収穫とりいれ)” の例文
旧字:收穫
収穫とりいれといえば、すぐに晩秋の野における農夫の労働生活が思われる。これは激しい汗みずくな、しかしまた楽みにも充ちたものである。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「きょうは吉左衛門さんにお目にかかれて、わたしもうれしい。妻籠でも収穫とりいれが済んで、みんな、一息ついてるところですよ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時として、叔父は三日も四日も、或は七日も八日も続いて、ちつとも姿を見せぬ事があつた。其麽そんな事が、収穫とりいれ後から冬へかけて殊に多かつた様である。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
鋏を持つた彼が、熱心に収穫とりいれの手伝ひをしてゐることもあつた。丘の上で大騒ぎの凧上げをしてゐることもあつた。車の後おしをしてゐることもあつた。
西瓜喰ふ人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「仰せには、春は百姓仕事がきりもなく忙しい。秋の収穫とりいれはこれからの丹精にある。そのような野良の手を、城普請しろぶしんのために徴発かりだしてはならんとあって」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このやうな、いはば革命を暗示するやうな悲痛な動揺が、已に収穫とりいれの終つた藁屋根の下でも、きこり小屋の前でも、山峡やまかひの路上でも電波のやうに移つていつた。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
お豊はそのまま収穫とりいれまで寝ついた、そのあいだに姑のお常が死に、つづいて生れた男の子が病気になった。乳不足がもとでひどい栄養不良になったのである。
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
秋の収穫とりいれもすんだ後で、野には人の姿も見えず、大そうしづかでした。道の中ほどまで来た時、時男さんは
時男さんのこと (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
それはちょうど収穫とりいれなどのすんで、田舎に収入みいりのある秋のころであった。どこかとそんな契約が成り立ったと見えて、お雪は身装みなりなども比較的綺麗であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旱魃かんばつ洪水の神があるならその神様を怨んでやる——怨めしいのはご領主様じゃ! いかに去年の間中、旱魃と洪水にたたられて穀物の収穫とりいれがなかったにしても
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この島で死なせようつもりなら、穀種などたまわるはずはない。つまりは、この籾をいて収穫とりいれをし、それをちから便たよぶねを待てというこの御顕示ごけんじがわからぬのか」
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところが又そのうちに、収穫とりいれが一通り済んで、村中がお祭り気分になると、後家さんのうちがいつまでも閉め込んだ切り、煙一つ立てない事にみんな気が付き初めた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この土間は畑に出来るいろいろな作物を収穫とりいれる時使うので、何処でも可成り広く取ってあります。
もう収穫とりいれの終りころで、たしか七月の末のことだつた——ワシリーサ・カシュパーロヴナは、さもおほぎやうな顔つきで、イワン・フョードロヸッチの手を執りながら
田やはたけ収穫とりいれは済んだ。太吉の父親は病身の妻とその子を残して、上州へ出稼でかせぎに出たのである。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「剣をもって国を取りに行くのは、戦争の種をきに行くようなものですけれど、鍬をもって土地をひらきに行くのは、平和の実を収穫とりいれに行くのと同じです。たとえば……」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
収穫とりいれがすむと、町も村もなんとなくにぎやかに豊かになった。料理屋に三味線の音が夜更けまで聞こえ、市日いちびには呉服屋唐物屋の店に赤い蹴出けだしの娘をつれた百姓なども見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
近くの農家が、収穫とりいれどきに共同に穀物でも入れておくところらしいが……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしやがて葡萄の収穫とりいれも済みますと、もう冬ごもりのしたくです。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、彼は手でぐるりと一つ、大きく荒々しく輪を描きながら、夢中になって叫んだ……「収穫とりいれは熟して刈り手を待っている……現代の厚顔無恥はあらゆる堤防を破った……しかし僕はいうのだ……」
神の剣 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
社会のことはすべて根気だ、僕は一生工夫や土方を相手にして溝の埋草になってしまっても、君たちのような青年わかものがあって、蒔いた種の収穫とりいれをしてくれるかと思えば安心して火の中にでも飛び込むよ
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
それは時々私達のキヤベツの収穫とりいれがうまくゆくかどうかを真面目に心配さす程沢山ゐるんだ。此の小さな虱が、人間に戦争をしようと云ふんだ。こんな話がある。それは此の事がよく分るからお聞き。
収穫とりいれしさゝやかな穂束ほづかをながめて
かの日の歌【二】 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
波の形して収穫とりいれの日を待てり。
俺らの収穫とりいれはいつの秋だ
運勢 (新字新仮名) / 波立一(著)
収穫とりいれのちの田に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私の周囲には、既に刈乾した田だの未だ刈取らない田だのが連なり続いて、その中である二家族のみが残って収穫とりいれを急いでいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実際お爺さんはそれをり通してゐるのだ。その法といふのは収穫とりいれの時もみ二斗を鼠一年分の餌として、土間の隅つこに俵の儘残しておくのだ。
秋風が吹いて、収穫とりいれが済むころには、よく夫婦の祭文語さいもんかたりが入り込んで来た。薄汚うすぎたない祭文語りは炉端ろばたへ呼び入れられて、鈴木主水もんど刈萱かるかや道心のようなものを語った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう蜜柑の収穫とりいれも済んで、丘も畑もひつそりとしてゐる。稀に、畑に人影を見かけると滝だ。
西瓜喰ふ人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
せっかく春夏のたがやしに汗水しぼって、秋の収穫とりいれを他人にされてしまうようなものだ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
収穫とりいれが済んだあとの事であった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「春の初めに鍬を入れかけて、うねを真つ直に耕作を済ますのは、丁度秋のかゝりだよ。帰りみちにはそろそろもう収穫とりいれをせんならん程作物さくもつが大きくなつとるだよ。」
いつぞや郊外で細君や音作夫婦が秋の収穫とりいれに従事したことは、まだ丑松の眼にあり/\残つて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
金銀財宝などは塵芥ちりあくたも同然だ、やがて、収穫とりいれの季節も終り、水車小屋が他人手ひとでに渡つたあかつきには、ヤグラ岳の山窩へなりとたむろして、ロビンフツドの夢を実現させようではないか
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
丁度収穫とりいれの頃で、堆高うづだかく積上げた穀物の傍にたふれて居ると、農夫の打つつちは誤つての求道者を絶息させた。夜露が口に入る、目が覚める、蘇生いきかへると同時に、白隠は悟つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
郊外は収穫とりいれの為にせはしい時節であつた。農夫の群はいづれも小屋を出て、午後の労働に従事して居た。の稲は最早もう悉皆すつかり刈り乾して、すでに麦さへ蒔付まきつけたところもあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
黄ばんだ日があたって来た。収穫とりいれを急がせるような小春の光は、植木屋の屋根、機械場の白壁をかすめ、激しい霜の為に枯々に成った桑畠くわばたけの間を通して、三吉の家の土壁を照した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
収穫とりいれ休暇やすみが来た。農家の多忙いそがしい時で、三吉が通う学校でも一週間ばかり休業した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここでは男女なんにょはげしく労働する。君のように都会で学んでいる人は、養蚕休みなどということを知るまい。外国の田舎にも、小麦の産地などでは、学校に収穫とりいれ休みというものがあるとか。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麦畠には婦女おんなの手だけで収穫とりいれの始末をしようとする人達が働いていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
急に私の背後うしろから下駄の音がして来たかと思うと、ぱったり立止って、向うの石垣の上の方に向いて呼び掛ける子供の声がした。見ると、茶色に成った桑畠を隔てて、親子二人が収穫とりいれを急いでいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
神坂みさかも今は秋の収穫とりいれでいそがしくもまた楽しい時と思います。
再婚について (新字新仮名) / 島崎藤村(著)