すがめ)” の例文
さつきのすがめはもう側にゐない。たんも馬琴の浴びた湯に、流されてしまつた。が、馬琴がさつきにも増して恐縮したのは勿論の事である。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「わるいことをいうな。けだし国音家令かれいかれいに通ずればなりか。瓶子へいし平氏へいしに通じ、醋甕すがめすがめに通ず。おもしろい。ハッハハハハ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やよ清盛、そもそも、ごへんは、刑部忠盛ぎょうぶただもり嫡子ちゃくしであったが、十四、五の頃まで出仕にもならず、京童きょうわらんべは、高平太たかへいたの、すがめのといっておった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別人のような活気が漲って、獲物をぎつけた猟犬の鋭さが、そのすがめの気味のある双眼に凝って、躍動して、放射している。
袒裼たんせき剣を持って水に入り、連日神と決戦してすがめとなり勝負付かず、呉にきて友人をたずねるとちょうど死んだところで
彼が眇目の名を取ったのは、左の片眼が魚のうろこを挟んだようなすがめであるためで、それが彼の怪しげな人相をいよいよ怪しく見せているのであった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
将軍はすがめのやうな眼つきをして市街まちを見た。そこには自動車の影も見えなかつた。一分経つた。二分経つた。将軍はもじ/\身体からだを動かせながらぼやいてゐる。
よく見るとごく軽微にすがめになつてゐる。その瞳が動くとき娘の情痴のやうな可憐ななまめきがちらつく。瞳の上を覆ふ角膜はいつも涙をためたやうに光つてゐる。
ダミア (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、とうとうヒスパニオーラ号に横附けになり、上ってゆくと、副船長のアローさんが出迎えて挨拶した。日にけた老海員で、耳に耳環をつけ、すがめだった。
座敷に帰って、昼の光であらためて主翁しゅおうと対面した。住居にふさわしい岩畳なかっぷくである。左の目がすがめかと思うたら、其れは眼の皮がたるんでいるのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
町からは折々彼の細君とすがめの息子とがやって来て泊まって行った。細君というのは、ちいさな、乾枯ひからびた大根のような感じのする女で、顔中に小さなしわがいっぱいあった。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一物を肩に当て腰をひねつて横向きに構へ、目をすがめにして、火をつける。電光。驚雷の轟音。的が射抜かれてゐるのである。見物の一同、耳をふさいで、砂の中に頭をもぐした。
鉄砲 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それは斑紋はんもんのあざやかなたくましい虎であったが、隻方かたほうの眼が小さくすがめになっていた。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ただストーブに薪を投たり、戸閉とじまりの注意位この女房にまかしてあるばかりであった。この女房というのは、二眼ふためと見ることの出来ない不具者である。頭髪かみのけは赤くちぢれて、その上すがめで、ちんばであった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
「つまり俺の子にもすがめは生れないってことになるからなあ。」
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
「あの男はすがめかも知れませんぜ。」と私は村瀬に云った。
微笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かたわらで湯を浴びていた小柄な、色の黒い、すがめ小銀杏こいちょうが、振り返って平吉と馬琴とを見比べると、妙な顔をして流しへたんを吐いた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すがめを光らせて、周囲まわりの人々を見た。苦笑とも欠伸あくびともつかず、口をあけた。煙草で染まった大きな乱杭歯らんぐいばが見える。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そしてある山中で、その人夫の一隊が荷をおろして休んでいると、そこへ忽然と、片目はすがめ、片足はびっこという奇異な老人がやってきて話しかけた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
児玉氏はそれを聞くと、おしのやうに黙つて荷物を包みにかゝつた。「お為めのいい」石鹸しやぼんすがめのやうな眼附で、利いた風な事を喋舌しやべる大学生の顔を見てゐた。
よく見るとごく軽微にすがめになっている。その瞳が動くとき娘の情痴のような可憐ななまめきがちらつく。瞳の上を覆う角膜はいつも涙をためたように光っている。
巴里の唄うたい (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこで双方の瞳の人が一方の眶の中にいっしょにいるようになったことがわかった。方棟は片方の目がすがめになったけれども、両眼の人に較べてより以上に物が見えるようになった。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そう言ってすがめの兄の顔が笑いながら弟の眼をのぞきこんだ。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
かたはらで湯を浴びてゐた小柄な、色の黒い、すがめの小銀杏が、振返つて平吉と馬琴とを見比べると、妙な顔をして流しへたんを吐いた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人々の視線を追ってその集まる一点へすがめを凝らした八丁堀、なにしろ府内に名だたる毎度の捕親とりおやだ、あらゆる妖異変化へんげに慣れきって愕くというこころを離れたはずなのが
鼈四郎は病友がいった通り、彼が死んでからも顔を描き上げようとはしなかった。隻眼をすがめにしてにらみながら哄笑こうしょうしている模造人面疽もぞうじんめんその顔は、ずった偶然によってかえって意味を深めたように思えた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
で、すがめのやうな眼つきをして一寸月郊君の顔を見た。
さっきのすがめはもうかたわらにいない。たんも馬琴の浴びた湯に、流されてしまった。が、馬琴がさっきにも増して恐縮したのはもちろんのことである。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤吉は、その、一列にならんでいる梅の家連中を、覗って、例のすがめで、右から左へ、左から右へ、二、三度じっと、撫でるように見渡していたが、やがて、口の隅から呟くように
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ことによると、これはそのすがめに災いされて、彼の柘榴口をまたいで出る姿が、見えなかったからかも知れない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
乾すつもりで拡げてある家並裏の蛇の目に、絹糸のような春小雨の煙るともなく注いでいるのを、すがめの気味のある眼で見て通りながら、少し遅れて藤吉は途々彦兵衛の話に耳を傾けた。
店先には高い勘定台かんぢやうだいの後ろに若いすがめの男が一人、つまらなさうにたたずんでゐる。それが彼の顔を見ると、算盤そろばんたてに構へたまま、にこりともせずに返事をした。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつ買ひ物にはひつて見ても、古いストオヴを据ゑた店には例のすがめの主人が一人、退屈さうに坐つてゐるばかりである。保吉はちよいともの足らなさを感じた。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
馬琴はかすむ眼で、この悪口を云つてゐる男の方をすかして見た。湯気にさへぎられて、はつきりと見えないが、どうもさつき側にゐたすがめの小銀杏ででもあるらしい。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとどこからやつて来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目すがめの老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、ぢつと杜子春の顔を見ながら
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目すがめの老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すがめの男の云ふことは親切づくなのには違ひない。が、その声や顔色は如何いかにも無愛想を極めてゐる。素直に貰ふのはいまいましい。と云つて店を飛び出すのは多少相手に気の毒である。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
片目すがめの老人は、三杜子春とししゅんの前へ来て、同じことを問いかけました。勿論もちろん彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやりたたずんでいたのです。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
するとやはり昔のやうに、片目すがめの老人が、どこからか姿を現して
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとやはり昔のように、片目すがめの老人が、どこからか姿を現して
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
片目すがめの老人は微笑を含みながら言ひました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)