こぼ)” の例文
でも何もそんなむずかしい御山おやまではありません。ただ此処ここ霊山れいざんとか申す事、酒をこぼしたり、竹の皮を打棄うっちゃったりするところではないのでございます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺はむかしお万のこぼした油をアめて了つた太郎どんの犬さ。其俺の身の上ばなしが聞きたいと。四つ足の俺に咄して聞かせるやうな履歴があるもんか。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
なんだよ、猪口ちよこの中へ指をんでサ、もういてるから、おさけこぼれる気遣きづかひはないは。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
同時に自分を案外安く扱う世間の声が耳に入ると不愉快でたまらなくなって愚痴をこぼすようになった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一夏はげしい暑さに、雲の峰も焼いたあられのように小さく焦げて、ぱちぱちと音がして、火の粉になってこぼれそうな日盛ひざかりに、これからいて出て人間になろうと思われる裸体はだかの男女が
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おや、山に十の字の焼印やきいんがあるね、これおれとこ沢庵樽たくあんだるぢやアないか。金「なんだか知れませぬが井戸端ゐどばたに水がつてあつたのをこぼしてもつましたが、ナニぢきに明けてお返しまうします。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
或る雑誌にをり/\述懐めいた随筆が出るが、いつぞや嬢様は読んで涙をこぼしてらしツたつけ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
も一つきのこで、名も知らぬ、可恐おそろしい、故郷ふるさとの峰谷の、蓬々おどろおどろしい名の無いくさびらも、皮づつみのあんころ餅ぼたぼたとこぼすがごとく、たもとに襟にあふれさして、山野の珍味にかせたまえる殿様が
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも博文館に入ってから一年ほど経った或時、近頃は忙がしくて紅葉さんのとこばかりへ行ってられないで諸方へ顔を出すので、紅葉さんの御機嫌が悪くて困ると愚痴ぐちこぼした事があった。
可恐おそろしいのは、一夜あるよ、夜中に、ある男を呪詛のろっていると、ばたりと落ちて、脇腹から、鳩尾みずおちの下、背中と、浴衣越しに、——それから男に血を彩ろうという——べにの絵の具皿のこぼれかかったのが
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トヾの結局つまり博物館はくぶつくわん乾物ひもの標本へうほんのこすかなくば路頭ろとういぬはらこやすが学者がくしやとしての功名こうみやう手柄てがらなりと愚痴ぐちこぼ似而非えせナツシユは勿論もちろん白痴こけのドンづまりなれど、さるにても笑止せうしなるはこれ沙汰さた
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)