一斉いっとき)” の例文
旧字:一齊
見る見る野の末に黒雲がかかると、黒髪の影の池の中で、一つ、かたかたと鳴くに連れて、あたりの蛙の一斉いっときに、声を合わせるのが
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ハイ、これ、昔から言うことだ。二人一斉いっときに産をしては、後か、さきか、いずれ一人、相孕あいばらみ怪我けががござるで、分別のうてはなりませぬ、)
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
阿母おふくろが死んだあとで、段々馬場も寂れて、一斉いっときに二ひき斃死おちた馬を売って、自暴やけ酒を飲んだのが、もう飲仕舞で。米も買えなくなる、かゆも薄くなる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょいと雛形みほんがこんなもの。三十余人の貧民等、暴言を並べ、気焔きえんを吐き、嵐、こがらし一斉いっときどっと荒れて吹捲ふきまくれば、花も、もみじも、ちりぢりばらばら。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見えつつ、幻影まぼろしかと思えば、雲のたたずまい、日の加減で、その色の濃い事は、一斉いっとき緋桃ひももが咲いたほどであるから、あるいは桃だろうとも言うのである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがね、やっぱりその日なんです、事というと妙なもんで、何でもない時は東京中押廻したって、蜻蜓とんぼ一疋ぶつかりこはねえんですが、幕があくと一斉いっときでさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とててきがたしと、断念をするとともに、張詰はりつめた気もゆるみ、心もくじけて、一斉いっときにがつくりと疲労つかれが出た。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「驚いた……烏が一斉いっときに飛びやあがった。何だい、今の、あの声は。……烏瓜をもぎっただけで下りりゃいのに、何だかこう、樹の枝に、きのこがあったもんだから。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
炬燵こたつから見ていると、しばらくすると、雀が一羽、パッと来て、おなじ枝に、花の上下うえしたを、一所いっしょに廻った。続いて三羽五羽、一斉いっときに皆来た。御飯おまんまはすぐくちばしの下にある。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行過ぎたのが、菜畑越に、もつれるように、一斉いっときに顔を重ねて振返った。三面六臂ろっぴ夜叉やしゃに似て、中にはおはぐろの口を張ったのがある。手足を振って、真黒まっくろわめいて行く。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そして驚いて水を飲んだ、今も一斉いっときに飲むような気がします。」と云う顔も白澄むのである。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……黙って切ってくれて、ふふふんと笑うと、それまでこらえていたらしい乗客が一斉いっときわっ吹出ふきだしたじゃありませんか。次の停車場へ着くが早いか、真暗三宝まっくらさんぼうです。飛降とびおり同然。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つんぼひがみで、昨日悩まされた、はじめの足疾あしばやな女に対するむか腹立も、かれこれ一斉いっとき打撞ぶつかって、何を……天気は悪し、名所の見どころもないのだから、とっとっ、すたすた
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間の気を奪ふため、ことさらに引込ひきこまれ/\、やがてたちまその最後の片翼かたつばさも、城の石垣につツと消えると、いままで呼吸いきを詰めた、群集ぐんじゅが、おう一斉いっときに、わツと鳴つて声を揚げた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
腹が空くと、電信の針がねに一座ずらりと出て、ぽちぽちぽちと中空なかぞら高く順に並ぶ。中でも音頭取おんどとりが、電柱の頂辺てっぺんに一羽とまって、チイと鳴く。これを合図に、一斉いっときにチイと鳴出す。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、同一おなじく、それもやはり、とって置いたものらしい。藍鼠あいねずみの派手な縮緬ちりめん頭巾ずきんを取って、かぶらないで、襟へ巻くと、すっと車へ乗る。庭に居たものは皆一斉いっときにそっちの方。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店の人たちも三人一斉いっときに礼をしたが、十鉢ばかり、その見事な菊を並べた、ほとんど菊の中にたたずんで、ほたりと笑いながら同じく一礼した、十徳じっとくを着そうな、隠居頭の柔和な老人が見えた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……どんなお酒だったでしょうね、熱い甘露でしょう、……二三杯あがったと思うと、凍った骨、枯れた筋にも、一斉いっときに、くらくらと血がいて、積った雪をひっかけた蒲団ふとんの気で、大胡坐おおあぐら
尾を地へ着けないで、舞いつつ、飛びつつ、庭中を翔廻かけまわりなどもする、やっぱり羽を馴らすらしい。この舞踏が一斉いっとき三組みくみ四組よくみもはじまる事がある。の花を掻乱かきみだし、はぎの花を散らして狂う。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一斉いっとき動揺どよめいて、都大路を八方へあふれる時、揚出しの鍋は百人の湯気を立て、隣近となりぢかな汁粉屋、その氷月の小座敷には、閨秀二人が、雪も消えて、衣紋えもんも、つまも、春の色にややけたであろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁側でも呻唸うなり出す——数百すひゃくの虫が一斉いっときに離座敷を引包んだようでしょう、……これで、どさりと音でもすると、天井から血みどろの片腕が落ちるか、ひしゃげた胴腹が、畳の合目あわせめから溢出はみだそう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一斉いっときに云いかけられて、袖で胸をあおいでいた手を留めて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「場所が場所だし、念ばらしに一斉いっときぶちまけたんだよ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わッと響くのが一斉いっときで、相撲が四五人どッと立った。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)