怒罵どば)” の例文
もしか敵役かたきやくでも出ようものなら熱誠をめた怒罵どばの声が場内に充満いっぱいになる不秩序なにぎやかさが心もおどるように思わせたのに違いない。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
己は自分の隣に座を占めて、頻りに怒罵どばを浴びせて居た一人の酔漢が、黒ん坊の姿を見ると、首をちゞめて小さくなってしまったのに心付いた。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は途々みちみちこの一言いちごんを胸に幾度いくたびか繰返した、そして一念はしなくもその夜の先生の怒罵どばに触れると急に足がすくむよう思った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
うりを投じて怒罵どばするの語、其中に機関ありといえども、又ことごと偽詐ぎさのみならず、もとより真情の人にせまるに足るものあるなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれど、市助には、秀吉の怒罵どばが、そのまま、秀次という姉の子にたいしての、実は、大きな愛の現われ——に聞えた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅瀬はしゃんしゃんと飛沫ひまつを切り、かくて河を三分の一あたりまで突破して来た時に、後ろから、かなりの狼狽ろうばい怒罵どばとを含んだ叫び声が起りました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その説常に講究する所にして、つぶさに対策に載するが如し。ここを以て幕吏といえども甚だ怒罵どばすることあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
止むを得ず大次郎も、腰の女髪兼安に、暮れ近い薄日を映えさせて、時ならぬ剣林、怒罵どば、踏み切る跫音、気合いの声、相打つ銀蛇ぎんだ、呼吸と、燃える眼と——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
成経 野武士らはわしの懇願こんがん下等かとう怒罵どばをもって拒絶した。そして扉を破って闖入ちんにゅうし、武者草鞋むしゃわらじのままでわしのやかた蹂躪じゅうりんした。わしはすぐに飛び出て馬車に乗った。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
嬉笑きしょうにも相感じ怒罵どばにも相感じ、愉快適悦、不平煩悶はんもんにも相感じ、気が気に通じ心が心を喚起よびおこし決して齟齬そご扞格かんかくする者で無い、と今日が日まで文三は思っていたに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
母の怒罵どばをさける為と、万一を心頼みにして、「やっぱり合宿かなア。もう一度、捜してくらア」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「だから貴様達は馬鹿だと云ふんだ」突如落雷の如き怒罵どばの声は一隅より起れり、衆目しゆうもく驚いて之にそゝげば、いま廿歳前はたちぜんらしき金鈕きんボタンの書生、黙誦もくじゆしつゝありし洋書を握り固めて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
九万ハ性放誕不羈ふき嗜酒任侠ししゅにんきょうややモスレバすなわチ連飲ス。数日ニシテ止ムヲ知ラズ。ヤヽ意ニ当ラザレバすなわチ狂呼怒罵どばシテソノ座人ヲ凌辱りょうじょくス。マタ甚生理ニつたなシ。家道日ニ日ニくるシム。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕の耳には亡父なきちち怒罵どばの声が聞こえるのです。僕のには疲れはて身体からだを起して、何も知らない無心の子をいだき、男泣きに泣きたもうた様が見えるのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
受けよう怒罵どば打擲ちょうちゃくも辞する所にあらずという覚悟かくごの上で来たのであったがそれでも長くしのんだ者は少く大抵は辛抱しんぼう出来ずにしまった素人しろうとなどはひと月と続かなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いかに孟賁烏獲もうほんうかくの腕力に富むもその勢いを制するを得んや。ローマ社会の文弱におもむくや、いかに老カトーがこれを怒罵どばし、これを叱咤しったし、その鉄鞭てつべんを飛ばすもこれをいかんせんや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
めい、止めろ」と叫びざま、オォルを投げだすや、振返って、ぼくをめつけ、「貴様、一人で、バランスをこわしていやがる。そんなに女が気になるか」ぼくには一言もない怒罵どばでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おもてもふらず、佐久間勢の槍隊のうちへ、これも多くは槍をふるッて突入した。からみ合う長槍の響きは、怒罵どば絶叫ぜっきょう、馬のいななきと入り交じって、それらことごとくが、血の音、血の声と聞かれた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、われ性激烈、怒罵どばに短し、務めて時勢に従い人情に適するを主とす〔それしかり、にそれ然らんや〕。ここを以て吏に対して幕府違勅のむを得ざるを陳じ、しかる後当今的当の処置に及ぶ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
笑声嬉々ききとしてここに起これば、歓呼怒罵どば乱れてかしこにわくというありさまで、売るもの買うもの、老若男女ろうにゃくなんにょ、いずれも忙しそうにおもしろそうにうれしそうに、駆けたり追ったりしている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もって聞えていたことは前述のごとくややもすれば怒罵どばが飛び手が伸びた教える方も盲人なら教わる方も盲人の場合が多かったので師匠にしかられたり打たれたりする度に少しずつ後ずさりをし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
流しふうふう云い出した元来が自分免許の芸でおだてられているうちはよいが意地悪くまれたらアラだらけであるそこへ無遠慮ぶえんりょ怒罵どばが飛ぶから稽古に事寄せてすきもあらばと云うようなだらけた心では辛抱しんぼうしきれず次第に横着になりいくら熱心に教えてもわざと気のない弾き方を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)