雲霧くもきり)” の例文
ひとりの男の目まぜに働く四、五人の黒衣くろご、それはまさしく、徳川万太郎を暗殺することのくじを引きあてた、雲霧くもきり仁三にざの一組です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へだては次第しだいかさなるばかり、雲霧くもきりがだんだんとふかくなつて、おたがひのこゝろわからないものにりました、いまおもへばそれはわたしから仕向しむけたので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山のいただきは雲霧くもきりにかくれてみえませんでした。やがて雪が降りはじめて、風がつめたく吹いて来ました。
人間の知らない山の奥に雲霧くもきりを破った桃の木は今日こんにちもなお昔のように、累々るいるいと無数のをつけている。勿論桃太郎をはらんでいた実だけはとうに谷川を流れ去ってしまった。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五月雨さみだれで田圃が白くなり、雲霧くもきりで遠望が煙にぼかさるゝ頃は、田圃の北から南へ出るみさきと、南から北へと差出る𡽶はなとが、ながら入江をかこむ崎の如く末は海かと疑われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もう別にうまい物を喰度たべたいという気もなし、只観音様へ向ってお詫事をして居るせえか、胸のうち雲霧くもきりが晴れて善におもむいたものだから、皆さんがお比丘様/\と云って呉れ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人はこういうところに、こうしていても、胸の雲霧くもきりれぬ事は、られぬふすま相違そういはない。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まつかしはは奥ふかくしげりあひて、二一青雲あをぐも軽靡たなびく日すら小雨こさめそぼふるがごとし。二二ちごだけといふけはしきみねうしろそばだちて、千じん谷底たにそこより雲霧くもきりおひのぼれば、咫尺まのあたりをも鬱俋おぼつかなきここちせらる。
雲霧くもきりは流れて、ざわついて、渦巻いて
それからも千ぞくの稲が来る。雲霧くもきり仁三にざが来る。そのほか、有名無名の白浪たちが「目ざまし草」の胴乱をかけ、たばこを仕入れに出入りします。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此坊このばうやのうまれてやうといふ時分じぶん、まだわたし雲霧くもきりにつゝまれぬいてたのです、うまれてからのち容易よういにはれさうにもしなかつたのです、だけれども可愛かあいい、いとしい
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
弓弭ゆはず清水しみずむすんで、弓かけ松の下に立って眺める。西にし重畳ちょうじょうたる磐城の山に雲霧くもきり白くうずまいて流れて居る。東は太平洋、雲間くもまる夕日のにぶひかりを浮べて唯とろりとして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかしある寂しい朝、運命は一羽の八咫鴉やたがらすになり、さっとその枝へおろして来た。と思うともう赤みのさした、小さい実を一つついばみ落した。実は雲霧くもきりの立ちのぼる中にはるか下の谷川へ落ちた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
暗き雲霧くもきり
たちまち雲霧くもきりのように消え去ッてしまう乱波らっぱ(第五列)的な土軍の出没が近ごろになっていちじるしい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いたしませぬ勘藏かんざう乳母ばあやながあひだこゝろづかひさぞかしとどくわたしこゝろいまもいふとほはれてみればまよひは雲霧くもきりこれまでのすこしもなしかならかなら心配しんぱいしてくださるなよと流石さすがこゝろよわればにや後悔こうくわいなみだ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
最前ここへ訪ねて来て、そこに居合せた雲霧くもきりと四ツ目屋も、声を合せて笑いながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)