端倪たんげい)” の例文
「とにかく、正面を見ただけでは、わかにくい人だ。柔和かと思えば剛毅、無策かと思えば遠謀家。あの隠居だけは、端倪たんげいできぬ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絢爛けんらんたる才気と洗錬された趣味と該博な知識とをった・端倪たんげいすべからざる才人だった。しかも彼は何を為したか? 何事をもしなかった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この受身の形は対象に統一を与える判断力を養っている準備期であるから、力が満ちれば端倪たんげいすべからざる黒雲をき起す。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
大体に於て、極点の華麗さには妙な悲しみがつきまとうものだが、秀吉の足跡にもそのようなものがあり、しかも端倪たんげいすべからざる所がある。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
修容正粛ほとんど端倪たんげいすべからざるものありしなり。されど一たび大磐石の根の覆るや、小石の転ぶがごときものにあらず。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして始終黙々と机にって、不機嫌そうに眉をしかめて居るばかりなので、貝島にはちょっと此の少年の性格を端倪たんげいすることが出来なかった。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
帰って来たかと思うと、たちまち出発——いつもながら、端倪たんげいすべからざる伊賀の暴れん坊の行動に、安積玄心斎をはじめ一同はあっけにとられて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若しこの數節の分解にして、甚しき過謬なきものとするときは、逍遙子が用語の變通自在にして逍遙子が立言のほとんど端倪たんげいすべからざりしを知るに足らむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
鴎外はそれらの諸徳を一身に集めていたように、或る時は信じていたでもあろうが、それもまたあの端倪たんげいすべからざるあそびの変貌であったに違いない。
またトリックにしても、あまりに凝りすぎて尋常な読者にはとうてい端倪たんげいすべからざるようなのもかぐわしくない。
現下文壇と探偵小説 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ドリスが端倪たんげいすべからず、涸渇こかつすることのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せられる。
木の生えた岩石の島がちらばって、ジグ・ザグの小半島が無数に突出し、端倪たんげいすべからざる角度に両側から迫っている。ところどころに石油のタンクが見える。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
大名の上屋敷、中屋敷、合せて五百六十、これに最少四人二分を乗じただけの人数が、顎十郎の手足のように働くとしたら、これまた一種端倪たんげいすべからざる勢力である。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
冥々めいめいのうちに作家チェーホフを支え導いていた端倪たんげいすべからざる芸術的叡知えいちの存在を明かすとともに、この叡智の発動形式の一端に私達を触れさせてれることである。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
鈴木君の去来は、まことに端倪たんげいすべからざるものであったが、一転する毎にはくをつけ、貫禄を供え、社会運動の闘士として大きくクローズアップされるようになったのである。
しかのみならず、今利他本位でやってるかと思うと、何時いつの間にか利己本位に変っている。言葉だけは滾々こんこんとして、勿体もったいらしく出るが、要するに端倪たんげいすべからざる空談である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし仔細に点検して来ると、その鬼神も端倪たんげいすべからざる痛快的逸話の中にも牢乎ろうことして動かすべからざる翁一流の信念、天性の一貫しているところを明白に認める事が出来る。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けれども我われがいま直面している問題は、国家と国民ぜんたいの興亡に関するんだ、極めて強大な、然も端倪たんげいし難いほど複雑な意図をもって、西欧諸国の触手が我われを囲繞いにょうしている
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪たんげいする事の出来ぬ渾沌こんとんたるものになるであろう。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ゴルフは重役連中丈けの娯楽で下積みの端倪たんげいすべきところでないが、社長が一番強いらしい。玉突きも天狗で、屋敷に玉突台を三つまで備えている。社長の将棋については、同僚の畑君が
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ほとんど人をしてそのゆえんを端倪たんげいすべからざらしむるのありさまとなれり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
何うも容易に端倪たんげいすることが出来ない。
不思議な鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
私は田園の長い夜道を辿たどり乍ら、改めて歎息たんそくに似た自卑と共に、世に母親ほど端倪たんげいすべからざるものはないと教えられた。
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一方の鐘巻自斎はまたより以上の驚嘆をもって重蔵を端倪たんげいした。今の青年剣客に珍らしいたしかさ、まさに上泉伊勢の面影を見るような太刀筋であると思った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十にして家をさず去就きょしゅうつねならぬ泰軒の乞食ぶりには忠相もあきれて、ただその端倪たんげいすべからざる動静を、よそながら微笑をもって見守るよりほかはなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
呑気なような、ほとんど端倪たんげいすべからざる、たとえばりょうのごとき否、むしろ大雨に就いて竜を黙想しつつありしがごとき、奇体なる人物は、渾名あだな外道げどうとなえて、名誉の順風耳じゅんぷうに
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが共同の邸宅に招き一せき盛大なる晩餐会を催すにつき、食堂、玄関、便所の嫌いなく満堂国花をもって埋むべし、という、例によって例のごとき、端倪たんげいすべからざるタヌが咄嗟さっそくの思い立ち。
人間の運命というものはとて端倪たんげい出来ない。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
殆ど端倪たんげいすべからざるものあり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「こうなると、やっぱり、馬春堂先生の易断えきだんも、ちょっと端倪たんげいすべからざるものだろう。おほん」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまではこの夜の雪をさながらにまんじともえ、去就ともに端倪たんげいすべからざる渦乱であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それゃ何ともいえねえ。浜村屋のやり方は端倪たんげいすべからずですからなア」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうして彼の領有は、一躍、四川しせん漢川かんせんの広大な地域を見るにいたり、いまや蜀というものは、江南の呉、北方の魏に対しても、断然、端倪たんげいすべからざる一大強国を成した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華々はなばなしい遊覧地も数多くあるものを、何をり好んで、辺鄙へんぴ閑散、いたずらに悠長な、このような絶海の一孤島へ到着したかといえば、これまた、端倪たんげいすべからざるタヌの主張によったもので
すでに両国が修好を締結するまえ数年にわたって、信越国境では三度も彼と激戦を交えているので、越後勢の精鋭、謙信の端倪たんげいすべからざるものであることは充分に心得ているが
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諏訪すわはらの城を攻めて、これを一時奪回したり——小山城の急変に駈けて、たちまちほこを転じ、駿河に火を放って、家康を急襲せんと試みたり——とにかく端倪たんげいできないものがなおあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうして、どうして、決して端倪たんげいするわけにゆきません。海をさかしまにし、江を翻す弁才があります。丞相のあらわされたかの孟徳新書をたった一度見ただけで、経をよむごとく、暗誦そらんじてしまいました。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう簡単に端倪たんげいすべき者ではない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)