口小言くちこごと)” の例文
面と向かっては、葉子に口小言くちこごと一ついいきらぬ器量なしの叔父が、場所もおりもあろうにこんな場合に見せびらかしをしようとする。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ほとんど立続たてつづけに口小言くちこごとをいいながら、胡坐あぐらうえにかけたふる浅黄あさぎのきれをはずすと、火口箱ほぐちばこせて、てつ長煙管ながきせるをぐつとくわえた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ブツブツ口小言くちこごとをいいながら、ほりのまわりをいきつもどりつしていると、向こうから足をはやめてきた男が、ひょいと木をたてにとって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍夫は黙して退しりぞきぬ。ぶつぶつ口小言くちこごといひつつありし、他の多くの軍夫らも、なりを留めて静まりぬ。されど尽く不穏の色あり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
口小言くちこごとをいいながら婆は起きて来て、明るい月のまえに寝ぼけた顔を突き出すと、待ち構えていた千枝松はいなごのように飛びかかって婆の胸倉を引っ掴んだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女隠居は離れへ来る度に(清太郎は離れにとこいていた。)いつもつけつけと口小言くちこごとを言った。が、二十一になる清太郎は滅多めったに口答えもしたこともない。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
師匠のいい附けもせぬものを勝手に彫って見るなぞとはよろしくないと口小言くちこごとをいって将来をもいましむべきであるのですが、今、こうして師匠自身も尊敬している坊様より
口小言くちこごとをいいながらも、平次は座布団を引寄せて、八五郎のために座を作ってやるのでした。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それだからかねのいることおびただしい。定額では所詮しょせん足らない。尼寺のおばさん達が、表面に口小言くちこごとを言って、内心に驚歎きょうたんしながら、折々送ってくれる補助金を加えても足らない。
宇治山田の米友もまた、こんな口小言くちこごとを言いながら、闇と靄の中の夜の甲府の町を、例の毬栗頭いがぐりあたまで、跛足びっこを引いて棒を肩にかついで、小田原提灯を腰にぶらさげて走って行く一人であります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一 どうやら隠居の口小言くちこごとのみ多くなりて肝腎の小説作法さくほうはお留守になりぬ。初学者もし小説にでも書いて見たらばと思ひつく事ありたらばまづその思ふがままにすらすらと書いて見るがよし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あらふ樣子なれどもくらき夜なれば確とも知れずさむさはさむし足早に路次口へ來て戸をたゝくに家主勘兵衞は口小言くちこごとたら/\立出たちいで今夜こんやは常よりも遲かりしぞ以後はちと早く歸る樣に致されよと睨付ねめつけて木戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時折かすかに電光いなずまが瞬き、口小言くちこごとのような雷鳴が鈍く懶気ものうげとどろいてくる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とぶつぶつ口小言くちこごとをいいながら、そばへって
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兄夫婦は口小言くちこごとを言いつつ、手足は少しも休めない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ぶつぶつ口小言くちこごと謂いつつありし、他の多くの軍夫等も、なりとどめて静まりぬ。されどことごとく不穏の色あり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口小言くちこごとをいいながら、みずか格子戸こうしどのところまでってった松江しょうこうは、わざと声音こわねえて、ひくたずねた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
小頭こがしらの雁六がはらをたてて、岩にこしをおろしてしまったので、以下いか六十人の山掘夫やまほりも、みんなブツブツ口小言くちこごとをつぶやきながら、ふてくされの煙草たばこやすみとでかけはじめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口小言くちこごとを云いながら、七兵衛は進んでお葉を抱えおこそうとすると、彼女かれその手を跳ね退けてった。例えば疾風しっぷう落葉らくようを巻くが如き勢いで、さッと飛んで来て冬子に獅噛付しがみついた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供の口小言くちこごとは然し耳からばかりでなく、のどからも、胸からも、沁み込んで来るやうに思はれた。彼は少しづゝいら/\し出した。しまつたと思つたけれども、もう如何どうする事も出来ない。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)