品川しながわ)” の例文
貴嬢きみにこのふみを写して送らん要あらず、ただ二郎は今朝夜明けぬ先に品川しながわなる船に乗り込みて直ちに出帆せりといわば足りなん。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
内実はくまでも鎖攘主義さじょうしゅぎにして、ひたすら外人をとおざけんとしたるその一例をいえば、品川しながわ無益むえき砲台ほうだいなどきずきたるその上に
品川しながわまで来ると、山下やましたの、ちょっと海の見えるところに、掛け茶屋が出ているから、龍造寺主計は、そのまえに立ちどまって
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
淀橋よどばし区、四谷よつや区は、大半焼け尽しました。品川しながわ区、荏原えばら区は、目下もっか延焼中えんしょうちゅうであります。下町したまち方面は、むしろ、小康状態に入りました」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
品川しながわの駅で、すぐ前の席へ、その無遠慮ぶえんりょなお客さんが乗り込んで来ると、クルミさんは、すっかり元気をなくしてしまった。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そこで、幕府ばくふは、品川しながわのおきに、砲台ほうだい大砲たいほうをすえたじん)をつくって、江戸えど(いまの東京とうきょう)のしろをまもろうとしました。
品川しながわを過ぎて短いトンネルを汽車が出ようとする時、葉子はきびしく自分を見すえる目をまゆのあたりに感じておもむろにそのほうを見かえった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは品川しながわの遊女ぼうが外人に落籍らくせきせられんとしたことで、当時は邦人ほうじんにして外人のめかけとなれるをラシャメンと呼び、すこぶる卑下ひげしたものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
雲が手の届きそうな低い所にあって、見渡すと、東京中の屋根がごみみたいに、ゴチャゴチャしていて、品川しながわ御台場おだいばが、盆石ぼんせきの様に見えて居ります。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同じ年の十二月の夜には品川しながわ御殿山ごてんやまの方に幕府で建造中であった外国公使館の一区域も長州人士のために焼かれた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
変なもので、伊香保なんぞへって居ると交際つきあいふえる、帰って見ると先達せんだっては伊香保でと云うので、麻布あざぶの人が品川しながわ、品川の人が根岸ねぎしへ来て段々縁がつながり
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
東海道を居眠りして来た乗客が品川しながわで目をさまして「ははあ、はがなしという駅が新設になったのかなあ」
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東京市の河流はその江湾なる品川しながわ入海いりうみと共に、さして美しくもなく大きくもなくまたさほどに繁華でもなく、誠に何方どっちつかずの極めてつまらない景色をなすに過ぎない。
あの晩あの雨に品川しながわまで送らせまつり、お帰りの時刻には吹きぶり一層くわわり候やうなりしに、ことにうすら寒き夜を、どうして渋谷しぶやまで着き給ひし事かと案じ/\致し候ひし。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
江戸時代には箱根の温泉まで行くにしても、第一日は早朝に品川しながわって程ヶ谷ほどがや戸塚とつかに泊まる、第二日は小田原おだわらに泊まる。そうして、第三日にはじめて箱根の湯本ゆもとに着く。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
武男が母は、名をおけいと言いて今年五十三、時々リュウマチスの起これど、そのほかは無病息災、麹町上こうじまちかみ番町ばんちょうやしきより亡夫の眠る品川しながわ東海寺とうかいじまで徒歩かちの往来容易なりという。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いずれも一時のがれにあつまっていたところから、それぞれのつてをもとめていったり、地方へにげ出すつもりで、日暮里にっぽり品川しながわのステイションなぞを目あてにうつッていくのです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
木更津をすぎて、もう品川しながわ台場だいばもちかい時、目の下の白い雲をつき破って、大怪物があらわれた。『荒鷲』隊が「あッ。」とおどろくまもなく、武田博士の声がりんりんとひびきわたった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
そこに立ちますと、団子坂から、蛍の名所であった蛍沢や、水田などを隔てて、はるかに上野谷中やなかの森が見渡され、右手には茫々ぼうぼうとした人家の海のあなた雲煙の果に、品川しながわの海も見えるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それは品川しながわ飯盛女めしもりおんなに引掛ったので。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
第一は目黒めぐろ応法寺おうほうじ。酒買い観世音菩薩木像一体かんぜおんぼさつもくぞういったい。第二は品川しながわ琥珀寺こはくじ。これは吉祥天女像きっしょうてんにょぞう、第三は葛飾かつしか輪廻寺りんねじの——
その女は、どこへとも言わないで、ただ品川しながわの方角へ走ってくれと命じて、高輪辺で、突然車を止めさせると、ここでいいからといって降りてしまったのだそうです。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
使節しせっの一こうは、イギリスの軍艦ぐんかんオージンごうにのりこみ、品川しながわから出発しゅっぱつしました。
こんな外国交渉に手間取れて、東海道軍は容易に品川しながわへはいれなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まるで品川しながわへ行ったようだな」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そこへ上りの品川しながわまわり東京行きの電車がサッと六番線ホームへ入って来た。運転台の硝子ガラス窓の中には、まだ昨夜の夢のめきらぬらしい、運転手の寝不足の顔があった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
シャーロックは品川しながわをはなれて、夜の京浜けいひん国道を、どこまでも走りつづけました。
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一、松平越前守まつだいらえちぜんのかみ様、(越前福井藩主)品川しながわ御殿山ごてんやまかため。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
西北の風ですから、まもなく品川しながわから、お台場だいばをすぎて、東京湾にながされていくでしょう。そして、気球の中のガスは、だんだんもれていって、ついには太平洋の海の中へ落ちてしまうでしょう。
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わざと品川しながわ駅から、人目につかぬように、汽車に乗りこみました。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前のほうには、品川しながわのお台場だいばが大きく見えてきました。
探偵少年 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)