軌道レール)” の例文
『列車はあやまって軌道レールを滑り出したのち、数百ヤードの間軌道レールに沿うて流れておるランカシアー運河の中へ陥没してしまったものだろう』
それは見晴しのい峠の山道を、ひとりでゆっくり歩きたかったからであった。道は軌道レールに沿いながら、林の中の不規則な小径を通った。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
トロは昔軍人のこしらえたのを、手入もせずに、そのまま利用しているらしい。軌道レールの間から草が生えている。軌道の外にも草が生えている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恵比須停車場の新設地まで泥土を運搬して行った土工列車が、本線に沿うてわずかに敷設された仮設軌道レールの上を徐行して来る。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
そして部屋の外には、可也かなり広いアスファルト路面の廊下が、どこまでも続いていて、なにが通るのか、軌道レールが敷いてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家鴨あひるが外套を脱いで鴨鍋へ飛び込むやうに、自殺でもしようといふ心掛こゝろがけのある者は、履物を脱ぎ揃へて軌道レールに横になる位の儀式はちやんと心得てゐる。
その入口から肉挽にくひき器械の前まで幅の狭い軌道レールが敷いて在ったんで……その菜ッ葉服の男が押しているトロッコが、あっし等の眼の前まで来て停まりますと
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると軌道レール沿ふて三にん田舍者ゐなかもの小田原をだはら城下じやうかるといふ旅裝いでたちあかえるのはむすめの、しろえるのは老母らうぼの、からげたこし頑丈ぐわんぢやうらしいのは老父おやぢさんで
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私がこの難儀な小径を降りて、低い所に来た時には、信号手はいま列車が通過したばかりの軌道レールの間に立ちどまって、私が出てくるのを待っているらしかった。
あれだけ縦横な軌道レールを敷いたことは、わたしをびっくりさせた。
どこまで行っても話は軌道レールに乗りません。
その上軌道レールの上はとにかく、両側はすこぶるぬかっている。それだのに初さんはちゅうぱらでずんずん行く。自分も負けない気でずんずん行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
列車が軌道レールなき土地を進行するは明らかに不可能なり。したがっ吾人ごじんは、この「事実らしからぬこと」を次の三引込線に帰せんとするものなり。
目的地への道標として、私が唯一のたよりにしていた汽車の軌道レールは、もはや何所にも見えなくなった。私は道をなくしたのだ。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「東京から青森まで行く間にちょうど、一里十六町ばかり、軌道レールなしで走るところがあるね」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
軌道レール直角ちよくかく細長ほそなが茅葺くさぶき農家のうかが一けんあるうらやまはたけつゞいてるらしい。いへまへ廣庭ひろにはむぎなどをところだらう、廣庭ひろにはきあたりに物置ものおきらしい屋根やねひく茅屋くさやがある。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
どんな粗忽屋そゝつかしやでも下駄を穿いた儘で軌道レールに飛び込むやうな無作法な事はしない。
代助と軌道レールの間には、土か石の積んだものが、高い土手の様に挟まっていた。代助は始めて間違った所に立っている事を悟った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次にカーンストック鉄工場引込線は、六月三日は十六台の赤銅鉄運搬車が軌道レールを遮りて留め置かれありし事実あり。
軌道レールなしに走る汽車があるだろうか」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
代助と軌道レールあひだには、つちいしんだものが、たかい土手の様にはさまつてゐた。代助ははじめて間違まちがつた所につてゐる事を悟つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と思うと、軌道レールを横へ切れて、右へ曲った。だらだら坂の下りになる。もう入口は見えない。振返っても真暗だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の頭は彼の乗っている電車のように、自分自身の軌道レールの上を走って前へ進むだけであった。彼は二三日にさんち前ある友達から聞いたポアンカレーの話を思い出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
電車を下りてくるまに乗ると、その俥は軌道レールを横切って細い通りを真直まっすぐけた。馳け方があまりはげしいので、向うから来る自転車だの俥だのと幾度いくたびか衝突しそうにした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちんちん動きますを支那の口で稽古けいこしている最中なのだから、軌道レールがここまで延長して来るのは、別段怪しい事もないが、気がついて見ると、鉄軌レールかたが少々違うようである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あすこの前を右へついて上がると、軌道レールの敷いてある所へ出る。それから先は一本道だ。おれはまだ時間が早いから、もう少し働いてからでなくっちゃあ出られない。晩には帰る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助はかるはこが、軌道レールうへを、苦もなくすべつてつては、又すべつてかへる迅速な手際てぎはに、軽快の感じを得た。其代り自分とおなみちを容赦なく往来ゆきゝする外濠線そとぼりせんくるまを、常よりは騒々しくにくんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助は軽い箱が、軌道レールの上を、苦もなく滑って行っては、又滑って帰る迅速な手際てぎわに、軽快の感じを得た。その代り自分と同じみちを容赦なく往来ゆききする外濠線の車を、常よりは騒々しくにくんだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ駅員が来て、今松山まつやまを出たそうですからと断った。その松山ははるか向うにある。余は軌道レールの上に立って、一直線の平たいみちを視力のつづく限り眺めた。しかしトロの来る気色けしきはまるでなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)