうせんことを懇願こんがんせしに、奉行はただ一面識いちめんしきもと容易たやすくこれをゆるして航海こうかいれつに加わるを得たり。
あるいは依頼いらい懇願こんがんするがごとく、あるいは諄々じゅんじゅんとして説くように、しきりに何かを明かしている弥生。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少しの反抗もない警戒に、一懇願こんがんをまじえたような目であった。どうしてそのように近々と私たちを見るのかと、いぶかるような心持も感じられぬことはなかった。
いろいろ懇願こんがんしたあげく、二里四方もくという鼻をゆずってやることに相談がきまりました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「発信不許可の件其他重要の件につき一度御面謁を賜り御伺い御願いさせていたゞき度、恐入ります、一度至急に御呼出の上、御会いいたゞけますよう、伏而ふして懇願こんがんいたします」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その中から、一群れの老民が道に拝跪はいきしながら進みでて、曹操の馬前に懇願こんがんした。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
島田先生、いっこう竜之助の懇願こんがんに取合いがなく、閉眼沈思の姿でありますから
久しい前から紋兵衛の邸へ異形いぎょうの怪物が集まって来て、泣いたりおどしたり懇願こんがんしたり、果ては呪詛のろいの言葉を吐いたり、最後にはきっと声を揃え、「返してくだされ! 返してくだされ!」と
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叮嚀ていねい懇願こんがんした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は新聞紙利用の脅迫状を、蠅の木乃伊ミイラとともに提出し、主人の懇願こんがんすじをくりかえして伝えて、保護方ほごかたを頼んだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにも一度この島に来なければならないことになれば、わしは上役に懇願こんがんして、このありがたくない役目をだれかに代わってもらうこともできるだろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
姫の切なげな懇願こんがんに昭青年は前後のわきまえも無くなって「では」と言って姫を川の中へ連れて入りました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
百川はことさら道鏡に懇願こんがんして、その栄誉ある法王の生国河内の国守に任命してもらった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかれども先生は従来じゅうらい他人の書にじょたまいたること更になし、今しいてこれを先生にわずらわさんことしかるべからずとこばんで許さざりしに、ひそかにこれをたずさえ先生のもとに至り懇願こんがんせしかば
しかし、京都は徳川家とくがわけ勢力圏内せいりょくけんないではない。ぜひお手配てはいをわずらわしたい、との懇願こんがん。事件、人物がまた容易よういならぬ人、なんとへんじをしましょうかと、三人の旗本はたもとがこもごも申したてた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成経 野武士らはわしの懇願こんがん下等かとう怒罵どばをもって拒絶した。そして扉を破って闖入ちんにゅうし、武者草鞋むしゃわらじのままでわしのやかた蹂躪じゅうりんした。わしはすぐに飛び出て馬車に乗った。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いつになくカビ博士が下手から出て、僕に懇願こんがんせんばかりであった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、懇願こんがんして、助命を乞い、後に自分の家臣とした。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、信長へ懇願こんがんしている気持も充分つつまれていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、懇願こんがんしてゆるされた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)