れん)” の例文
ある静かな雨降りの、おれん牧野まきのしゃくをしながら、彼の右の頬へ眼をやった。そこには青い剃痕そりあとの中に、大きな蚯蚓脹みみずばれが出来ていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あわてて枕許まくらもとからがったおせんのに、夜叉やしゃごとくにうつったのは、本多信濃守ほんだしなののかみいもうとれんげるばかりに厚化粧あつげしょうをした姿すがただった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
真実な人で、女房をおれんと云って三十八に成ります、家主いえぬし内儀かみさんは随分権式けんしきぶったものでございますが至って気さくなお喋りのお内儀さんで
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
榛軒のれんを愛したことは、遺言を読んで知るべきである。丸山の地は池を穿ち水を貯ふるに宜しくないので、榛軒は大瓦盆だいぐわぼん数十に蓮をゑて愛翫した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
中央に地蔵尊を彫り、かたわらに一人の僧が敬礼をしており、下の方に、花瓶かびんれんしてある模様が彫りつけてある。
じゃおれんさんの所へ置いとくか、ん、新所帯しんじょたいで気の毒だけど、何しろ意地を曲げてしまって、啓坊は可哀想だけど、姉さんがどうしても憎いっていうんだ。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
老先生はながのいたつき、後妻のおれんさまという大年増おおどしまが、師範代峰丹波みねたんばとぐるになって、今いい気に品川まで乗りこんできている源三郎を、なんとかしてしりぞけ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少年はおれんといえりしかれの姉が、わかき時配偶を誤りたるため、放蕩ほうとうにして軽薄なる、その夫判事なにがしのために虐遇され、精神的に殺されて入水して果てたりし、一条の惨話を物語りつ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……何日いつかも話した通り、此の土地で初めておれんを呼んで、あまり好くもなかったから、二十日ばかりも足踏みしなかったが、また、ひょッと来て見たくなって、お蓮でも可いから呼べと思って
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「一れん托生たくしょうさ。赤石さんもついでに驚かしてやろう」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いっそ、この一堂を一れんうてなとなして」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある有名な御用商人の店へ、番頭格にかよっている田宮は、おれんが牧野にかこわれるのについても、いろいろ世話をしてくれた人物だった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夢中むちゅうはらったおれん片袖かたそでは、稲穂いなほのように侍女じじょのこって、もなくつちってゆく白臘はくろうあしが、夕闇ゆうやみなかにほのかにしろかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
正季、一れん同行どうぎょうともがら、ここにるは何人か
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おれん——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこへ雪のような小犬が一匹、偶然人ごみを抜けて来ると、おれんはいきなり両手を伸ばして、その白犬をき上げたそうだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
男気おとこけのない奥庭おくにわに、次第しだいかずした女中達じょちゅうたちは、おれん姿すがた見失みうしなっては一大事だいじおもったのであろう。おいわかきもおしなべて、にわ木戸きどへとみだした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)