一献いっこん)” の例文
もし信長が、十年前、庄内川のほとりですがった自分を拾い上げてくれなかったならば——と、お流れの一献いっこんもあだには飲めなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒を持て酒を……サア平馬殿一献いっこん重ねられい。不審顔をせずとも追ってわかる。貴殿ならば大丈夫じゃ。万が一にも不覚はあるまい
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甲「これは至極よろしい、たくは手狭だが、是なる者は拙者の朋友ともだちで、可なりうちも広いから、ちょっと一献いっこん飲直してお別れと致しましょう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
致すのもいかがなものでございますが、ともかく、関東としては、ちょっと風味のある品と覚えました故、一献いっこん差上げたいと存じまする
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
皆様御異存がございませんか、——御言葉がなければ御同意下されたことといたし、右様に取極めて、別席にて一献いっこん差上げたいと存じます
「今夜、さじきにお見えになっている土部さまから、はねてから、柳ばしの川長かわちょうで、一献いっこんさし上げたいというおはなしだそうですが——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「まま一献いっこんまいれ。狐坊主、昆布こぶ山椒さんしょで、へたの茶の真似はしまするが、お酌の方は一向いっこうなものじゃが、お一つ。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう一献いっこんおすごしなされませ、さあもう一献と矢つぎばやに三杯までかさねさせてその三杯目の酒をわたしが飲んでいるあいだにやおら「小督こごう」をうたい出した。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
出府なされば、五六年はお目にかかれぬのだから、用談が終ったら、ゆるりと一献いっこん、酌もう。御馳走と申すほどのものもないが、道光庵仕込みの蕎麦切そばきりをお振舞いする。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
面々各自てんでの挨拶がある。鎮守の宮にねり込んで、取りあえず神酒みき一献いっこん、古顔の在郷軍人か、若者頭の音頭おんどで、大日本帝国、天皇陛下、大日本帝国陸海軍、何々丑之助君の万歳がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
客は湯冷めのせぬうちに、せめてもう一献いっこんの振舞いにあずかって、ゆるゆる寝床に手足を伸ばしたいのだが、主人の意は案外の遠いところにあるらしい。それがこの辺から段々に分って来た。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
民主主義の方向が、民主主義文学者に明確に把握されていたならば、そして、新鮮な決意があるならば、ファシズムに抵抗を感じている文学者たちの会合として、一献いっこんは不用のものであった。
「わけあって人手のない家となってしまいましたので、ゆき届いたおもてなしをすることもできません。わずかに粗酒一献いっこんさしあげるだけでございます」といって、高坏たかつき平坏ひらつきの美しいうつわ
わしはそそくさと元の談話室に取って返し、きっかけを作って住田と言葉を交し、先ずホテルの食堂で一献いっこん、それから住田の案内で町でも有名な日本料理屋へと、車を飛ばすまでにこぎつけた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこにはおまんも裏の隠居所の方から手伝いに来ていた。おまんは、場合が場合だから、たとい客の頼みがないまでも、わざとしるしばかりに一献いっこんの粗酒ぐらいを出すがよかろうと言い出した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ついては酒を一献いっこんもうではないかと云うから、私がこれに答えて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「まず、一献いっこん
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「まあ、そう申すな、炬燵こたつの火も、ちょうどよい加減、酒もあたたまっておる。はいって、一献いっこんやってはどうじゃ——河千鳥の声をさかなに」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝、眼がさめると、おきまりの迎え酒一献いっこん、それからまた側目わきめもふらず昨日のつづき、本草学の研究に一心不乱なる道庵先生を見出しました。
お宅で御亭主の前で御家内へ一献いっこん差上げたい、斯様々々のわけで御挨拶をして下すったから、それなりお別れ申しては済まない、亭主のあるお身の上ということだから
いやばけの皮の顕われぬうちに、いま一献いっこんきこしめそう。待て、待て。(馬柄杓まびしゃくを抜取る)この世の中に、馬柄杓などをなんで持つ。それ、それこのためじゃ。(酒をむ)ととととと。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客は湯冷めのせぬうちに、せめてもう一献いっこんの振舞ひにあずかつて、ゆるゆる寝床に手足を伸ばしたいのだが、主人の意は案外の遠いところにあるらしい。それがこの辺から段々に分つて来た。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「いや。無事にお届が相済んで祝着この上もない……まず一献いっこん……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ははは。秀吉の母が手作りの茄子、官兵衛かんべえにも御意に召したか。信長もめでとう思う。料理させて、後刻の一献いっこんに供えよう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小間物屋は七兵衛と一献いっこん取交とりかわして出て行ってしまったあとで、七兵衛はようやく飯を食いはじめながら
老「五郎治殿、誠に今日きょう遠々とお/″\の処御苦労に存じます、只今の事はかみへ仰せ上げられんように、何もござりませんが一献いっこん差上げる支度になって居りますから、あの紅葉もみじへ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さ、一献いっこん参ろう。どうじゃ、こちらへも酌人をちと頼んで、……ええ、それ何んとか言うの。……桑名の殿様時雨しぐれでお茶漬……とか言う、土地の唄でも聞こうではないかの。陽気にな、かっと一つ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「昼間、仲間ちゅうげんどもが、網を打って、うずらを十羽も捕ったという。芋田楽いもでんがくに、鶉でも焼かせて、一献いっこんもうではないか」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一献いっこん頂戴の口ではいかがですか、そこで、件の、いが餅は?」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、ここへ来て温まり給え、寒さしのぎに一献いっこんまいらせる」
飯「まア一献いっこん差上げるから」
と、やがて、ささやかな膳を調ととのえて、これが一生の別れとなるかも知れぬ。月をさかなに、一献いっこんもうと、くつろいだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、御先達、お山伏は、女たちとここで一献いっこんみがよいよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
温かい酒の一献いっこんを主膳にすすめました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いかがでしょう。私と共に、城中へお越し下さるまいか。一献いっこん酌みわけて、さびのあるあなたの吟嘯ぎんしょうを、清夜、さらに心腸を澄まして伺いたいと思うが」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一献いっこん差上げたいからといって案内する。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ごもっともでござる。まあ、こうなったのも、貴殿の運命と達観して、もう一献いっこんお過しなさい、お酌いたそう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「手料理の塩味、菜やいもなども、そこらの畑の物で、お口にはあいますまいが、一献いっこんおすごし下さいますように。——主人もお後からお相伴しょうばんに伺いますれば」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは、三河殿にとっても、同様な儀でござろう。千秋万歳。——もう一献いっこん、お廻しねがいたいもので」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、範綱のりつなも見える。十五夜ではあり、こう三名の兄弟がそろうと、ぜひとも、一献いっこんなければなるまい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おお! 一献いっこんの酒も、一荷いっかの祝いもないと、嘆いてくれるな。わしはどうしても、ここで、そなた達二人を、若い未来へ、幸福な生涯へ、見送らねばならぬ義務がある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ。又右衛門どのよな。お久しいのう。犬千代じゃ。一献いっこん、お祝いのおながれ戴こう」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見て、家康が酌してやると、一献いっこん、二献、飲みほして、なお弁をふるった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、酒、土器どきを促して、一献いっこんみ、使者にもしゃくして、また受けた後
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すぐ、お湯漬を持て。いうまでもない、一献いっこん、何はなくとも共に」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孝高よしたか、奥へござれ。何はともあれ、久しぶりだ。一献いっこんまいらそう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そう、恐縮されては、自分てまえも困る。まず一献いっこん
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯をみ、衣服をあらため、ここで一献いっこんを酌む。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「城下へ参って、一献いっこんおごりたいが」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勘太にも、一献いっこん与えよ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)