瞽女ごぜ)” の例文
いかなれば我は自ら待つことのゆるくして、人を責むることの酷なりしぞ。われ若し再び瞽女ごぜに逢はば唯だ地上に跪いてこれに謝せん。
手拭てぬげかぶつてこつちいてる姐樣あねさまことせててえもんだな」ふさがつたかげから瞽女ごぜ一人ひとり揶揄からかつていつたものがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
又盲僧・瞽女ごぜの芸、性欲の殊に穢い方面を誇張した「身ぶり芸」も行はれた事が知れる。もつとも、まじめな曲舞なども交つてゐたに違ひない。
「横町の瞽女ごぜが嫁に行く話なら知つてるぜ。相手は知らないが、八五郎でないことは確かだ。今更文句を言つたつて手遲れだよ八。あきらめるが宜い」
訊けばこれが有名な越後の瞽女ごぜである相だ。收穫前の一寸した農閑期を狙つて稼ぎに出て來て、雪の來る少し前に斯うして歸つてゆくのだといふ。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
気にかけないものだというと、瞽女ごぜ背負しょった三味線箱、たといお前がわらづつみの短刀を、引抱ひっかかえて歩行あるいた処で、誰も目をつけはしないもんだが。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえば信州ではまれに道徳の堅固でないものがあると、それはみな旅の瞽女ごぜ、越後のゴゼということにきまっていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
村の或家さ瞽女ごぜがとまったから聴きにゆかないか、祭文さいもんがきたから聴きに行こうのと近所の女共が誘うても、民子は何とか断りを云うて決して家を出ない。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
縁日の事からもう一人私の記憶に浮びいづるものは、富坂下とみざかした菎蒻閻魔こんにゃくえんまの近所に住んでいたとかいう瞽女ごぜである。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二葉亭は手拭てぬぐいあねさんかぶりにしてほうきかかえ、俯向うつむき加減に白い眼をきつつ、「ところ、青山百人町の、鈴木主水もんどというおさむらいさんは……」と瞽女ごぜぼうの身振りをして
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まんじゅう売り、心太ところてん売り、数珠じゅず屋、酒売り、瞽女ごぜむしろ、放下師、足駄売り、鏡ぎ、庖丁師、何の前にでも、一応はちょっとたたずんで、またせかせかと歩きだした。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木枯に鳴る落葉と言おうか、家路を急ぐ瞽女ごぜの杖といおうか、例えば身軽な賊の忍ぶような。
柳里恭は乞食の茶を飲んだり、馬上に瞽女ごぜの三味線を弾いたり、あらゆる奇行をほしいままにした。或は恣にしたと伝へられてゐる。けれども巽斎に関する伝説は少しも常軌を逸してゐない。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
孩児がいじの頃より既に音律を好み、三歳、痘を病んで全く失明するに及び、いよいよ琴に対する盲執を深め、九歳に至りて隣村の瞽女ごぜお菊にねだって正式の琴三味線の修練を開始し、十一歳
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一人は瞽女ごぜ、もう一人は琵琶師、もう一人は飴屋、更に、居合抜に扮したもの、更に独楽師こましに扮したもの、又は大工又は屑屋、後の二人は商人風に、縞の衣裳を着ていたが、いずれも鋭い眼光や
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寒げなる筵の上に手を重ね瞽女ごぜぞいませる心覗けば
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
さうして座敷ざしきすみ瞽女ごぜかはつて三味線さみせんふくろをすつときおろしたとき巫女くちよせ荷物にもつはこ脊負しよつて自分じぶんとまつた宿やどかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いたゞきは深く烟霧のうちに隱れて、われに送別の意を表せんともせざる如し。是日このひ海原はいと靜にして、又我をして洞窟と瞽女ごぜとの夢を想はしむ。
「冗談ぢやありませんよ。横町の瞽女ごぜはあゝ見えても金持だ。こちとらには鼻も引つかけちやくれませんよ、へツへツ」
訊けばこれが有名な越後の瞽女ごぜであるそうだ。収穫前の一寸した農閑期を覗って稼ぎに出て来て、雪の来る少し前に斯うして帰ってゆくのだという。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
九州の盲僧などと比べてみて、仏寺の勢力の及ばなかったのが興味ある一つの特色であった。だから瞽女ごぜたちは儀式にも経は読まず、ただ段物だんものの長い叙事詩を語った。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あんまり仕合せがよいというので、小面憎こづらにくく思ったやからはいかにも面白い話ができたように話している。村の酒屋へ瞽女ごぜを留めた夜の話だ。瞽女のうたが済んでからは省作の噂で持ち切った。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「……風体を、ごらんなさいよ。ピイと吹けば瞽女ごぜさあね。」
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞽女ごぜに扮した浪士の一人が、そこで三味線を押しやった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
えねえのにさうだに押廻おしまはすなえ」瞽女ごぜあといて座敷ざしきはしまで割込わりこんで近所きんじよぢいさんさんがいつた。わか衆等しゆらたゞ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「さう/\變な話を持つて來たんだね。瞽女ごぜの嫁入りの話でないとすると、叔母さんがお小遣ひでもくれたといふのか」
彼洞窟は今カプリ島の第一勝、否伊太利國の第一勝たる琅玕洞らうかんどう(グロツタ、アツウラ)にして、舟中の少女も亦實にかのペスツムの瞽女ごぜララなりしなり。
「横町の瞽女ごぜが嫁に行く話なら知ってるぜ。相手は知らないが、八五郎でないことは確かだ。今さら文句を言ったって手遅れだよ八。あきらめるがいい」
それは瞽女ごぜのお石がふっつりと村へ姿を見せなくなったからであった。彼がお石と馴染んだのは足かけもう二十年にもなる。秋のマチというと一度必ず隊伍を組んだ瞽女の群が村へ来る。
太十と其犬 (新字新仮名) / 長塚節(著)