大伽藍だいがらん)” の例文
その勝ち誇った調和音が大伽藍だいがらんの隅々まで満たしてしまうのを聞くときほど、音楽が荘厳そうごんに人の道徳的感情に迫ってくるのを知らない。
「南都の大伽藍だいがらんを焼き払ったり、大仏殿の炎上を敢てしたりした平家が、その仏にすがって、調伏の祈願するとは、何という勝手なことだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この向島名物の一つに数えられた大伽藍だいがらんが松雲和尚の刻んだ捻華微笑ねんげみしょうの本尊や鉄牛血書の経巻やその他の寺宝と共にことごとく灰となってしまったが
治承四年の十二月二十八日、本三位中将重衡しげひらは、父清盛の命によって南都を攻め、東大寺の大伽藍だいがらんを焼いて了った。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それはどこかの大伽藍だいがらんにあった、色彩の水々しい油画だった。従って林檎はこの時以来、彼には昔の「智慧の果」の外にも近代の「静物」に変り出した。
三つのなぜ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
煉瓦を積んで大伽藍だいがらんを造る場合にも多衆の力は働いているが、その力は煉瓦を運ぶ個々の力の集積であってよい。
(新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あの聖徳太子が仏教をさかんにひろめたもうてからは、代々のみかどがみな法師を尊信し、大寺だいじ大伽藍だいがらんを建てさせ、天下の財用を尽くして御信心があつかったが
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巨木の幹は大伽藍だいがらんの円柱の様に立並び、その柱頭から柱頭を渡って、青葉のアーチがつらなり、足の下には、絨毯じゅうたんの代りに杉の落葉が分厚に散り敷いて居ります。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
およそその釈迦堂はラサ府の図面にも記されてある通り、三階造りの大伽藍だいがらんですがほとんど詰切つめきれない位集まる。その時の狭隘せせこましい事というたらたまらんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ケルンの大伽藍だいがらんの内部を祭壇のうえの奥の窓から彩色硝子ステンド・グラスをとおして覗くような、この現世離れのした幽艶なきらびやかさが刹那の私から観察の自由を剥奪した。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
見あぐれば淡い新月に照らされて、碧玉随へきぎょくずいのような螢光を発し、いまにも頭の上に落ちかかろうとする怪偉な山容は、これぞアルプスの大伽藍だいがらんモン・ブランの円蓋えんがい
さしもの大伽藍だいがらんも焼けて、煙姻えんえん高く昇るのを望見するや、西軍は一挙に進撃した。此の決戦は未明から黄昏たそがれまで続いたけれど勝敗決せず、疲れ果てて両軍相共に退いた。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしカーライルはみずから倫敦に住んでいるとは思わなかったのである。彼は田舎いなかに閑居して都の中央にある大伽藍だいがらんはるかに眺めたつもりであった。余は三度みたび首を出した。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高台の上に建つこの大伽藍だいがらんは、はてしない天にむかって、じっと祈りをささげているのではないか。明るい空気のなかに、かすかなもやふるえながら立罩たちこめてくるようだった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
浄土宗じょうどしゅう関東十八檀林中だんりんちゅうの随一を誇るだけあって、広大壮麗言うばかりない大伽藍だいがらんです。
強大なる力こそは大陸の支那が記念しようとしたところなのです。私たちは、西欧に在った時、中世紀の大伽藍だいがらんを訪れました。そこには横わる影像が大理石で刻まれているのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
已に半世紀近き以前一種の政治的革命が東叡山とうえいざん大伽藍だいがらん灰燼かいじんとなしてしまった。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
青ずんだ空にはまっ白な漣雲れんうんが流れて、大理石の大伽藍だいがらんはしんとしていた。そこらにある電燈などのないほうがよさそうにも思われた。ドーム前の露店で絵はがきやアルバムを買った。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
けれども程なく十月の三日には、その相国寺の大伽藍だいがらんおびただしい塔頭たっちゅう諸院ともども、一日にして悉皆しっかい炎上いたしたのでございます。山名方の悪僧が敵に語らわれて懸けた火だと申します。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「丁度好い。面白いことがあるんだよ。にわ普請ぶしん大伽藍だいがらんがグラつき出した」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さしもの本堂の大伽藍だいがらん鴨井かもいのあたりからギイギイと音を立てて揺れはじめ、だんだん烈しくなって来て本堂一面に砂の雨がザアザアと降り出し、軒の瓦がゾロゾロガラガラと辷り落ちて
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「決して御迷惑はかけません。——信者の數は江戸だけでも何萬人、此處に積んである現金だけでも、八五郎親分も見た筈、六萬何千兩、いづれは御公儀の御力で、大伽藍だいがらんも建てゝ下さる筈」
大伽藍だいがらんを建てさせられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なんと厳かな、すさまじい協和音であろう。その音はさらに濃密に、なおも力強くなって、大伽藍だいがらんにみなぎり、壁さえもゆりうごかすかと思われる。
三千院の大伽藍だいがらんに比べると、極めてみすぼらしい存在ではあるが、その名声を以てすると三千院にもまさる寂光院。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なみいる人々は、鬼のごとき武骨者ぶこつものばかりで、あたりは大伽藍だいがらんのような暗殿あんでんである。大人おとなにせよ、この場合、生きたる心地はなかるべきだが、竹童ちくどうはケロリとして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども程なく十月の三日には、その相国寺の大伽藍だいがらんおびただしい塔頭たっちゅう諸院ともども、一日にして悉皆しっかい炎上いたしたのでございます。山名方の悪僧が敵に語らはれて懸けた火だと申します。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼の姿は、この天井のたかい大伽藍だいがらんの底にすわると、よけいに、小さく見えるのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲しげな古い大伽藍だいがらん荘厳そうごんさには、この季節の感覚になにかぴったりするものがあった。
宮は無力な落人おちゅうどにすぎない。身一ツ高野こうやたのんで来られたのだ。これをたすけぬのは仏心にそむく。——一山の衆議はすぐきまって、宮は、大塔とよぶ大伽藍だいがらん天井裏てんじょううらかくまわれた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから木立を隔てて見えるのは、月光の底に沈んでいる二十八柱の大伽藍だいがらん、僧行基ぎょうきのひらくという医王山薬師如来やくしにょらい広前ひろまえあたり、嫋々じょうじょうとしてもの淋しい遍路へんろりん寂寞せきばくをゆすって鳴る……。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、この高野の大自然と七宝しっぽう大伽藍だいがらんの中につつまれて生き直った時
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛頭山医王院ごずさんいおういん大伽藍だいがらんでは、正行、正時を中心として、一族の楠木将監くすのきしょうげん、和田新発意しんぼち、舎弟新兵衛、同紀六左衛門の子ら、野田四郎とその子ら、関地良円せきじりょうえんなどが、翌日も、翌々日も、軍議であった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)