たから)” の例文
武士たるもの二〇みだりにあつかふべからず。かならずたくはをさむべきなり。なんぢいやしき身の分限ぶげんに過ぎたるたからを得たるは二一嗚呼をこわざなり。
してみれば、埋めてあるたからを一日も早く取り出したいと思っているに相違ない。片門前は二町であるが、さのみ広い町ではない。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは無事に落ち著いてもたからは二つの山割りか、悪くいけばみ合いになるに決っていた。袴野は失敗しまったとつぶやいたが
それは国中のつみたからとの流れ込む都の中で、何十年の昔から生き代り死に代ったみめ麗しい多くの男女の、夢の数々から生れ出づべき器量であった。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
資産しんだいはむしろ実家さとにもまさりたらんか。新華族のなかにはまず屈指ゆびおりといわるるだけ、武男の父が久しく県令知事務めたるに積みしたから鉅万きょまんに上りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一人が敵に囚はれなば、たからのすべてを売り払ひ、必らず友を身受せん。それも叶はぬ暁は共に囚虜の苦を嘗めん。
……で私はその黄金を、巧みに利用したからを積んだところの、祖先に対して有難やと、お礼申して居りまする次第で
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
懸賞金百円の沙汰さた即日四方に喧伝けんでんして、土地の男女老若を問わず、我先にこのたからんと競いち、手に手に鎌を取りて、へいげん門外の雑草を刈り始めぬ。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このままたからを抱えて、安閑として成るがままに任せてお置きになりますか、但しは、ここで乾坤一擲けんこんいってき——
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家とたからとを失ひ、自分自身をさへ失つた男が、先づ何を措いても、こんな目に逢はせた、敵に思ひ知らせてやらうと言ふ、思ひ斷つことの出來ない深怨しんゑんの恐ろしさを見て
あたえめぐむべき事あらばたからおしむべからず。但し我気に入りたるとて用にも立ぬ者に猥に与ふべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
俵は中なる納物いれものを、取れども/\尽きざりける間、財宝倉に満ちて、衣裳身に余れり、故にその名を、俵藤太とはいひけるなり、これは産業のたからなればとて、これを倉廩そうりんに収む
天皇、大長谷の若建わかたけの天皇の御子、春日の大郎女に娶ひて、生みませる御子、高木の郎女、次にたからの郎女、次に久須毘くすびの郎女、次に手白髮たしらがの郎女、次に小長谷をはつせ若雀わかさざきの命、次に眞若まわかの王。
けんにしてたからおほければ則ち其志そのこゝろざしそんにしてたからおほければ則ち其過そのあやまちを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
媼はかく問はれても、顧みもせで我面のみ打ち目守り、詞をぎていふやう。賢き目なり。日の金牛宮を過ぐるときうまれぬ。名もたからも牛の角にかゝりたりといふ。此時母上も歩み寄りてのたまふやう。
ひとたから
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
助、豊雄をにらまへて、なんぢ神宝かんだからを盗みとりしはためしなき一七六国津罪くにつつみなり。なほ種々くさぐさたから一七七いづちに隠したる。明らかにまうせといふ。
してみれば、埋めてあるたからを一日も早く取出したいと思っているに相違ない。片門前は二町であるが、さのみ広い町ではない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ではあたしが都はずれまでこの方を送りとどけたら、苦情は両方になかろう、貝どの、それでたからは山割りにし今日のところ引きわかれにして下さらぬか。」
あの女がったのだ、あの女が、泊り合わせた美僧と美女の情合いをねたんで、美僧がかけて置いた釘頭ていとうたからを、そっと奪って隠したればこそ、二人は命を失った
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家とたからとを失い、自分自身をさえ失った男が、まず何をいても、こんな目に逢わせた、敵に思い知らせてやろうという、思い断つことの出来ない深怨しんえんの恐ろしさを見て
身体からだが大事だ、どんな家だって、たからだって、自分にかえられるものはない、分ったか。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
げにそのとほり両人は、何にもあれ、贏ち得したからを分ちあひ、掠めし牛馬を等分せり。
またおやじ臣が女、弟比賣に娶ひて、生みませる御子、たからの王、次に多訶辨たかべの郎女、并はせて四柱ましき。天皇御年六十歳むそぢ。(丁丑の年七月に崩りたまひき。)御陵は毛受野もずのにありと言へり。
四一野伏等のぶしらはここかしこにさいをかまへ、火を放ちてたからを奪ふ。四二八州はつしうすべて安き所もなく、浅ましき世のつひえなりけり。
おれの霊魂はいつまでも自分のたからを守っている。万一おれの墳墓をあばこうとする者があればたちまちに生命をうしなって再び世に帰ることは出来ないと思え。
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「この女の代りにたからは皆袴野ノ麿に進ぜよう、と、そうおれが計っているところだ、だが、袴野は財は山割りにして女はみやこにかえした方がよいというのだ。」
お江戸では、権現様以来蓄えた莫大なおたからも、もう使い果してしまったし、上方でも、どのお大名も内緒はみんな火の車。ですから、人には不足はないが、お金の戦争。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれもと旗本のむすめなりき、幼にして両親を失い、嫁して良人おっとを失い、人に計られてたからを失い、餬口ここうのために家を失い、軒下に眠ること実に旬余、辛酸を喫してしゃくに閉じられてすでに絶せんとせるとき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朱丹の霊魂がそのたからを守っている——その伝説をアンは無論に知っていたでしょうし、またそれを信じていたでしょうが、恋に眼のくらんでいる彼はその怖ろしいのも忘れてしまって、いや
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)