葬式とむらい)” の例文
葬式とむらい彦は一生懸命、合羽をつぶに引っかけて身軽につくっているとは言うものの、甚右衛門は足が早い。ともすれば見失いそうになる。
直ちに翌日からまるで「葬式とむらい機関車」の奇妙な事件なぞはもう忘れてしまった様に、イケ洒蛙洒蛙しゃあしゃあ平常ふだんの仕事を続け出したんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それから一刻(二時間)あまり、葬式とむらいの手順もつかずにいる中から抜け出して、亭主の弥助は番所にいる見廻り同心に訴え出ました。
怪しいと思って跡を付けて出て往って見ると、道でまた葬式とむらいって、それを段々調べて見るとわしの縁類の吉崎のおみわと云う娘で
病気が病気であるから、関口屋でも女房の葬式とむらいを質素に行なった。その葬式が済んだ後に、次兵衛は思い切ったように云い出した。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たとは迂哉おろか。今年如月きさらぎ、紅梅に太陽の白き朝、同じ町内、御殿町ごてんまちあたりのある家の門を、内端うちわな、しめやかな葬式とむらいになって出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「妾はお葬式とむらいにも行けなかったが。……それもこれも婚家うちの事情で。……旦那様のご病気のために。……それで菊弥や、妾の所へ来たのだねえ」
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私腕車くるまで駈けつけたけれど、お葬式とむらいが今そこへ行ったという後……。」と、お銀は婦人たちの様子などを聞きたがった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
歓喜した婆さん二人は、眼でもまわしたようにチョコチョコ露地の横丁へ走り込んだ。そこの露地からは、翌日葬式とむらいが出た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大変な見送りだね。こんなに人の来てくれるようなことはわれわれの一生にそうたんと無い。まあ西洋へでも行く時か、お葬式とむらいの時ぐらいのものだね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日、樵夫の子供は、かたばかりのお葬式とむらいをして、父親を、森の小高いところのどろを掘つて埋めました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
この葬式とむらいは、わしが不承知、そ、そんな地獄の、畜生のばちあたりに、この畳一畳でも汚しちゃ済まぬ、引き出せ、叩き出せ、ほうり出して犬になと食わせてしまえ
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何、実はこの間死んだ、おらの娘が来たんだがの、葬式とむらいの時、忘れて千ヶ寺詣せんがじまいりのなりで
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
やっと葬式とむらいをすましたところで、父が亡くなってから十日目の朝になって、その母がまた宵に寝たままで亡くなっているのです、これは後で判ったのですが、そんなことを知らない私は
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この元気な崛強くっきょうな人の葬式とむらいに行った私は、彼が死んで私が生残っているのを、別段の不思議とも思わずにいる時の方が多い。しかし折々考えると、自分の生きている方が不自然のような心持にもなる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「御命日はいつ頃です。お葬式とむらいは何年程前でした。」
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
去年、あのだらしない葬式とむらい行列に
メーデーを待つ (新字新仮名) / 木村好子(著)
が、何者の悪戯わるさかサッパリ判りません。ただ「葬式とむらい機関車」D50・444号は、まるで彼岸会ひがんえの坊主みたいに忙しかったんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
早朝から道楽の紙屑拾いに出て行った藤吉部屋の二の乾児の葬式とむらい彦兵衛が、愛用の竹籠を背に諏訪すわ因幡守様の屋敷前を馬場へかかると
「あったって遠い身寄りは音信不通で、付合っちゃくれません。もっとも長崎には亭主やどの弟がいますが、お葬式とむらいに間に合うわけはなし」
定「ナニ別に長い訳もないんですが、今お葬式とむらいが来てお饅頭を貰った、それをお前に上げるから、お待ちてえから待ってたんです」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ともかくも葬式とむらいはきのう済みましたから、これから何とか致してその間違いの起った筋道を詮議いたしたいと存じて居るのでございます。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、思い当る……葬式とむらいの出たあとでも、お稲はその身の亡骸なきがらの、白いひつぎさまを、あの、かどに一人立って、さも恍惚うっとりと見送っているらしかった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葬式とむらいこつあげに着て行く自分の着物のことなどが気にかかった。田舎から来る、叔母の身内の人たちの前も、あまり見すぼらしい身装みなりはしたくないとおもった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おれはまた、どこか裏店うらだな葬式とむらいが、道を間違えて入ってきたのかと思ったよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全く、岸本に取っては生きたしかばね葬式とむらいが来たにも等しかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「きのうは葬式とむらいで、茶を沸かすやら、火を起すやら、わし一人でなかなかここらの掃除までは手が廻らなかったからねえ」
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう一人の下っ引き葬式とむらい彦兵衛は紙屑籠を肩に担いで八百八町を毎日風に吹かれて歩くのが持前の道楽だったのだった。
山「何でも此奴こいつはあやしい、これから葬式とむらいのあとを見えがくれに追ってくから、お前喋っちゃアいかんよ、喋ると向うへ知れるから黙っていな」
何ね、義理と附合で、弁持と二人で出掛けなくちゃならない葬式とむらいがあった、青山の奥の裏寺さ。不断は不断、お儀式の時の、先生のいいつけが厳しい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売りに来たわけじゃねえ、八兄哥がお政の葬式とむらいの支度の最中へ飛込んで、又次郎を縛るの、山口屋が下手人だろうのと、無法な事を言うからツイ縄張話を
そして何日いつの頃からとなく人々は、D50・444号を、「葬式とむらい機関車」と呼ぶ様になっていたんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
今日の午前ひるまえに目を落したって、葬式とむらい明後日あさってだもんだで……それも紋を染めていたじゃ間に合いもすまいけれど、婚礼というじゃなし石無地こくむじでも用は十分足りるでね。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
不運な母と子の死体はあくる日の夕方、品川の或る寺へ送られて無事に葬式とむらいをすませた。由五郎は自棄やけ酒を飲んでその後は仕事にも出なかった。
歩き出した二人の鼻先に、留守番の筈の葬式とむらい彦兵衛が小僧を一人連れて、いつの間にか煙のように立っていた。
隣村も山道半里、谷戸やと一里、いつの幾日いつかに誰が死んで、その葬式とむらいに参ったというでもござらぬ、が杜鵑ほととぎすの一声で、あの山、その谷、それそれに聞えまする。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山「師匠此処へ下りな、いけねえことをしたな、何所どこかの葬式とむらいがあっておもり物を整然ちゃんと備えてあったに、おめえが喰って仕舞って咎められては申訳がえ」
「そうですおっしゃる通り死んだ筈でした。併し誰も死体を見た人もなく、葬式とむらいをしてくれた人もありません」
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それとも、田舎からしゅうとめも来ているものですから、お葬式とむらいの時だけは遠慮すべきもんでしょうか。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
阿母おっかさんの病気が長引くようなら勿論のこと、今すぐに死なれても第一にお葬式とむらいにも困るくらいでしょうと思うんですよ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何にいたしましても、来るものもるものも亡くなりましたのは、こりゃ葬式とむらいが出ましたから事実まったくなんで。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見ると、文治は痩衰やせおとろえてひげぼう/\、葬式とむらい打扮いでたちにて、かみしもこそ着ませぬが、昔に変らぬ黒の紋付、これは流罪中かみへお取上げになっていた衣類でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
乾児こぶんの勘弁勘次や葬式とむらい彦兵衛は、その辺のこつをよく心得ていて、いつも藤吉の口が重くなると触らぬ神に崇りなしと傍へも寄らないように、そっとして置くのだった。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「親分、こういうわけだ。親としては、これほどの歎きはない、死んだなら死んだでもいい、せめてその葬式とむらいだけでも出してやりたい、と思うのも無理はありますまい」
マダムが病院から死骸なきがらで帰り、葬式とむらいを出すのとほとんど同時に、前からそんな気配のあった浜龍が、ちょうど大森へ移転する芸者屋の看板を買って、披露目ひろめをすることになり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
流行病はやりやまいであるから、あしたは早朝に死体を焼き場へ送る筈であったが、この頃は葬式とむらいが多いので棺桶が間に合わない。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
門衛あわただしく遮って、「こらこら、ここは寺院てらじゃないぞ。今日葬式とむらいのあるなあ一町ばかり西の方だ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とキャア/\狂気きちがいのようになって騒ぐゆえ、捨置かれんから、お店から多分の金子を出して長次の死骸を引き取り、葬式とむらいまで出して遣るような事でございますから
「それじゃ気の毒だが馬道へれて行って、お葬式とむらいの支度で集まっている人間の首実検をさしてくれ。その中から頬冠りで船を雇った人間が見付かりゃ、占めたものだ」
「お前がそうしてそれを持ったところは、骨壺を持ってお葬式とむらいに出るようだよ。似合うよ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)