豊国とよくに)” の例文
旧字:豐國
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいしは不夜城の歓楽に人をいざなひ、北斎ほくさい広重ひろしげは閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
節子の手箱の底には二枚続きの古い錦絵にしきえも入れてあった。三代豊国とよくにの筆としてあって、田舎源氏いなかげんじの男女の姿をあらわしたものだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この角の向側に牛肉屋の豊国とよくにがある。学生の頃の最大のラキジュリーは豊国の牛鍋ぎゅうなべであった。色々の集会もここであった。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「花がたみ——この方は人情本でございます、これは琴声美人録——、馬琴の美少年録をもじったような作でございます、絵は豊国とよくにでございます」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
徳川の末期、歌川うたがわ派の豊国とよくにが一世の人気を集めてから、この自由と魅力の芸術——浮世絵の勃興は眼を驚かしました。
或いは年中作り物のような複雑な頭をして、かさ手拭てぬぐいもかぶれなくしてしまったのは、歌麿うたまろ式か豊国とよくに式か、とにかくについこの頃からの世の好みであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一昨年の筆禍ひっか事件以来、人気が半減したといわれているものの、それでもさすがに歌麿のもとへは各版元からの註文が殺到して、当時売れっ子の豊国とよくに英山えいざんなどを
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
休憩時間は十ぷんである。廊下へ出るもの、喫煙に行くもの、用をして帰るもの、が高柳君の眼に写る。女は小供の時見た、豊国とよくに田舎源氏いなかげんじを一枚一枚はぐって行く時の心持である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豊国とよくにかがみやま石戸いはとこもりにけらしてどまさぬ 〔巻三・四一八〕 手持女王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
久保猪之吉いのきち氏が学会で九州から上京され、駿河台の宿屋に泊っておられ、豊国とよくにの描いた日本で最初に鼻茸を手術した人の肖像を写すことを依頼されて、その宿屋に毎日私が通っている時に
泉鏡花先生のこと (新字新仮名) / 小村雪岱(著)
大谷勇吉の『顔粧かおつくり百伝』や三世豊国とよくにの『似顔絵相伝』などにもげられておりますとおりで、鉄漿を含みますと、日頃含み綿をする女形おやまにもその必要がなく、申せば、顔の影と明るみから
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
結局牛鍋ぎゅうなべのジクジク云う音を聞いて、ぐびり/\やりながらお互の真紅まっかな顔を睨み合うのが一番景気が好さそうだと云う事になって、大学裏門側の豊国とよくにへ躍り込んだのは午後四時頃であった。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただあのあたりの風景にして気にかかる構成上の欠点は、図書館の近くにある豊国とよくに神社の屋根と鳥居とりいである。あれは、誰れかが置き忘れて行った風呂敷包ふろしきづつみであるかも知れないという感じである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
玄冶店げんやだなにいた国芳くによしが、豊国とよくにと合作で、大黒と恵比寿えびす角力すもうをとっているところを書いてくれたが、六歳むっつ七歳ななつだったので、何時いつの間にかなくなってしまった。画会なぞに、広重ひろしげも来たのを覚えている。
優曇華うどんげ物語』の喜多武清きたぶせいの挿画が読者受けがしないで人気が引立たなかった跡を豊国とよくにに頼んで『桜姫全伝』が評判になると、京伝は自分の作が評判されるのは全く挿絵のおかげだと卑下して、絵が主
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
豊国とよくに』のぼやけし似顔にがほなまぬるく
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいし不夜城ふやじょうの歓楽に人をいざなひ、北斎広重は閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえば豊国とよくになどでも、もう線の節奏が乱れ不必要な複雑さがさらにそれを破壊している。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その手箱の底には岸本の写真と彼女自身のとを合せてしまって置くような女らしいこともしてあった。しかし、岸本の心を引いたのは一陽斎豊国とよくにの筆とした一枚の古い錦絵にしきえであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
豊国とよくにの由布の高根は富士に似て雲もかすみもわかぬなりけり
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
豊国とよくに行宮かりみや
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
歌川豊国とよくにはその時代(享和二年)のあらゆる階級の女の風俗を描いた絵本『時勢粧いまようかがみ』のうちに路地の有様を写している。
浮世絵風俗画は鈴木春信すずきはるのぶ勝川春章かつかわしゅんしょう鳥居清長とりいきよながより歌麿うたまろ春潮しゅんちょう栄之えいし豊国とよくにの如き寛政かんせいの諸名家に及び円熟の極度に達せし時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
歌川豊国とよくにはその時代(享和二年)のあらゆる階級の女の風俗を描いた絵本時勢粧いまやうかゞみうちに路地の有様を写してゐる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
便所によって下町風な女姿が一層の嬌艶きょうえんを添え得る事は、何も豊国とよくに国貞くにさだ錦絵にしきえばかりには限らない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
歌麿うたまろ春潮しゅんちょう栄之えいし豊国とよくにら近世浮世絵の諸流派はことごとく清長が画風の感化をこうむりたるものにして、浮世絵は清長及びそが直接の承継者歌麿の二人ににんに及びてその最頂点に達したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こはすぐる日八重わが書斎にきたりける折書棚の草双紙くさぞうし絵本えほんたぐい取卸とりおろして見せけるなか豊国とよくにが絵本『時勢粧いまようすがた』に「それしゃ」とことわり書したる女の前髪切りて黄楊つげ横櫛よこぐしさしたる姿のあだなる
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大きな如輪じょりん長火鉢ながひばちそばにはきまって猫が寝ている。ふすまを越した次の座敷には薄暗い上にも更に薄暗いとこに、極彩色ごくさいしき豊国とよくにの女姿が、石州流せきしゅうりゅう生花いけばなのかげから、過ぎた時代の風俗を見せている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)