養蚕ようさん)” の例文
旧字:養蠶
勿論養蚕ようさんとか地機じばたとか糸繰いとくりとか、若干農村に縁のある内職も探し得たであろうが、何にしても労働が土と関係が薄くなるようでは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
地方によっては養蚕ようさんの忙がしい時期だが、僕らの村にはあまり養蚕がはやらないので、にわか天気を幸いに大挙することになったらしい。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のみならず臍繰金へそくりがねを高利に廻して、養蚕ようさんや米の収穫後になるとかさずに自分で出かけて、ピシピシと取立てたりするようになったので
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
養蚕ようさんは比較的一般に行われて、随って桑畑も多い。けれ共、大業にするのではなく、副業ふくぎょうにしているのだからその利益もしれたものである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
養蚕ようさんの目的は蚕卵紙たねがみを作るにあらずして糸を作るにあり、教育の目的は教師を作るにあらずして実業者を作るにあり、と。
慶応義塾学生諸氏に告ぐ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのそば半襦袢はんじゅばん毛脛けずねの男たちが、養蚕ようさん用の円座えんざをさっさっと水に浸して勢いよく洗い立てる。からの高瀬舟が二、三ぞう
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
麦畑を潰して孟宗藪もうそうやぶにしたり、養蚕ようさんの割が好いと云って桑畑がえたり、大麦小麦より直接東京向きの甘藍白菜や園芸物に力を入れる様になったり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『はい、養家先ようかさきでは、刀を鍛つなどという暇はおろか、刀をるまもございません。庄屋の雑務やら養蚕ようさんやらで』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安宅先生も、あゝ見えて、あれで、俸給の一部をき、この繭価けんか不振時代の養蚕ようさんを副業とする郷里の家の弟妹の学費のため月々仕送っている身分である。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その内特に桑は、当然養蚕ようさんを予想するものであり、従ってそこに絹布をつくるための一切の労働領域が開ける。それは人口の半ばを占める女の仕事である。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
春から夏にかけて主として養蚕ようさんで、畑には少しばかりの麦とくわと自家用の野菜と、そして砂地にはわさびを植えることで、冬は、男は山に登って炭を焼き
そうして養蚕ようさんせわしい四月の末か五月の初までに、それを悉皆すっかり金に換えて、また富士の北影の焼石ばかりころがっている小村へ帰って行くのだそうである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国立の養蚕ようさん研究所は、ドイツなら設立されているだろうが、日本の政府は、値が下った、補償法を適用しろで、養蚕その物の根本的研究は、全然考えていない。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
養蚕ようさんの話でなければかねもうけの話、月給の多いすくないという話、世間の人は多くパンの話で生きている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
機織はたおりから、近所の養蚕ようさんの手つだいまでやって、かいがいしく働いているおのぶの顔は浅黒く陽にやけてはいたが、三十五の今日にいたるまで小皺こじわひとつうかんでいない。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
この迷信のある地方は養蚕ようさんの最も盛んなる所なれば、オサキが蚕を盗むという騒ぎがときどき起こる。ときによって、一夜のうちに蚕棚の蚕児かいこがいくぶんか失せることがある。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
むらは、小高こだかいところにありました。はるから、なつにかけて、養蚕ようさんいそがしく、あきに、また、果物くだものうつくしくたんぼみのりました。おおきないけがあって、いけのまわりは、しらかばのはやしでありました。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
養蚕ようさんの事が近来、めっきり衰えて桑園を作畑に復旧する数も少なくない。
洗馬を通り抜けると、牧野、本山、日出塩等の諸駅の荒廃の姿はいずれも同じであるが、戸々養蚕ようさんは忙しく途上断えず幾組かの桑摘くわつみ帰りの男女に逢う。この養蚕はこれら山駅の唯一の生命である。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
それから私たちは養蚕ようさんの用もありましたのでいそいで学校に帰りました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
病気がややよくなって、峻は一度その北牟婁ムロの家へ行ったことがあった。そこは山のなかの寒村で、村は百姓と木樵きこりで、養蚕ようさんなどもしていた。冬になると家の近くの畑までいのししが芋を掘りに来たりする。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「そうですね。私が通った時には、ちょうど煙が見えませんでしたが、汽車へ乗り込んで来たその土地の人の話では、何でもひどい時には上田の町あたりまでも灰が降って来るという事ですね。それがために今年はあの地方の養蚕ようさんがまるで駄目だという事です。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
畜生畜生……二人での眼を寝ずに働いた養蚕ようさんの売り上げをば……いつまでも渡らぬと思うておったれば……エエッ……クヤシイ、クヤシイ
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の考えでは、村で養蚕ようさんができるなら、百姓はその糸をつむいで仕事着にも絹物きぬものの着物を着て行けばいい。何も町の商人から木綿もめん田舎縞いなかじまや帯を買う必要がない。
年徳神としとくじんでも恵比須大黒えびすだいこくでも、またはオシラという養蚕ようさんの神でも、妙に力強く人心を支配していた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
酪農らくのうから酒の醸造じょうぞうも今ではここで事を欠かない。老幼は養蚕ようさんをして糸をつむぎ、漆林うるしばやしでは漆もる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際、湯治とか保養とかいう人たちは別問題として、上州のここらは今が一年中で最も忙がしい養蚕ようさん季節で、なるべく湿れた桑の葉をお蚕様こさまに食わせたくないと念じている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
養蚕ようさんおも副業ふくぎょうの此地方では、女の子も大切だいじにされる。貧しいうち扶持ふちとりに里子をとるばかりでなく、有福ゆうふくうちでも里子をとり、それなりに貰ってしまうのが少なくない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
養蚕ようさん実習 第二組
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
県会議員や郷先生ごうせんせいをする傍、殖産興業の率先をすると謂って、むすめを製糸場の模範工女にしたり、自家じかでも養蚕ようさん製糸せいしをやったり、桑苗販売そうびょうはんばいなどをやって、いつも損ばかりして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
帰って見ると、母は叔母の養蚕ようさんを手伝いながら相も変らぬ愚痴ばなしをしていた。「ああ、またか」と私は思った。そして一層深く、昼間の叔父のところでの遊びが恋しくなった。
実際、湯治とか保養とかいう人たちは別問題として、上州のここらは今が一年じゅうで最も忙がしい養蚕ようさん季節で、なるべく湿れた桑の葉をおさまに食わせたくないと念じている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ごく細い篠竹しのだけ、紙を製するところではこうぞの小枝、養蚕ようさんのさかんな土地でくわの枝、またはささの葉で葺いている例もわたしは知っているが、そういうのは全国いっぱんということができないであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)