読本とくほん)” の例文
旧字:讀本
茶色ちゃいろ表紙ひょうしに青いとじ糸を使い、中のかみ日本紙にほんし片面かためんだけにをすったのを二つりにしてかさねとじた、純日本式じゅんにほんしき読本とくほんでした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
ない所か、自分の隣にいる、ある柔道の選手の如きは、読本とくほんの下へ武侠世界ぶきょうせかいをひろげて、さっきから押川春浪おしかわしゅんろうの冒険小説を読んでいる。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとりの小説家しょうせつかのおばさんが、小学校で使う読本とくほんにスウェーデンのことを書きたいと思って、いっしょうけんめい考えていました。
春吉君は、がたっとこしかけをうしろへのけ、直立不動のしせいをとり、読本とくほんを持った手を、思いきり顔から遠くへはなした。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
ロシヤの読本とくほんや、ドイツの読本などに比べて見ると、この教育方法のいかに妥協的で表面的であるかといふことがわかる。
スケツチ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
腫物はれもののようにぶわぶわしたたたみの上に腹這って、母から読本とくほんを出してもらうと、私は大きい声を張りあげて、「ほごしょく」の一部を朗読し始めた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
読本とくほんを読ませたり、算術をやらせたりしたが、その時、賢がちょっとでも読みつかえたり、問題が解けなかったりすると、頭からがみがみ叱って
中学校に進んで、一、二年の間はその頃新に文部省で編纂した英語読本とくほんが用いられていたが書名は今覚えていない。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あなた方が前にあの空のさそりの悪い心を命がけでお直しになった話はここへも伝わって居ります。私はそれをこちらの小学校の読本とくほんにも入れさせました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
昨日きのう買っていただいた読本とくほんの字引きが一番大切で、その次ぎに大切なのは帽子なんだから、僕は悲しくなり出しました。涙が眼に一杯たまって来ました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まだ学校へ入らぬ前から読本とくほんなぞも自由に読め、つ同年位の子の無智を軽蔑したがる癖があつたのと、一つには父が土地の小学の校長をしてゐた為めに
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
ぼく歴史れきしきだ。やはりうみ学校がっこう読本とくほんにも、だんうら合戦かっせんのことがいてあるかえ。」とききました。
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
読本とくほんをあけて見る。ありとあらゆる作者のあらゆる文体の見本が百貨店の飾棚のごとく並べられてある。
小供はセルロイドの玩器おもちゃを持つ、年寄は楽焼らくやき玩器おもちゃを持つ、と小学読本とくほんに書いて置いても差支さしつかえない位だ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
子供が池に帆のある船を浮かべたり、独楽こまや輪を廻して遊んだりするのはナシヨナル読本とくほんの中の景色だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
やがて忘れてな、八時、九時、十時と何事もなく課業を済まして、この十一時が読本とくほんの課目なんだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度は必要だという上から考えて、私はやむをえず近所の語学の先生のもとへ通ってようや読本とくほんの一冊を習得してしまったのだ。それと同時に乗船の日が到来したのだった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
長松はそばに行儀よくすわってあくびをみ殺しながら反古紙ほごがみの皺をのばし、手習帳をつくって、どうにも眠くてかなわなくなれば、急ぎ読本とくほんを取出し、奥に聞えよがしの大声で
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たわむれにいろは教うればいろはを覚え、戯れに読本とくほん教うればその一節二節を暗誦し、小供らの歌聞きてまた歌い、笑い語り戯れて、世の常の子と変わらざりき。げに変わらずみえたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
本はユニオン読本とくほんの第四で先生は坪内(雄蔵ゆうぞう)先生であつた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何しろ私は、どこで覚えたのか自分でも知らないが、尋常二年の時は六年の読本とくほんが、三年の時には高等二年の修身しゅうしんが、たいした苦痛なしに読めたのだ。
今では小学校の読本とくほんは、日本中どこへいっても同じのを使つかっておりますが、その当時とうじは、北海道用という特別とくべつのがあって、わたしたちは、それをならったものです。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
兄は開化人とでも申しませうか、英語の読本とくほんを離したことのない政治好きの青年でございました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
嘉ッコは、黒猫くろねこをしっぽでつかまへて、ギッと云ふくらゐに抱いてゐました。向ふ側ではもう学校に行ってゐる嘉ッコの兄さんが、かばんから読本とくほんを出して声を立てて読んでゐました。
十月の末 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
坂市君や、源五兵衛げんごべえ君や、照次郎てるじろう君などが、知らない文字をうのみにして読本とくほんを読んでいっても、最初のころのように、え、え、と、優美にとがめるようなことはされなくなった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
新しい教師はテーブルの前に来て椅子いすに腰を掛けたが、その顔は赤かった。読本とくほんを一冊持って来たが、テーブルの上に顔をたれたまま、しばしの間は、その教科書のページをひるがえして見ていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
標準語が定められ、読本とくほんがあり、作文がある今日、相当教養あるものが、何かのあいさつや講演をするのに持って生れた大阪弁をそのまま出しては、立派な説も笑いの種となる事が多い。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
とほくに、行々子ぎやう/\しきしきつて、こゝにかはづがすだく——あひだを、わあーとつないで、屋根やねもんえないで、あの、遅桜おそざくらやまのうらあたり、学校がくかう生徒せいとの、一斉いちどき読本とくほん音読おんどくはすこゑ
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嘉ッコは、黒猫くろねこをしっぽでつかまえて、ギッと云うくらいにいていました。向う側ではもう学校に行っている嘉ッコの兄さんが、かばんから読本とくほんを出して声を立てて読んでいました。
十月の末 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
読本とくほんと出席簿とを抱えた毛利もうり先生は、あたかも眼中に生徒のないような、悠然とした態度を示しながら、一段高い教壇に登って、自分たちの敬礼に答えると、いかにも人の好さそうな
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、いちばんうしろのかべぎわに発見した。石太郎は、新しい先生だからてれくさいとみえて、つくえの上に立てた表紙のぼろぼろになった読本とくほんのかげに、かみののびた頭をかくすようにしていた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
「や! 読本とくほんを買いましたね。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五年生の人は読本とくほんの(二字空白)ページの(二字空白)課をひらいて声を
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さて、じぶんの席について読本とくほんをひらいた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)