くめ)” の例文
浅草公園の売茶の店は、仁王門のわきの、くめ平内へいないの前に、弁天山へ寄って、昔の十二軒の名で、たった二軒しか残っていなかった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
という継母にも、女の子のおくめを抱きながら片手に檜木笠ひのきがさを持って来てすすめる妻にも別れを告げて、やがて半蔵は勇んで家を出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
名前はおくめ、下谷長者町の金貸俵屋孫右衞門の娘、凄いほどのきりやう、浮氣で、陽氣で、少々は嘘つきで、無類の愛嬌者でした。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
雇い婆に、耳打ちして、てん屋へ、何かあつらえにやる様子を、雲霧は、風呂の中で、感じていた。すると、格子先で、女衒ぜげんくめ
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くめと云しがをつとが此の災難さいなん必竟ひつきやう安五郎が仕業しわざなれば渠等かれら在處ありところれる上は夫が無じつの難はのがれなんにより何卒なにとぞして安五郎を尋ねいだをつと災難さいなん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本橋の木綿店もめんだなの通い番頭のせがれに生まれて、彼が十三、妹のおくめが五つのときに、父の半兵衛に死に別れた。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅草寺の観音堂もない、仁王門もない、くめの平内殿は首なし、胸から上なし、片手なしである。五重塔もない。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青地清左衛門を従えて、かすみの中へ悠々と、徳大寺大納言家の歩み去った後は、おくめという娘一人だけとなった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから又僕は家へ毎日のように遊びに来た「おくめさん」という人などは命だけは助かったものの
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
賊の死骸を取りおろす役目は、管内の消防夫くめさんという、威勢のいい、梯子はしご乗りの名人であった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「この鳥沢にくめという者があるか。鳥沢の粂といって、この界隈かいわいに知られた男があるそうな」
赤い鼠がそこまで追廻したものらしい。キャッとそこで悲鳴を立てると、女は、宙へ、飛上った。くめの仙人をさかさまだ、その白さったら、と消防夫しごとしらしい若い奴は怪しからん事を。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お藤、お清、おくめ——作者の女性に対する好みは、矢張、優しい、内輪な、女らしい、犠牲に富んだ女であつた。現今の所謂自覚した女などは、作者のまだ夢にも描いて見ないものであつた。
尾崎紅葉とその作品 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
又須賀川から一里程はなれた郡山町に「お初ちやんといふ人があつて互に文通した。此人がお貞さんの友人で、又私たちにも友人であつたが、これがお貞さんの小説の『娘』のなかのおくめちやん」
水野仙子さんの思ひ出 (旧字旧仮名) / 今井邦子(著)
くめ、粂五郎と申します……」
藤堂くめ三郎。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
くめ、宗太、それから今度生まれた子には正己まさみという名がついて、吉左衛門夫婦ももはや三人の孫のおじいさん、おばあさんである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まいた積りのおくめが、何處の路地から飛出したか、チヨコチヨコとよくれた小犬のやうに、八五郎の後ろからついて來るのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
上野のおなり街道を横切ってくる小川に添った片側かたがわ町の露地で、野暮にいえば下谷の源助店げんすけだな、丹頂のおくめがひとり暮らしの住居すまいであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尋ねて呉しぞ先々草鞋わらんぢといて上るべし二人づれか御前樣大きに御苦勞なり先々御あがりなされ是々お初おくめ我等は何を胡亂々々うろ/\して居やる早く洗足せんそくの湯を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おくめ殿。お粂殿」と声をかけた。が、お粂は立ち去ったのでもあろうか、潜門扉の内側から返事がなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半七は朝飯を済ませて、それから八丁堀の旦那(同心)方のところへ歳暮にでも廻ろうかと思っていると、妹のおくめが台所の方から忙がしそうにはいって来た。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くめちゃん、そんなことをしてもツマらないから、もっと高級な芸術をこしらえて遊ぼうや」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くめさんのとこだア、粂さんの家だア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
宰領の連れて来た三疋の綿羊がかごの中で顔を寄せ、もぐもぐ鼻の先を動かしているのを見ると、動物の好きなおくめや宗太は大騒ぎだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その八五郎が、美しい下女のお菊の動静を見張っているうち、浅草の日参と、御神籤おみくじと、くめ平内へいない様の格子の謎を見付けたのです。
そういうおくめが、真間まま紅葉見もみじみでどういうことがあったのか、とにかく、相良金吾にはよほど打ち込んでいた様子です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御承知ありませんか。普通は次郎兵衛と云い伝えていましが、ほんとうはくめ次郎という人間で……」
「妾の名はおくめと申します」潜門扉くぐりどの内側の女の声が、沈黙を破ってこういったのを、いうところのキッカケとして、驚くばかりに能弁にお粂という女はいい出した。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
聞付て相長屋の人々集り來りじつ親子おやこの事なればとて早速さつそく田原町へ右の樣子を申遣せし處彌吉くめ同道にて參り死骸をあらたわたくしの仕業しわざ成と申かけ其由訴へ出し事にて何を證據に然樣の儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
百蔵は真黒な犬目山いぬめやまの方を横目ににらんで見たのは、この男にとっては、この郡内は最も危険区域であり、ことに鳥沢のくめという親分には、頭も尻尾も上らないで、いつぞやは、裸にされて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その八五郎が、美しい下女のお菊の動靜を見張つてゐるうち、淺草の日參と、お神籤みくじと、くめ平内へいない樣の格子のなぞを見付けたのです。
姉娘のおくめがその旦那だんなと連れだって馬籠へたずねて来たのは、あれは半蔵らのまだ本家の方に暮らしていた明治十六年の夏に当たる。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、次郎はその手ぬぐいかぶりの女が、あの隠居藤屋の奥にいた、丹頂のおくめであるとはちッとも気がついていない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容貌きりょうは好し、年ごろの箱入り娘の肌ざわりはまた格別だからな。とんでもねえくめの仙人が出来上がったものだ。なるほど命賭けで荒熊にむしり付くのも無理はねえ。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
峠道で悪い胡麻ごまはえにかかって苦しめられていたという女は、駒木野の関を通してもらった女であって、それを助けた鳥沢の親分というのは、鳥沢のくめという親分であることがわかりました。
霊前には親戚しんせき旧知のものが集まったが、一同待ち受ける妻籠つまごからの寿平次、実蔵、それに木曾福島からのおくめ夫婦はまだ見えなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平次が仲間に奉加帳ほうがちやうを廻して足を洗はせ、田圃の髮結床かみゆひどこの株を買つて、妹のおくめと二人でさゝやかに世帶を持つてゐたのでした。
「おや、兄さん。相変らずお暑うござんすね」と、おくめは愛想よく兄を迎えた。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『吉良の小間使で——おくめという、ちょっと愛くるしい小間使がおるだろう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うっかりドジを踏んで、くめの親分にでも見つかろうものなら……事だ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次が仲間に奉加帳ほうがちょうを廻して足を洗わせ、田圃の髪結床かみゆいどこの株を買って、妹のおくめと二人でささやかに世帯を持っていたのでした。
「なんだか、ぼんやりした。あのおくめのことがあってから、おれもどうかしてしまった。はて、おれもみちに迷ったかしらん……」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『——おや、おくめさんじゃありませんか。もしっ、吉良様のお粂さん』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうでなければ浅草のくめ平内へいないだ、おれをふみつけさえすれば、男女の縁は結んでやる、とこういう功徳の神様になって、罪滅ぼしをやりてえもんだが、さて、その小手調べが、どうなるものかなあ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ちょいと、おくめさんが来てよ」
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「その時、危ふくおくめさんに疑ひがかゝる筈だつたが、お粂さんが、不氣味がつて八五郎の部屋へ飛込んだばかりに助かつた」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
その時、にぎやかな子供らの声がして、半蔵が妻のお民の後ろから、おくめ宗太そうた梯子段はしごだんを上って来たので、半蔵はもうそんな話をしなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「鳥沢のくめという、このあたりに聞えた親分でございます」
くめとおつや
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)