)” の例文
彼は宵のユスリの旨く行かなんだを猶だ気にえて居るのか、顔の柔和さに比べては何となく不機嫌である、話に釣り込れようとはせぬ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そういいながら葉子は少し気にえたらしく、炭取りを引き寄せて火鉢ひばちに火をつぎ足した。桜炭の火花が激しく飛んで二人ふたりの間にはじけた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人気もおだやかなり、積んだものを見たばかりで、鶴谷様御用、と札の建ったも同一おなじじゃで、誰も手のはござりませぬで。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
申上げるかも知れませんけれど、お気にへては困りますの。しかし、御酒ごしゆの上で申すのではございませんから、どうぞそのおつもりで、よろしうございますか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
気にへましたのですか昨日午後ふいと外出致しまして、夕方おそくお酒をいたゞいて帰つて参りましたがそれきりろくに口もきかないでやすんでるのですよ。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
養母はその時、青柳にその時々に貸した金のことについて、養父から不足を言われたのが、気にわったと云って、大声をたてて良人にってかかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
実は眼にえる何物もないのであります。骨の中の髄漿と申しましょうか、明瑩々めいえいえい、玲瓏そのものであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何かおこっているかも知れんが、怒るのはむこうるいからで、先方がおとなしくしてさえいれば一身上の便宜も充分計ってやるし、気にわるような事もやめてやる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
門左はひどくしやくへたらしかつたが、その折は唯笑つて済ました。それから二三日過ぎると、珠数屋あてに手紙を一本持たせてやつた。珠数屋は封を切つてみた。
「いや——気にえられては困る——もし、左様な女丈夫であったなら、某——命にかけても——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「気にえたら、詫びます、あやまります——今夜こそ、ゆっくりしていて——頼みますぞえ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
(取りふる人なき宿には、三つ女錐こそ、揉み合ひなれ。あな広びろ、ひろきあなかな)
壁とは目をえぎり、視覚を覆うものの所謂いいである。それを透して見んとする意志がかぎりなく働く。不自由と、必然を透して自由を得んとする努力、そこに芸術のもつ執拗性がある。
(新字新仮名) / 中井正一(著)
それがつひどくにてひたるなれど、こゝろはらば二とははじ、そなたすてられてなにとしてかにはつべき、こゝろおさなければにあまることもらん、腹立はらたゝしきこともさはならんが
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わるな障わるなという心持から、話をあらぬ方へ反らせたのであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此のたびは又不思議な御縁で、以来は幾久しく何分にも御別懇に願います、此の者は眞葛周玄と申すが、只今喰酔たべよっておりまして失礼の事のみ申上げ甚だ相済まんが、何卒なにとぞお気にえられぬよう
親睦会は出来るんです、実に気色にはりますけれどネ、教会の御祝だと思ふから忍んで参つたのです——其れはサウと、老女おばさん、篠田様しのださんは今日御見えになるでせうか、ほんとに、御気の毒で
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「気にえちゃいけないことよ、あの……」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その晩、事務長が仕事を終えてから葉子の部屋へやに来ると、葉子は何か気にえたふうをしてろくろくもてなしもしなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただおかしいのはこの閑人ひまじんがよるとわると多忙だ多忙だと触れ廻わるのみならず、その顔色がいかにも多忙らしい、わるくすると多忙に食い殺されはしまいかと思われるほどこせついている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文「左様なら致し方がないが、どうかお気にえられて下さるな」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
言つて、気にへて貰つては困りますが、先刻さつきの婦人に対するあなたの応対ぶりは、まだ十分とは言へなかつたやうですね、あの方は此方こつちの出やうによつては、もつとおもとめになつたかも知れませんよ。
その桜の木へわったが、萩野は幹へ額をあてた。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこに行くとあまり融通のきかない監督では物足らない風で、彼を対手あいてに話を拡げて行こうとしたが、彼は父に対する胸いっぱいの反感で見向きもしたくなかった。それでも父は気にえなかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わったからじゃ。……殺されたのじゃ」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自然は何かに気をえだしたように、夜とともに荒れ始めていた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
繊手を延ばすと髪へわり
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)