むず)” の例文
ひどく剛情を張るような事があれば、父母の顔色をむずかしくして睨む位が頂上で、如何いかなる場合にも手をくだしてうったことは一度もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
えゝ引続きの依田政談で依田豊前守御勤役中には少しおむずヶしい事があると吟味与力に任して置かず直々じき/\の御裁断がありまして
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
英語については、その前私の兄がやっていたので、それについて少しばかり習ったこともあるが、どうもむずくて解らないから、しばらくしてしまった。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの晩はじつにむずヵしい場合でした。あすこに来ていたのはみんな株主でした。わざとあすこをえらんだのです。ところが株主の反感は非常だったのです。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
斯う云うむずヶしい事件を引受けねば昇等しょうとうは出来ないぜ(大鞆)りゃわかッて居る盤根錯節ばんこんさくせつきらんければ以て利器を知る無しだからむずかしいはちっともいとヤせんサ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
一番むずかしいのは風体の余り立派でない人で、就中なかんずく帽子をかぶらぬ人は、之を取次ぐにおおいに警戒を要する。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今迄は、一も二もなく片づいた事が、さうなると非常にむずかしくなつて来ました。他人の意志よりは先づ自分の意志に就いて、考へて見なければなりませんでした。
背負ひ切れぬ重荷 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「はアて?」と帆村はあごを指先で強くした。これは彼の癖で、なにかむずヶ敷いことにぶつかったとき、それを解くためには是非これをやらないと智慧袋の口が開かない。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(鋏)大抵なものならきって見せるが、それでもむずかしいと思うならまア一遍いで行くさ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
「それじゃけに喜多流はむずかしい」……と翁が人に話していた言葉を記憶しているが、正にその通りで、殊に「野守」の仕舞の如きは、その前後に見た翁の稽古の中でも最も峻厳
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「何うも旦那様方はお話がむずかしくてとても私にはお相手が出来ませんわ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「で、何でげすか、どうしてもむずヶしいと申すんで?」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いよ/\露顕ろけんすればただ原書を返したばかりでは済まぬ、御家老様の剣幕で中々むずかしくなるだろうと思えば、その心配はたまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それで、私はれに居たかと云えば、此の正則の方であったから、英語はすこしも習わなかったのである。英語をおさめていぬから、当時の予備門に入ることがむずい。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の頃は町人と武家ぶげ公事くじに成りますと町奉行は余程むずヶしい事で有りましたが、只今と違いまして旗下はたもとは八万騎、二百六十有余かしらの大名が有って、往来は侍で目をつく様です。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは家業の一番むずかしいところで、こっちの名を捨ててお向う様のおためを思わねばならぬ時のほか、滅多にいてはならぬ嘘なのだ。ところが若い奥さんはサモ満足そうにうなずいたよ。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文学に於て向上の一路を看出みいだしたのだ、堕落なんぞと思われては心外だと喰って懸ると、気の練れた父は敢てさからわずに、昔者むかしものおれには然ういうむずかしい事は分らぬから、おれはもう何にも言わぬ
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
既に蝙蝠傘屋の女主人なども目科が姿立派なると注文のいとむずかしきを
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
髯男は、むずい数学解法を発見でもしたかのように、驚嘆きょうたんした。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
乃公おれは総領で家督をして居るが、如何どうかしてむずかしい家の養子になって見たい。何ともわれない頑固な、ゴクやかましい養父母につかえて見たい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
婆「そうね、只の髪と違って御殿女中の椎茸髱はむずかしいんですよ、幸い此の婆アは年来結いつけて慣れていますから、旗下はう大名は斯うと、まア婆アぐらいに結分ゆいわけるものは有りませんね」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてそれを番するという、世にもむずケしい私の秘密の役目。国中の人間を皆殺しても、守らねばならぬ秘密の役目。何という不思議な六ケしい役目であろう。噫、私は何故なぜ青い眼に生れたろう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
従って世間の親達のように、早く私を月給取にして、嫁をあてがって、孫の世話でもしていたいなぞと、そんな気は微塵もないが、何分にも当節は勤向つとめむきむずかしくなって、もう永くは勤まらぬという。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
当人が既に殺しましたと白状した後で他人の君がむずかしく道理を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
阿「さアむずケしくなって来ました、此処こゝすみだけは取られた塩梅あんばいだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時の運びのむずかしかったこと。一度出来てもその次にはダレてしまって出来ない。むろん今は出来ないどころか記憶にさえ残っていないが、しまいには翁が自分で足袋たび穿いて来てってみせた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
蘭「ほんに旦那様はのお選みがむずかしくっておやかましいからねえ」