塗炭とたん)” の例文
やや完全に演ぜんなぞと思立おもいたたば米や塩にまで重税を課して人民どもに塗炭とたんの苦しみをさせねばならぬような事が起るかも知れぬ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天下の塗炭とたんを救い、害賊を討ち、国土に即した公権を確立し、やがては永遠の平和と民福を計るにある。分っておるかそこのところは!
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苔虫の国には政府と人民との区別がないから、政府が圧制して人民が塗炭とたんに苦しむというごときことは決してない。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
如何いかんとなればさようの武器が、もしも愚将の手に入るか残忍なる人間の手に入りましたら、それこそ日本ひのもとは益〻乱脈、人々塗炭とたんに苦しむからでござるよ!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我ニ自由ヲ与フルしからザレバ死ヲ与ヘヨト唱ヘシモ、英国ノ暴政ニ苦シムノ余、民ヲ塗炭とたんニ救ヒ、一国ヲ不覊独立ノ自由ニセント死ヲ以テ誓ヒシコトナリ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「御領主金森少輔殿多年の悪政は眼に余る仕儀で御座るぞ。百姓塗炭とたんの苦しみ、御貴殿も御存じであろう。父上を御諌おいさめの折もあろうに、何んという怠慢——」
すなわち横ぎりにかかる塗炭とたんに右の方より不都合なる一輛いちりょうの荷車が御免ごめんよとも何とも云わず傲然ごうぜんとして我前を通ったのさ、今までの態度を維持すれば衝突するばかりだろう
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
... 挽回ばんかいせんのみ。四万々生霊を水火塗炭とたんの中に救はんのみ。けだし大和民族の天職は殆ど之より始まらんか。」思うに「二十世紀の最大問題はそれ殆ど黄白人種の衝突か。」しこうして
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自ら善を積み、仁をかさね、忠孝純至の者でないかぎり、とても免れることはできない、まして普通一般の人民では天のたすけすくないから、この塗炭とたんに当ることがどうしてできよう、しかし
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一時は塗炭とたんの苦しみに遭おうと、やがてはまた再びしゃーいしゃーいと下足番の声なつかしき大入り客止めの寄席の春が、再びそこに開花しよう、展開されよう、その念願の春立つ日まで
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
維新前後の吾身わがみ挙動きょどうは一時の権道けんどうなり、りに和議わぎを講じて円滑えんかつに事をまとめたるは、ただその時の兵禍へいかを恐れて人民を塗炭とたんに救わんがめのみなれども、本来立国りっこくの要は瘠我慢やせがまんの一義に
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と続いた、てんぼう蟹は、夥間なかまの穴の上を冷飯草履ひやめしぞうり、両足をしゃちこばらせて、舞鶴の紋の白い、萌黄もえぎの、これも大包おおづつみ。夜具を入れたのを引背負ひっしょったは、民が塗炭とたんくるしんだ、戦国時代の駆落かけおちめく。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたこそ魔魅跳梁まみちょうりょうを退けて、暗黒の国に楽土をて、乱麻らんまの世に道を示し、塗炭とたんの底から大民を救ってくれるお方にちがいない
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
社稷しゃしょくをもって丘墟きゅうきょとなし、万民の生霊を塗炭とたんとなして、それをいたむ真の人はみな野にかくれ——王朗よ、耳のあかをのぞいて、よく聞かれい
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、兄弟の杯を交わし、そして、三人一体、協力して国家に報じ、下万民の塗炭とたんを救うをもって、大丈夫の生涯とせんと申し合った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……あれば、宋朝治下の塗炭とたんの民土に、一さつの清風と、一望の緑野りょくやてんじるものと、望みをかけ得られないこともないのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろしい、青州せいしゅう奉行の悪政に、塗炭とたんの民が、愚痴ぐちも泣き言もいえずにじっと歯の根を噛んでる姿はすでに久しいものがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。この公孫瓚とても、智仁兼備ちじんけんびの人間ではないが、ご辺に仕える気があるなら、力を協せて、共に民の塗炭とたんの苦しみを救おうではないか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果てしない国内の騒乱と、群雄ぐんゆう割拠かっきょは、果てしない民衆の塗炭とたんである。万民の苦しみは、一天の大君の御悩おんなやみであることはまたいうまでもない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道教どうきょうをもって、国教とし、自分も教主となって、保護につとめた。全国から木石禽獣きんじゅうの珍奇をあつめ、宮殿の工には、民の塗炭とたんもかえりみもしない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、そういう塗炭とたんの苦しみを除いて、民土に福利と希望を与えてやるこそ、将軍のご使命ではありませんか。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ幕府の犬よとよばれ、ふた股者とののしられても、それで、世を平和に返し、民の塗炭とたんが救えるものなら、この老骨の往生に、本望この上もありません
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだになお、きみ民草たみくさ塗炭とたんにお心さえやすまったことがない。なんとあさましい戦乱のすがたではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北条氏であれ、東国の諸武士であれ、みな一天の君の赤子せきし。諸民の悪行は、君の御不徳に帰しましょう。まして、らんとなれば、塗炭とたんの苦しみは、良民に降りかかります。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「われわれは凡俗です。高士のごとく、冷観はできません。ひとしく生き、ひとしく人たる万民が、塗炭とたんの苦しみにあえぐを見ては。また、果てなき流血の宿命をよそには」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また仏法万代のためにとおかれた千年ののりの山から、以後百年余にわたる南北両朝の争乱やら民の塗炭とたんが、ここに始まる未来の第一声が、いまき鳴らされていたものであろうとは。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「貴僧の骨折りひとつで、領下の民の塗炭とたんの苦は救われ、城中幾千のものの生命いのちは安泰を得よう。この任務こそは、僧侶たる御身に課せられた当然の使命というものではおざるまいか」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三好みよし氏は紀伊きい、伊賀、阿波あわ讃岐さぬきなどに、公方くぼう与力よりきと旧勢力をもっている点で無視できないが、これとて要するにことごとく頭の古い過去の人々であるばかりで、世をみだし民を塗炭とたんに苦しめた罪は
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何よりも、国中の百姓が、塗炭とたんの苦しみをなめます。閣下のお胸ひとつのために。——戦うなら戦う、これもよし。降参するならする、これもまたよしです。いずれとも、早く決することです。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「赤誠の大盟ここになる。誓って、漢室の不幸をかえし、天下億民の塗炭とたんを救わん。——不肖袁紹、衆望に推されて、指揮の大任をうく。皇天后土、祖宗の明霊よ、仰ぎねがわくば、これをかんせよ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この乱世の黎明れいめいになうもの、万民の塗炭とたんをすくうもの、われなり、われをいて、人はあらじと、自負し自尊し、ここに中原ちゅうげん覇業はぎょうを争っておりますが、すでに、偉材謙信はき、甲山の信玄亡く
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、叡山側でも、民の塗炭とたんのくるしみを、反対の理由にとった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「百姓万民の塗炭とたんの苦しみも永劫えいごうに救われはしない……貂蝉」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)