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弛緩
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しかん
ふりがな文庫
“
弛緩
(
しかん
)” の例文
これは、海風が
熱風
(
シロッコ
)
といっしょになってひき起こすことのある、興奮と
弛緩
(
しかん
)
とをかねた状態なのであった。せつない汗がにじみ出た。
ヴェニスに死す
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
こんな実例から見ると、こうした種類の涙は異常な不快な緊張が持続した後にそれがようやく
弛緩
(
しかん
)
し始める際に流れ出すものらしい。
自由画稿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
ことに釈迦は、大腿が著しく太く衣が肌に密着している新しい様式のものであるが、どうも
弛緩
(
しかん
)
した感じを伴っているように思われる。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
そう思ったとたん彼は全身の
弛緩
(
しかん
)
の底から、妙な闘志が湧き上って来るのを感じて、運転手よりも先に、駒をぱちぱちと並べ始めていた。
記憶
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
私が何分間かの持続の後に一つの行為を成し遂げたとたんに、夫の体がにわかにぐらぐらと
弛緩
(
しかん
)
し出して、私の体の上へ
崩
(
くず
)
れ落ちて来た。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
私が自身の
弛緩
(
しかん
)
を警戒する敏感さ、あなたの知ることの出来ない部分にゴミをつけまいとする心くばりは、随分神経質でした。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
われ人共に、何をもってしても
癒
(
いや
)
し難い無限に続く人生の哀音なるものが僕の
弛緩
(
しかん
)
した精神の
鎧
(
よろい
)
の合せ目から浸み込むためか。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
空はリキュール酒のようなあまさで、夜の街を覆うと、
絢爛
(
けんらん
)
な渦巻きがとおく去って、女の靴の
踵
(
かかと
)
が男の
弛緩
(
しかん
)
した神経をこつこつとたたいた。
女百貨店
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
殊に徳川末季の江戸生活には三百年の太平に
弛緩
(
しかん
)
した
廃頽
(
はいたい
)
気分が著るしく濃厚であって、快楽主義の京伝や三馬の生活が遊戯的であったは勿論
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
君自身の肉体の疲労やら、精神の
弛緩
(
しかん
)
、情熱の喪失を、ひたすら時代のせいにして、君の怠惰を巧みに理窟附けて、人の同情を得ようとしている。
風の便り
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「うん」と答えただけであったが、その様子は
素気
(
そっけ
)
ないと云うよりも、むしろ湯上りで、精神が
弛緩
(
しかん
)
した気味に見えた。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分の一生を
賭
(
と
)
してかゝった仕事が、空虚な幻影であることが、分った時ほど、人間の心が
弛緩
(
しかん
)
し堕落することはない。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ともすれば彼女は、注意力の
弛緩
(
しかん
)
からして、他のことを考えてぼんやりしていた。彼女は時々、胸の
隠衣
(
かくし
)
から時計を出して針の動くのを眺めていた。
ウォーソン夫人の黒猫
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
意志の
弛緩
(
しかん
)
として男みずから恥ずべきことであるのみならず、その妻の愛と貞操を
凌辱
(
りょうじょく
)
するものであり、子孫の徳性と健康とを破壊するものである。
私娼の撲滅について
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
しかし、物を洗い清める外気の中では、大地に接触しては、その纏綿は
弛緩
(
しかん
)
し、それらの観念は
妖鬼
(
ようき
)
的性質を失った。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
秋之坊の句はさのみすぐれたものではなく、元禄の句としては多少の
弛緩
(
しかん
)
を免れぬが、再誦三誦すると、やはりこの句の方がわれわれには親しみがある。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
譜代大名
(
ふだいだいみょう
)
の心を
弛緩
(
しかん
)
させないために。——また、
外様
(
とざま
)
大名の蓄力を経済的にそれへ消耗させてしまうために。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
云い終ると、伸子の全身を
硬張
(
こわば
)
らせていた
靱帯
(
じんたい
)
が急に
弛緩
(
しかん
)
したように見え、その顔にグッタリとした疲労の色が現われた。そこへ、法水は和やかな声で訊ねた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それをする代わりに「私」という人間の道徳的自責などをしまいに書いたのでは、せっかく興奮し緊張していた読者の心は、すっかり、冷却し、
弛緩
(
しかん
)
してしまう。
「陰獣」その他
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
どうもこの倦怠という言葉は甚だ坐りが悪いけれど、他によい言葉がないから、致し方なく使用するのだが、いわば、精神活動の一種の
弛緩
(
しかん
)
状態を意味するのだ。
闘争
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
女は境遇に教えられて、快楽が適度に制限されなければならないことを知っていた、それが
倦怠
(
けんたい
)
や
弛緩
(
しかん
)
から二人を守った。……もちろん生活は詰るばかりだった。
葦
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
性道徳は
弛緩
(
しかん
)
しきっている。マタ・アリは、スパイそのものよりも、いろんな男を征服するのが面白いのだ。今度はそれが仕事で、資金はふんだんに支給される。
戦雲を駆る女怪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
極度の緊張から
驚駭
(
きょうがい
)
へ、驚駭から失望へ、失望から
弛緩
(
しかん
)
へ、私は恐ろしい夢と、金を取戻した
儚
(
はかな
)
い喜びの夢を、
夢現
(
ゆめうつつ
)
の境に夢みながら、琵琶湖の
畔
(
ほとり
)
をひた走りしていた。
急行十三時間
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
然れども、その発作の最高潮時、もしくは発作の主要部分を経過したる
後
(
のち
)
は、精神の
弛緩
(
しかん
)
と共に異常なる疲労を感じ、且つ、甚しき
渇
(
かつ
)
を覚ゆるは生理上当然の帰結なり。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
それなのに、近年——贈るほうもおくるほうだが、うけとるほうも受け取るほうだ、と美濃守は、
弛緩
(
しかん
)
しかけた幕政のあらわれの一つのように思えて、
憂憤
(
ゆうふん
)
を禁じえなかった。
元禄十三年
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
弛緩
(
しかん
)
した精神は張りつめた生活を保つことができない。そういう生活態度のうちには、善と悪とが混在している。柔弱は有害であるとしても寛大は健やかで有益だからである。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そこで、この絵像の与うるところの印象は、全体に於てノッペラボーで、部分に於て呪いで、嫉みで、嘲笑で、
弛緩
(
しかん
)
で、倦怠で、やがて醜悪なる悪徳のほかに何物も無いらしい
大菩薩峠:35 胆吹の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
赤人のものは、総じて健康体の如くに、清潔なところがあって、だらりとした
弛緩
(
しかん
)
がない。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
それが衰弱と睡眠のためにけだるく
弛緩
(
しかん
)
した神経を
溌剌
(
はつらつ
)
と生気づける。四角のなかには
椎
(
しい
)
の木と塀外の街路樹、その枝葉のあいだからちらほらと空がみえて、時には
雀
(
すずめ
)
の声がきこえる。
胆石
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
だと申してまた、
弛緩
(
しかん
)
した心でいて、俳句は古くてもいいのだ、どうでも十七字さえ並べておれば進歩しなくてもいいのだというような
暢気
(
のんき
)
過ぎた心持でいても困ったものであります。
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
北条攻は今其最中であるが、関白は悠然たるもので、急に攻めて兵を損ずるようなことはせず、ゆるゆると心
長閑
(
のどか
)
に大兵で取巻いて、城中の兵気の
弛緩
(
しかん
)
して其変の起るのを待っている。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
随
(
したが
)
って街の疎開にも緩急があり、人心も緊張と
弛緩
(
しかん
)
が絶えず交替していた。警報は殆ど連夜出たが、それは機雷投下ときまっていたので、森製作所でも監視当番制を廃止してしまった。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
浴槽の中での幸福な気持が、いつにない
弛緩
(
しかん
)
した心を誘い出したのかも知れない。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
さて、バナナは
失
(
な
)
くなったが、虎は仲々出て来ぬ。期待の外れた失望と、緊張の
弛緩
(
しかん
)
とから、私はやや
睡気
(
ねむけ
)
を催しはじめた。寒い風に
顫
(
ふる
)
えながら、それでも私はコクリコクリやりかけた。
虎狩
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
病気の元を思い出させるような、短い間の呼吸困難が折々あるが、それが過ぎ去ると、一種の
弛緩
(
しかん
)
状態になる。そしてもう自分で、なぜそんな状態になるかを考えて見るほどの力もない。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
女房の顔を見ると筋肉が
弛緩
(
しかん
)
する男だ。僕も女性の前では体裁を重んじる。
勝ち運負け運
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
人前では、さも利口そうに緊張している表情が、一人切りになると、まるで
弛緩
(
しかん
)
してしまって、恐しいほど
相好
(
そうごう
)
の変るものです。ある人は、生きた人間と死人ほどの、甚だしい相違を現します。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
口は、異性間の通路としての現実性を具備していることと、運動について大なる可能性をもっていることとに基づいて、「いき」の表現たる
弛緩
(
しかん
)
と
緊張
(
きんちょう
)
とを極めて明瞭な形で示し得るものである。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
弛緩
(
しかん
)
した演奏だ。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
用がすんだら
弛緩
(
しかん
)
してもいいはずの緊張が強直の状態になってそれが夜までも持続して安眠を妨げるようなことがおりおりある。
映画と生理
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
この倦怠は何人にも知られてはならぬものだったし、どうあっても、不随意と
弛緩
(
しかん
)
のどんな兆候によってでも、作品の上に現われてはならぬものだった。
ヴェニスに死す
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
十分眠った筈なのに、目が醒めても筋肉が
弛緩
(
しかん
)
しているのを感じ、背中がベッドに貼りついたように起き上り難い。昼近くまでぐずついていることがあった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
高氏の言で、今、問注所のそうした空気も、ふと妙に、
迷
(
は
)
ぐらかされたのを見ると、主席の執事貞顕は、すぐその
弛緩
(
しかん
)
をひき緊めるべき職責に駆られていた。
私本太平記:01 あしかが帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
訥々
(
とつとつ
)
たる口調で、戸石君の精神の
弛緩
(
しかん
)
を指摘し、も少し真剣にやろうじゃないか、と攻めるのだそうで、剣道三段の戸石君も大いに閉口して、私にその事を訴えた。
散華
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
こけた頬や骨ばった
顎
(
あご
)
のあたりに、激しい疲労と
弛緩
(
しかん
)
の色があらわれていた。疲れきって虚脱しているようであった。なにもかも、身も心も投げだしたというふうにみえた。
暴風雨の中
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その
振張
(
しんちょう
)
と
弛緩
(
しかん
)
とが直ちに国民の一組成分である個人の生活の休戚に影響することであり
選挙に対する婦人の希望
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
この意味に於いて政治的意識の
弛緩
(
しかん
)
は、マルクス主義文學作家にとつては致命的である。
政治的価値と芸術的価値:マルクス主義文学理論の再吟味
(旧字旧仮名)
/
平林初之輔
(著)
「健康といいますとね、緊張と
弛緩
(
しかん
)
、
亢奮
(
こうふん
)
と抑制などのバランスがとれている状態です」
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
その満潮がようやく引き始める時期をここに正確に指定することはできないが、
弛緩
(
しかん
)
の傾向はすでに天平の前半から始まり、後半に至っていよいよ著しくなったと見てよかろう。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
たいていそういう発作は、突然の精神
弛緩
(
しかん
)
に終ることが多かった。彼は涙を流し、地上に身を投出し、大地に抱きついた。それにかじりつき、しがみつき、それを食いたかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
弛
漢検準1級
部首:⼸
6画
緩
常用漢字
中学
部首:⽷
15画
“弛緩”で始まる語句
弛緩状態