御影石みかげいし)” の例文
門から玄関までの間に敷き詰めた御影石みかげいしの上には、一面の打水がしてあって、門の内外には人力車がもうきっしり置きならべてある。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昔通りのくぐり門をはいって、幅の狭い御影石みかげいしの石だたみを、玄関の前へ来ると、ここには、式台の柱に、銅鑼どらが一つ下っている。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「二十三年前に盜んだ御用金三千兩は、濱町河岸の石置場、百貫あまりの御影石みかげいしの下だ——左の小さいくさびを取ると、子供にも取出せる」
第一内地のように石を敷かない計画らしい。御影石みかげいし払底ふっていなのかいと質問して見たら、すぐ、冗談云っちゃいけないとやられてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして土を流して岩の骨があらわれ、それがいわゆる御影石みかげいしであったゆえに、くだけて砂になって浜辺を清くしたのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なるほど銀行家の家邸いへやしきを買つたと云ふだけあつて、御影石みかげいしの門柱には、鉄格子の扉がついて、玄関まで砂利じやりが敷きつめてある。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
降り立った二人の前に、広い石畳いしだたみと、御影石みかげいしの門柱と、締め切ったかし模様の鉄扉と、打続くコンクリートべいがあった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
左手へ曲ったそこに、いよいよ御影石みかげいし舗道ほどうが見えて……、もう歩いているのももどかしく、私は走り出しました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
また例のが始まったと、彼女は苦笑しながら、靴のかかとの踏み加減を試すために、御影石みかげいしの敷石の上に踵を立てて、こちこち表門の方へ、五六歩あゆみ寄った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は一葉の略図面を皺くちゃにもみつぶして、御影石みかげいしで出来た三階建てのS——中学校の玄関を訪ねた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
それまで西洋人の住まっていたらしいことは、そのささやかな御影石みかげいしの間にめこまれた標札にかすかに A. ERSKINE と横文字の読めるのでも知られる。
あいびき (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
寒気は近ごろ非常に厳しいので、氷の上に降り積む雪が御影石みかげいしのように固くなっている。こんなことさえなければ、船長の足跡ぐらいはすぐに見つけられたであろう。
あそびなかまの暮ごとに集いしは、筋むかいなる県社乙剣おとつるぎの宮の境内なる御影石みかげいしの鳥居のなかなり。いと広くてつちをば綺麗きれいに掃いたり。さかき五六本、秋は木犀もくせいかおりみてり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御影石みかげいしだたみの路を十間ばかりも行くと、冠木門かぶきもんがあって、そこから中庭になる。あまり樹の数をおかない上方かみがたふうの広い前栽せんざいで、石の八ツ橋をかけた大きな泉水がある。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
清水川という村よりまたまた野辺地のべちまで海岸なり、野辺地の本町ほんまちといえるは、御影石みかげいしにやあらんはば三尺ばかりなるを三四丁の間き連ねたるは、いかなる心か知らねど立派なり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこには、これから架橋工事が始まるらしく四角にった御影石みかげいしが幾つもごろごろと置いてあった。彼女は彼の手を掴んだままその一つに腰を下ろした。彼もその傍らに腰を据えた。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
太い御影石みかげいしの門柱には、「玉屋」とただ二字だけ彫ったブロンズの標札が埋めこんであったが、これぞいまラジオ受信機の製造で巨万の富を作ったといわれる玉屋総一郎の住宅だった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
杉の洗い出しであったし、門は檜の節無しを拭き込んで、くぐり戸になっていたし、玄関前までは御影石みかげいしが敷きつめてあって、いつも水あとの青々して、庭は茶庭風で、石の井筒も古びていた。
谷口吉郎たにぐちよしろう博士の設計に拠るということで、特に明治の煉瓦れんがを集めて十三げんへいを作り、二尺五寸に三尺六寸の横長の黒御影石みかげいしめこみ、それに永井荷風ながいかふう氏が「沙羅の木」の詩を書かれたのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そのうちに僕等は薄苔うすごけのついた御影石みかげいしの門の前へ通りかかった。石にめこんだ標札ひょうさつには「悠々荘ゆうゆうそう」と書いてあった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くぐりからはいると玄関までの距離は存外短かい。長方形の御影石みかげいしが飛び飛びに敷いてある。玄関は細いきれいな格子こうしでたてきってある。ベルを押す。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むしろやら、空箱やらを取除けた跡に、漆喰しっくいで固め、角材を組んでその上に幅二尺、長さ四尺、高さ三尺ほどの御影石みかげいしの唐櫃——三寸ほどの短い足の付いたのを
というのは、その旅館の前の、下水の蓋を兼ねた、御影石みかげいしの敷石の上に、余程注意深い人でなければ、眼にとまらない様な、一つの煙草の吸殻が落ちていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六五 早池峯はやちね御影石みかげいしの山なり。この山の小国にきたるかわ安倍ヶ城あべがじょうという岩あり。けわしきがけの中ほどにありて、人などはとても行きうべきところにあらず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御影石みかげいしを敷き詰めて枝もたわわに、五月躑躅さつきつつじの両側に咲き乱れた、広い道路を上った小高い丘の中腹には、緑の山々を背景にした立派な家が、そびえ立っているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
その隣に一軒格子戸を綺麗きれいに拭き入れて、上がり口の叩きに、御影石みかげいしを塗り込んだ上へ、折々夕方に通って見ると、打水のしてある家があった。寒い時は障子が締めてある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
運悪く窓の下は御影石みかげいしの車寄せだったので敷石で頭をうち割ってしまったのです。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして大急ぎでもって御影石みかげいし台石だいいしを作ることになった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学校は昨日きのう車で乗りつけたから、大概たいがいの見当は分っている。四つ角を二三度曲がったらすぐ門の前へ出た。門から玄関げんかんまでは御影石みかげいしきつめてある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むしろやら、空箱やらを取除けた跡に、漆喰しつくひで堅め、角材を組んでその上に幅二尺、長さ四尺、高さ三尺ほどの御影石みかげいしの唐櫃——三寸ほどの短い足の付いたのを
御影石みかげいしの鳥居は薄黒い苔に覆われて、今ではその大岩の一部分と見誤る程に古びていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こけの生えた御影石みかげいしの敷き石の両側に恰好かっこうのいいどうだんを植えて、式台のついた古風な武家づくりの玄関といい、横手に据えられた天水桶てんすいおけ代りの青銅の鉢といい、見上げるような屋の棟や
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
平太郎が親爺おやぢの石塔を建てたから見にて呉れろとたのみにきたとある。行つて見ると、木も草も生えてゐない庭の赤土の真中まんなかに、御影石みかげいしで出来てゐたさうである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時代の付いた御影石みかげいしで、精々十二、三貫目位、まことに不景氣なものですから、雜木林の中から、半町ばかり先の黒木長者の邸内に持つて行くことなどは元より物の數でもありません。
屋敷を取りかこんだ高いコンクリートべいには、ドキドキと鋭いガラスの破片が、ビッシリと植えつけてあるし、見上げるばかりの御影石みかげいしの門柱には、定紋じょうもんを浮彫りにした鉄板の門扉もんぴ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平太郎へいたろうがおやじの石塔せきとうを建てたから見にきてくれろと頼みにきたとある。行ってみると、木も草もはえていない庭の赤土のまん中に、御影石みかげいしでできていたそうである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
低い御影石みかげいしの門柱に「明智探偵事務所」と、ごく小さな真鍮しんちゅうの看板がかかっている。そこをはいって、ナツメの植込みに縁どられた敷石道をと曲がりすると、小ぢんまりした白い西洋館。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奸智かんちにだけけて、武藝の心得の怪しい石卷左陣を取つて押へると、丁度八五郎は、下水の蓋になつてゐる御影石みかげいしを起して、その下から三百兩の金包と、碧血へきけつ斑々はん/\たる脇差を搜し出したのでした。
奸智かんちにだけけて、武芸の心得の怪しい石巻左陣を取って押えると、ちょうど八五郎は、下水の蓋になっている御影石みかげいしを起して、その下から三百両の金包と、碧血斑々へきけつはんはんたる脇差を捜し出したのでした。