表面うはべ)” の例文
わたくし一人だと買物をするのに何だかきまりが付かなくつて困りますのよ。表面うはべだけでもいゝからいゝとか何とか合槌を打つて下さる方が欲しいのよ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
はらに思案の吉蔵が、表面うはべばかりの喜び顔『それ程までに吉蔵を、思召して下さるからは、滅多に置かぬ、狂言ながら、かうも致してみましうか』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
されども世俗の見解けんげには堕ちぬ心の明鏡に照らして彼れ此れ共に愛し、表面うはべの美醜に露なづまれざる上人の却つて何れをとも昨日までは択びかねられしが
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
イヷンを真似たのつそりした態度がやがて表面うはべに現はれて来て、そしてある夜楢雄は砒素ひそを飲んだ。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
ことなどは大厭だいきらひ性質たちであるから一同いちどうそのこゝろんで、表面うはべなみだながものなどは一人ひとりかつた。
あるひは、貴方等の目から御覧に成つたらば、吾儕わたしども事業しごと華麗はででせう。成程なるほど表面うはべは華麗です。しかし、これほど表面が華麗で、裏面うらの悲惨な生涯しやうがいは他に有ませうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さりとては無情つれなき仕打、會へば背き、言へば答へぬ意地惡るは、友達と思はずば口をくも要らぬ事と、少し癪にさはりて、摺れ違うても物言はぬ中はホンの表面うはべのいさゝ川
大抵の女は、表面うはべこそ処女だけれども、モウ二十歳を越すと男を知つてるからなあ。…………
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
表面うはべの観察ではあるが巴里パリイを観て来た目で評すると概して英国の女は肉附にくづきの堅い、骨の形の透いて見える様な顔をして居て、男と同じ様な印象を受ける赤味がかつた顔が多い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
隨つてやかましくもあらう六づかしくもあろう夫を機嫌の好い樣にとゝのへて行くが妻の役、表面うはべには見えねど世間の奧樣といふ人達の何れも面白くをかしき中ばかりは有るまじ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
進んで答ふらく、「其の方法は五倫五常の道を守るに在ります」と。翁は頭をつて曰ふ、否々いな/\、そは金看板きんかんばんなり、表面うはべかざりに過ぎずと。因つて、左の訓言をつゞりて與へられたりと。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
「そんな子があるもんや。病やのう。」と其人は表面うはべでは心よく喫はして呉れた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
と心にちかひて表面うはべは辛抱したりし故久八は悦びいさ猶々なほ/\心を用ひ大切たいせつにぞ勤務つとめける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あなたをいどまうとしながら表面うはべでは学校のあの二人の才媛の何方どちらをあなたは未来の妻にしたいと思ふかなどと云ふ話ばかりをして居たと云ふこと、あなたは第一の才媛は容貌きりやうが悪いから厭だ
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私共のことまであれも是れもとお世話下さるんですもの、どうして阿母おつかさん、世間態や人前の表面うはべで、出来るのぢやありませんわねエ——近頃は又戦争が始まるとか、いやうはさばかり高い時節ですから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
表面うはべただ古地図ふるちづに似てすす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
父は何気ないやうに、済ましてゐるやうだつたが、然し内心の苦悶は、表面うはべへ出ずにはゐなかつた。殊に、父は相手の真意を測りかねてゐるやうだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あざむくと藤重は吾助に思はれ物をも多くもらひ花見遊山ゆさんなどにつれらるゝを甚だ心よくは思はねども商賣柄しやうばいがらなれば愛敬あいきやうを失ひては成ずと表面うはべにはうれしきていをなして同道せしが其折々無理むりなるこひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何にかけてやつなぐらんと思ひきや、四五日て瀧口が顏に憂の色漸く去りて、今までの如く物につけ事に觸れ、思ひ煩ふさまも見えず、胸の嵐はしらねども、表面うはべまきの梢のさらとも鳴らさず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
信吾は其話を、腹では真面目に、表面うはべはニヤ/\笑ひ乍ら聴いてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つい気にかゝる仕事の話し故思はず様子の聞きたくて、余計な事も胸の狭いだけに饒舌つた訳、と自分が真実籠めし言葉を態と極〻軽う為て仕舞ふて、何所までも夫の分別に従ふやう表面うはべを粧ふも
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人は私達の表面うはべを見て
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
水の表面うはべのささにごり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
眼の前では我が指揮さしづに従ひ働くやうなれど、蔭では勝手に怠惰なまけるやらそしるやら散〻に茶にして居て、表面うはべこそつくろへ誰一人真実仕事を好くせうといふ意気組持つて仕てくるゝものは無いは、ゑゝ情無い
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
表面うはべには出さぬけれど自然西山を援ける様になつて来た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)