行方ゆきがた)” の例文
しばらくのあひだまつた法廷ほふていうへしたへの大騷おほさわぎでした。福鼠ふくねずみしてしまひ、みんながふたゝ落着おちついたときまでに、料理人クツク行方ゆきがたれずなりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「のう! ——まことと致さばなにさまいぶかしい。騒ぎのもとと相成ったその伜はいずれじゃ。源七は行方ゆきがた知れずにでもなっておるか」
前様めえさま湯治たうぢにござつて、奥様おくさま行方ゆきがたれなくつたは、つひごろことではねえだか、坊様ばうさま何処どこいて、奥様おくさまことづけをたゞがの。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老叟らうそうしづかに石をでゝ、『我家うちの石がひさし行方ゆきがたしれずに居たが先づ/\此處こゝにあつたので安堵あんどしました、それではいたゞいてかへることにいたしましよう。』
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
薄くなる帯のなかに濃い筋がゆるやかに流れて、しまいには広い幅も、帯も、濃い筋も行方ゆきがた知れずになる。時に燃え尽した灰がぱたりと、棒のまま倒れる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お母さんが一郎をおぶったまま行方ゆきがたが知れなくなったので、こちらへ来たんじゃねえかと思ってやって来た。
樹氷 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「その徳松さんとかってえ子供衆は、今だに行方ゆきがた知れずなんですかい。」
今までは行方ゆきがたが知れなかつたから為方がないけれど、聞合せればぢきに分るのだから、それをはふつていちや此方こつちが悪いから、阿父さんにでも会つてもらつて、何とか話を付けるやうにして下さいな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勾引かどはかし何れへか引込みしが跡より追懸おひかけたづぬれ共一方行方ゆきがたしれ所々しよ/\方々はう/″\尋ね居れりと物語ものがたりけるに傳吉聞て偖てにくやつの仕業かな偖々御困りならん何れにか御商議さうだん申上げん程に私し方へお出あれ然共されども只今は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さよう、行方ゆきがたは不明だな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
みんな行方ゆきがたしれずだよ
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
「控えぬか! それが世辞じゃ。——きけば誰袖も行方ゆきがた知れずに相成りおるとのことじゃが、まことであろうな」
父の山気を露骨に受けついで、正作の兄は十六のとしに家を飛びだし音信不通、行方ゆきがた知れずになってしまった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
餅屋の評判のおさん、御両親おふたおやは、どちらも行方ゆきがた知れずなった、その借銭やら何やらで、苦労しなはる、あのお爺さんの孫や事まで、人に聞いて知ったよって、ふとな
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「到来物があったからじゃ。行方ゆきがた知れずの源七達から菓子折が参ったのよ」
大方そこからもとの借家へ通ずることが出来るのであろうと思うばかり、いうまでもなく、先に世話になった友人夫婦は、くに引越して行方ゆきがた知れず、用もない処、殊に、向合って御膳ごぜんを食べる
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なに? 行方ゆきがた知れずになったとな? それはまた、何時頃の事じゃった」
前様めえさま小児こどもとき姉様あねさまにしてなつかしがらしつたと木像もくざうからえんいて、過日こないだ奥様おくさま行方ゆきがたわからなくつたときからまはめぐつて、采粒さいつぶまとふ、いま此処こゝさいがある……山奥やまおく双六すごろくいはがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)