釘付くぎづけ)” の例文
ぶたい花みちは雪にて作りたる上に板をならぶる、此板も一夜のうちにこほりつきて釘付くぎづけにしたるよりもかたし。だん国にくらぶればろんほかなり。
さて松川に入塾して、たゞちに不開室あかずのまを探検せんとせしが、不開室は密閉したるが上に板戸を釘付くぎづけにしたれば開くこと無し。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は身動きもせず、眼を見開き、口を開け、のどの奥で息をしながら、恐怖のために釘付くぎづけにされる。そのふくれた大きな顔にはしわが寄って、痛ましい奇怪な渋面じゅうめんになる。
そのうちに、夫人はハタと、青木淳が書き遺した文字を見付けたらしい。さすがに美しいひとみは、卓の上に開かれたノートの頁の上に、釘付くぎづけにされたように、止ってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
で思わずその方向へ視線を送ると、正面の二階席の一番前列に、あの人が何とも言いようのない顔をして、両眼を釘付くぎづけにされたようにして舞台の妾をにらんでいるのです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ほんに世の中の人々は、一寸ちょっとした一言ひとことをいうては泣き合ったり、笑い合ったりするもので、己のように手の指から血を出して七重ななえ釘付くぎづけにせられたかどの扉をたたくのではない。
と共に、水の向の二人の視線も、水のこなたの二人に落ちた。見合す四人は、互に互を釘付くぎづけにして立つ。きわどい瞬間である。はっと思う刹那せつなを一番早く飛びえたものが勝になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「射撃をめろ。止めないと、人造島の心臓部を止めてしまうぞ」この一言が、たしかに利いたとみえて、敵の一斉射撃が、急に止み、一隊は、その場に釘付くぎづけにされたかたちとなった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そのまた隣のというのがすこぶる怪しいものだ、何しろ四方がすべ釘付くぎづけになって不開あけずともいった風なところなので、襖戸ふすまどの隙から見ると、道場にでもしたものか、十畳ばかりの板敷で
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
ういふ無残むざんあつかひはどうしても他人たにんまかせられねばならなかつた。いたまゝばら/\につて棺臺くわんだいつててから近所きんじよ釘付くぎづけにされた。其處そこにはあさはこさかさにしたものが出來できた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ぶたい花みちは雪にて作りたる上に板をならぶる、此板も一夜のうちにこほりつきて釘付くぎづけにしたるよりもかたし。だん国にくらぶればろんほかなり。
このきを螺旋鋲らせんびょうの頭へ刺し込んでぎりぎり廻すと金槌かなづちにも使える。うんと突き込んでこじ開けると大抵の釘付くぎづけの箱なんざあ苦もなくふたがとれる。まった、こちらの刃の先はきりに出来ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付くぎづけにした。それから大きな赤いだいだい御供おそなえの上にせて、床の間にえた。床にはいかがわしい墨画すみえの梅が、はまぐり格好かっこうをした月をいてかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
通町とほりちやうではくれうちから門並揃かどなみそろひ注連飾しめかざりをした。徃來わうらい左右さいうなんぽんとなくならんだ、のきよりたかさゝが、こと/″\さむかぜかれて、さら/\とつた。宗助そうすけも二しやくあまりのほそまつつて、もんはしら釘付くぎづけにした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)