愈〻いよいよ)” の例文
方々彷徨さまよったあげくに、このまま帰宅してはどうにも引込みのつかない落莫たる思いがたかまり、愈〻いよいよ小笠原を訪ねる決心を堅めると
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
愈〻いよいよ中国出陣の日も近いにちがいないと感じたので、姫路へ帰る予定を急にえて、単身その脚で山陰へ廻ったものであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『これで愈〻いよいよ後生ごしやうも悪くはないやうなものだ』などと云ひ云ひ、石段を下りて無明の橋のへんに差しかかつた頃であつた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
愈〻いよいよ日常を単純にしようと思うの。生活の様々な経験はそういうためにいつしか大変私のためになっているのが愉快です。
芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈〻いよいよ加わった。基督キリスト教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
愈〻いよいよ出かけて行けば、生半可な好加減なことが出来ぬ、力の出せるだけ出す、結果のよしあしなど考えて居られぬ
いきおいを得た山名やまな方は九月朔日ついたちつひに土御門万里つちみかどまでの小路の三宝院に火をかけて、ここの陣所を奪ひとり、愈〻いよいよ戦火は内裏だいりにも室町殿にも及ばう勢となりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そんなこんなで私は愈〻いよいよイヤ気がさして、二七日の日に一と晩泊りで帰省した折、「そのうち会社を罷めるかも知れない」と、叔父にらしたくらいでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
利生りしょう相見あいみえ豊年なれば、愈〻いよいよその瑞気ずいきを慕ひて懈怠けたい無く祭りきたり候。いま村にて世持役よもちやくと申す役名も、是になぞらへて祈り申す由に候。但し此時このとき由来伝へはなし有之これあり候也(以上)
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すいほど迷う道多くて自分ながら思い分たず、うろ/\するうち日はたち愈〻いよいよとなり、義経袴よしつねばかま男山おとこやま八幡はちまんの守りくけ込んでおろかなとわらい片頬かたほしかられし昨日きのうの声はまだ耳に残るに、今
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幼稚な正岡が其を振り廻すのに恐れをしていた程、こちらは愈〻いよいよ幼稚なものであった。
正岡子規 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愈〻いよいよだ! 健は恐ろしいような、心臓のあたりをくすぐられるような気持になっていた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
たまのようだといわれたその肌は、年増盛としまざかりの愈〻いよいよえて、わけてもお旗本の側室そくしつとなった身は、どこか昔と違う、お屋敷風の品さえそなわって、あたか菊之丞きくのじょう濡衣ぬれぎぬを見るような凄艶せいえんさがあふれていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
三たび用ひて愈〻いよいよたくみ。詩の窮り無きを信ず。(老学庵筆記、巻十)
手を取られて、苫の中に入りましたものの、お蝶は屋根の低い小舟の中の世帯しょたいをながめて、愈〻いよいよ、腑に落ちない顔つきです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禅僧は思案にくれたあげく、医者のところへ金策きんさくにでむいた。医者の方では愈〻いよいよ坊主も発狂したんじゃあるまいかと薄気味わるくなったぐらいのものである。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
若い二人の恋が愈〻いよいよ人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を説勧ときすすめて、この一伍一什いちぶしじゅうを故郷の父母に報ぜしめた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
呼吸しなければならないことも愈〻いよいよ明瞭となっているし、来年は、大変たのしみです。
八月になりますとようやく藤ノ森や深草ふかくさのあたりにいくさの気配が熟してまゐり、さてこそ愈〻いよいよ東山にも嵯峨さがにも火のかかる時がめぐつて来たと、わたくしどももひそかに心の用意を致してをりますうち
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
愈〻いよいよ雪子に対して済まなく感じられて来るのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
のみならず、あの一敗を口惜しがって、母子してここまで自分の後を慕って来たところを見ると、愈〻いよいよ、負けずぎらいな母子の恨みの程が怖ろしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絶望なぞと一口に言っても、もともと言いたてるほどの望みすらないところへ、それが愈〻いよいよ絶えたとなると一体どういうよどみきった空しさだけが残るだろうか
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
芳子は愈〻いよいよ困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
野上さん愈〻いよいよ彼女の外へ外へと行く傾向に失望したらし。六年目の対面であった。
零落れいらくした旧主に高利の金を貸し、その抵当かたに、旧主の家族を追い出して、旧主の家にそちが住んでみい、世間はそちを、愈〻いよいよ、悪鬼か蛇蝎だかつのようにいうぞ
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は愈〻いよいよ蒼白となって空気を舐めるような格好をしながら胸苦しさを押えているようであったが、やおら立ち上って麻油の腰にすがりつくと、自分の方でずどんとぶっ倒れて
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
愈〻いよいよ閉口です。でも何とかして折々息吸いにゆきたいとは思って居ります。
それから第二期の——大坂落城と世間の趨勢すうせいを見ては、愈〻いよいよ彼自身の向う道も、胸底に決していたに違いない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらく「作家の感想」は愈〻いよいよ感想に止っているでしょうし。
愈〻いよいよ、知れないとなると、城太郎はまた、ベソを掻き出したが、ちょうど今朝は、大蔵が旅立ちの日なので
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをぐっともって重く愈〻いよいよ慎重にと進んでゆくあの気持。
こちらの文のお返しに、白紙などこされて、なんとも小憎い一座ではある。このまま黙って引っ込んでいては、愈〻いよいよ、あの公達輩きんだちばらをよい気にさせて置くようなもの。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて愈〻いよいよ十七日の物語り。
母のすることを見——又八の変り方を見て来て——彼女は自分が最初から心のうちで、武蔵の方を選んでいたことが間違いでなかったことに、愈〻いよいよ信頼を深くしていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ののしるために、往来はよけい足を止め、また愈〻いよいよ、笑い声を増すことが、お杉婆には分らぬらしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
念のために、万太郎がもう一応こう言ってみましたが、相手が立ち竦んだまま返辞もせぬので、さてこそ、愈〻いよいようさんくさい曲者と、いきなり相手へ向って飛びかかりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんとみよしを寄せて来たのは、これも今では、四十男の分別ざかりとなりながら、今もって、いや愈〻いよいよもって、自分を悪党の一人前に仕立てすました阿能十こと、阿能十蔵であった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼には愈〻いよいよ、世間から超然とした学識が蓄えられた。ひそかに誇るところが高かった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真雄へお吩咐いいつけ下さるようにとお願いしておいたところ、快く御承諾で、其後、大小一揃い、真雄方へ、御註文があったという知らせで、わしも面目めんぼくを施し、真雄に取っても、愈〻いよいよ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京を立つ朝、馬には乗った事もないから恐いなどと云っていた事を考え合せると、愈〻いよいよもって、この豹の子は油断がならない。下手をしたら手を噛まれるぞと、警戒を抱きはじめた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、城主別所小三郎以下の切腹と開城とは、愈〻いよいよ、正月十七日と決定した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その武蔵が、愈〻いよいよ、小倉へ向って立つということを、きのう九度山で聞いた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富士川の渡舟わたしにかかると、愈〻いよいよ追い越されたひらきは取り戻せなくなった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈〻いよいよ、大君の防人さきもりたる武士もののふの本道を意志につよめて、同時に
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「猿! そちは愈〻いよいよ、おれの一刀を、細首に望んでいるのか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三平は、土をかぶせられて、愈〻いよいよ感情的に
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あっ……では愈〻いよいよ……今日! 今日!』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あすは、愈〻いよいよ、十七日」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈〻いよいよ、外濠へ出た。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈〻いよいよいかん」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)