其音そのおと)” の例文
神楽坂へかゝると、ある商店で大きな蓄音器を吹かしてゐた。其音そのおとが甚しく金属きんぞく性の刺激を帯びてゐて、大いに代助のあたまこたへた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あめ不知しらときしもあきのはじめなり、洋燈ランプあぶらをさすをりのぞいた夕暮ゆふぐれそら模樣もやうでは、今夜こんや眞晝まひるやう月夜つきよでなければならないがとおもうちなほ其音そのおとえずきこえる。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちとし段々だん/\片寄かたよつて、よる世界せかい三分さんぶんりやうするやうつまつてた。かぜ毎日まいにちいた。其音そのおといてゐるだけでも、生活ライフ陰氣いんきひゞきあたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
所が其音そのおと何時いつかりん/\といふ虫のに変つて、奇麗な玄関のわき植込うゑごみの奥で鳴いてゐる様になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其音そのおときながら、つい、うと/\するに、凡てのほかの意識は、全く暗窖あんこううち降下こうかした。が、たゞ独りよるふミシンのはり丈がきざみ足にあたまなかえずとほつてゐた事を自覚してゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其時そのときつぎ柱時計はしらどけいが二つた。其音そのおと二人ふたりとも一寸ちよつと言葉ことば途切とぎらして、だまつてると、さらしづまりかへつたやうおもはれた。二人ふたりえて、すぐ寐付ねつかれさうにもなかつた。御米およね
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其音そのおとかり鳴聲なきごゑによくてゐるのを二人ふたりとも面白おもしろがつた。あるときは、平八茶屋へいはちぢややまで出掛でかけてつて、そこに一日いちにちてゐた。さうして不味まづ河魚かはうをくししたのを、かみさんにかしてさけんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)