主翁ていしゅ)” の例文
もう明日あすの朝の準備したくをしてしまって、ぜんさきの二合をめるようにして飲んでいた主翁ていしゅは、さかずきを持ったなりに土間の方へ目をやった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは十畳吊の萌黄地もえぎじの近江麻で、裾は浅黄縮緬ちりめん、四隅の大房から吊手の輪乳わちちに至るまで、ったものであったから主翁ていしゅは気にいった。
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
饅頭屋の主翁ていしゅは、関係のある人の書翰がこんなにいっしょに来るのも珍らしいと思いながら、ず××君の書翰から開封して見た。
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家の周囲まわりが騒がしくなった。主翁ていしゅの支那人は五六人の者をれて飛び込んで来た。クラネクはその人びとによってとり押えられた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅが一所懸命になって云うので、避暑に来て怠屈たいくつしている時であったから、時間つぶしにと思って番地を聞いたうえで出かけて往った。
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
恐れて死んだ人のようになって此のさまを見ていた主翁ていしゅは、此の時やっと気が注いたのでそっと裏口から這い出て往って隣家の者に話した。
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
椀は壁に当って音をたてた。由平は続けて手あたり次第に膳の上の茶碗や小皿を投げた。其の物音に驚いて主翁ていしゅがあがってきた。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「冷麦でございますか、はい、はい」と、茶屋の主翁ていしゅは茶を汲もうとしていたのをして、冷麦をかまえ、それを皿に載せて持って来た。
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
由平は婢の肩端かたはじへ斬りつけた。婢は悲鳴をあげて倒れた。婢の悲鳴を聞きつけてあがって来た主翁ていしゅは、由平のうしろから抱きすくめようとした。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もう、外へ出る用事が無くなったと思って、急にえらくなったね」女房は小さな縁側えんがわをあがりながら、主翁ていしゅをおどしてやる気になった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生垣いけがきの上の方をすかすと、石碑の頭が一種の光を持って見えていた。主翁ていしゅの心は暗くなった。彼は書生とぴったりならんで歩いた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新吉は二階をおりてから下のへやへ往った。そこでは五十ぐらいになる胡麻塩頭ごましおあたま主翁ていしゅが汚いちゃぶ台に向って酒を飲んでいた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは、演戯茶房しばいちゃや蔦屋つたや主翁ていしゅ芳兵衛よしべえと云う者であったが、放蕩ほうとうのために失敗して、吉原角町河岸よしわらすみちょうがしつぶれた女郎屋の空店あきだなを借りて住んでいた。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
午が来て家内同志で飯をっていた。主翁ていしゅの九兵衛が空になった茶碗を出すと、その傍にいたじょちゅうがお給仕の盆を差しだした。
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
支那料理をいに往ったところで、そこの主翁ていしゅが支那料理の話をしたあげく、背が緑青色をした腹の白い小さな蛇をけた酒のびんを持って来た。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三左衛門は若党をうながして走るように山をおりて温泉宿ゆやどへ帰ったが、どうも不審でたまらないのですぐ宿の主翁ていしゅを呼んだ。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三左衛門は主翁ていしゅ対手あいてにして碁を打つ気もしないので、江戸かられて来ている若党わかとうともに伴れて戸外そとへ遊びに出た。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、つづみの音がばったり止んだ。主翁ていしゅは明るいの光がさしてほかほかとしているとっつきのへや障子しょうじを開けてみた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旅館の主翁ていしゅは憲一の顔を見るなりとびだして来た。旅館では憲一がいなくなったので心配していたところであった。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅは冷酷な男であったから初めは寝たふりをして返事をしなかったが、何時までたっても旅僧が去らないので、「もう寝たから、よそへ往って頼むが好い」
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だめだ、幾何いくら隠したって証拠がある、それとも君は、それを知らないのか、町内に知らぬは主翁ていしゅばかりなり、君は気がかんのか、おめでたい人間だな」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅじょちゅうが出て来てこのわかい旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いたかけいの水を汲んで来てそれを足盥あしだらいに入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
胡麻塩の男はそこの主翁ていしゅで、一人は隣家の男であった。主翁は火のない長火鉢ながひばちの傍で小さな声で云った。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
相場三左衛門あいばさんざえもんはそう云ってから、碁盤ごばんを中にしてじぶんと向いあっている温泉宿ゆやど主翁ていしゅの顔を見て笑った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女房は財布の中の書類かきつけを開けて見た。それは四日市屋の主翁ていしゅが久兵衛に渡した証拠の一札であった。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
柳橋やなぎばし船宿ふなやど主翁ていしゅは、二階の梯子段はしごだんをあがりながら、他家よそのようであるがどうも我家うちらしいぞ、と思った。二階の方では、とん、とん、とん、と云う小鼓こつづみの音がしていた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅはこう云ってじょちゅう口留くちどめをしたが、どうしても不思議でたまらないので、某日あるひ、この土地に昔から住んでいると云う按摩あんまを呼んだ時に、肩をんでもらいながら聞いてみた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
武士はこんない処があるのに主翁ていしゅんのよまよいごとを云ってるだろうかと思った。武士は下にさえこんな佳い処があるから、頂上にはまだ佳い処があるだろうと思った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
東京から避暑に往っていた××君がその前を通っていると、饅頭屋の主翁ていしゅが出て来て
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ベルセネフがまた何か思いだして云おうとした時に、主翁ていしゅが食事の準備したくをして持って来た。二人は話をめて主翁の並べる料理の皿を見ていた。びんに入れた酒も持って来てあった。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、温泉宿の主翁ていしゅの云った山の方達にひどい目にわされたと云うことを知った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、暫く待っていると主翁ていしゅが二人分の膳を持って来た。甚六は不審に思って
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅ、わしの腰に何があるか見てくれ、わしも天下の御連枝ごれんし紀州侯きしゅうこうろくをはんでいるものじゃ、天狗や木精がいると云うて、武士が一度云いだしたことが、あと退かれるか、お前が恐ければ
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
因業者いんごうもので通っていた主翁ていしゅは、それを突き出したので徳蔵は牢屋に入れられ、其のうちに病死したが、其の徳蔵がかれて往く時着ていた衣服は、店のおんながやった浅黄木綿三つ柏の単衣であった。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ああ、鮫洲の大尽か、知ってる、主翁ていしゅは脚がわるいと云うじゃないか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ドアいてランプを持った主翁ていしゅの支那人と、ベルセネフが入って来た。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宿の主翁ていしゅに前夜の話を聞かしたが、鍛冶の母のことは云わなかった。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お滝はその年十三になる新一を奥のへやへ寝かして、じぶん主翁ていしゅの室となっている表座敷で一人寝ていたが、寝心地が好いのでぐっすり睡っていたところで、不思議な感触がするので吃驚びっくりして飛び起きた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「家なんかありませんや、もっとも、まだ臨海亭の出来ない時、さあ三十年にもなりますかね、このあたりに漁師の家が一軒あって、そこの主翁ていしゅが漁に往って歿くなったと云う、わかい女が住んでたことがありますよ」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅあぶらのぎらぎらした頭を近くへ持って来た。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
憲一は主翁ていしゅがどうかしているだろうと思った。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、主翁ていしゅがまた云った。
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)