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麥畑
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むぎばたけ
偶夜の
雨が
歇んでふうわりと
軟かな
空が
蒼く
割れて
稍昇つた
其暖かな
日が
斜に
射し
掛けると、
枯れた
桑畑から、
青い
麥畑から
北野を
出はづれると、
麥畑の
青い
中に、
菜の
花の
黄色いのと、
蓮華草の
花の
紅いのとが、
野面を
三色の
染め
分けにして
其の
美しさは
得も
言はれなかつた。
峠を
下ると『
多田御社道』の
石標が
麥畑の
畦に
立つて、
其處を
曲れば、
路はまた
山川の
美しい
水に
石崖の
裾を
洗はれてゐた。
川に
附いて
路はまた
曲つた。
其の
日も
西風が
枯木の
林から
麥畑からさうして
鬼怒川を
渡つて
吹いた。
鬼怒川の
水は
白い
波が
立つて、
遠くからはそれが
粟を
生じた
肌のやうに
只こそばゆく
見えた。
道筋には
處々離れ
離れな
家の
隙間に
小さな
麥畑があつた。
麥畑の
畝は
大抵東西に
形づけられてあつた。
駕籠に
乘つて
行かうかと
思つたけれど、それも
大層だし、
長閑な
春日和を、
麥畑の
上に
舞ふ
雲雀の
唄を
聽きつゝ、
久し
振りで
旅人らしい
脚絆の
足を
運ぶのも
面白からう、
何んの六
里ぐらゐの
田舍路を