音声おんじょう)” の例文
旧字:音聲
ぽかと、ひとみを開いたのを見て、弦之丞はきっとなった。そして、彼の薄らぐ魂へも、はっきりとうなずけるような音声おんじょうでこういった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、お前様、さきへ戸を開けておいてから何か言わっしゃればい。板戸が音声おんじょうを発したか、と吃驚びっくりしただ、はあ、何だね。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは酔漢よいどれの声でした。静な雪の夜ですから、濁った音声おんじょうはげしく呼ぶのが四辺そこいらへ響き渡る、思わず三人は顔を見合せました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
泰文は中古の藤原氏の勇武をいまに示すかのような豪宕ごうとうな風貌をもち、声の大きいので音声おんじょう大蔵といわれていたが、全体の印象は薄気味悪いもので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
晋齋老人はなんにも仰しゃらず、ジッと見詰めておいで遊ばすが、三人の人間に少しも怪しいところがない、殊に不思議なのはお若さんで、年配から言葉音声おんじょう
いろいろな事をして騒ぎ廻ったりした一切の音声おんじょうも、それから馬が鳴き牛がえ、車ががたつき、滊車が轟き、滊船が浪を蹴開けひらく一切の音声も、板の間へ一本の針が落ちたかすかな音も
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「無声の声は、禅家ぜんけのいわゆる隻手せきしゅ音声おんじょうといったようなものでございますか」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然しあの深い光沢、円満のみ姿は、ただこれによってのみ可能だったとは思われぬ。真実の安らいを求めて人々は更に深く憧憬し、祈念の音声おんじょうは激しく仏体にまつわりついていたであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
るばかりにかなしむはは音声おんじょうまでもひびいてるのでございます。
しかし、再び山へけ入ると、東山とうざん音声おんじょうはバッタリ消えて、かえって反対な西山の一角にチラチラ数知れぬ松明たいまつの火が見える。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神職は留守じゃが、身が預る、と申したのが、ぼやっと、法螺ほらの貝を吹きますような、籠った音声おんじょう
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泰文は中古の藤原氏の勇武をいまに示すかのような豪宕ごうとうな押出しで、とりわけ声の大きいので音声おんじょう大蔵といわれていたが、一般に、泰文という人間から受ける印象は底知れない薄気味悪いもので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其の何様どういうところが寂心のむねに響いたのか、其の意味がか、其の音声おんじょう、其の何の章、何の句がか、其の講明が乎演説が乎は、今伝えられて居らぬが、けだし或箇処、或言句からというのでは無く
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれど、常とちがっていたことは聞きとるとすぐ、しとねを起って、さきに遠ざけたさむらい達の方へふいに放った音声おんじょうの大きなことであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老齢に似もやらず、非常によく透る音声おんじょうの持主である。そして白い眉もそのくちもとも、屈托くったくなくたえず微笑をたたえている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、兄静山の一語一句、その音声おんじょうまでも、ありありと耳に残っている。われとも知らず泥舟の頬には、滂沱ぼうだたる涙が止まらなかったのである。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしその音声おんじょうのうちには烈々と燃ゆる生命の火が感じられ、そして、みずからを笑うがごとく、あざけるがごとく
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼延灼こえんしゃくをごらんあって、徽宗もたいそう頼もしがられた。風貌、物ごし、音声おんじょう、まさに万夫不当ばんぷふとう骨柄こつがらである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、先へ落ちて行くと、またもや行くての闇のうちから、こう美しい音声おんじょう揶揄からかうように響いてきた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて康清は有名な美声家なので、その音声おんじょうは、はるか山門の方にまでよく聞え、そのへんで出御待しゅつぎょまちしていた武者輩むしゃばらまでが、しいんと、一とき耳を洗われていた。
その音声おんじょうには、天井でも床下でも、十方の暗闇を見破っている人間の五韻ごいんが感じられて、その人間のいるすぐ下を通ることが、危険に思われてならないのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近侍が立ち去るとともに阿波守、また朗々たる音声おんじょうで鳴門舞を舞いだした。だが、舞いながらそのまなざし、ふすまぎわに居流れている女中たちの数をスッカリ読んでいた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菅笠、割羽織わりばおりを着けたひとり、岩のごとく道をふさいで立つかと思うと、威圧のこもった音声おんじょう
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
噂に聞いていた旅川周馬か? イヤそれにしてはたしかにさっきのいらえが女の音声おんじょうであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の一かつに、人々は耳を打たれた。正成の声とも思われぬほどそれは大きな音声おんじょうだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳴門舞の謡声うたごえより、なお太やかな音声おんじょうをして、阿波守重喜ハッタと庭面にわもにらみすえた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、相模守は、おごそかな音声おんじょうで、御奉書でも、読み聞かせるように、云い渡した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その音声おんじょうは秀吉とちがって雪の夜を囁く叢竹の如く沈重であり、言語はいやしくもむだをじえない。そして一礼のうちにもその為人ひととなりおのずかほのかにめるようなゆかしさと知性の光があった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よう分ります。あなたの五韻ごいん音声おんじょうが数年前とはまるで違っております」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠いようで近い声——さびたる音声おんじょうでまた弱々しげな声でもあります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遂に——小六は眼をまぎらして、同時に、当りまえな音声おんじょうで呼びかけた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
音声おんじょうたからかに呼んで近づいてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
異様な音声おんじょうを発したのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)