相応ふさ)” の例文
旧字:相應
而して新短歌の語句から語句への推移は現に情理的であるよりも感覚的であり、又左様にあることが此の様式に相応ふさふやうに思へる。
新短歌に就いて (新字旧仮名) / 中原中也(著)
だが、それはその昔、蹴裂明神けさくみょうじんの前で見た捨児ではない。長塚新田の馬喰ばくろうが落したハマでもない。この街道には相応ふさわしからぬもの——
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それで日本人の書は非常にうるわしく、親しみがあるので、結局、日本人にとって、日本の書が一番相応ふさわしいものということになります。
単純な装いこそ相応ふさわしいのです。自からひかえめがちな、しずかな素朴な姿に活きています。人々は呼んでかかる美を「渋さ」と云うのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何故かといって私は自分の健康に自信があったし、秋に入って揚子江の沿岸は空気が高く澄みとおって、私の無鉄砲な放浪に相応ふさわしく思われたから。
運命について (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「うん。なぜといって、敵機は、火焔かえんに包まれているわけでもなく、むしろ悠々と地上へ降下姿勢をとっているといった方が、相応ふさわしいではないか」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
然し、やはりクレオパトラが毒蛇に自身を噛ませて死んだとした方が彼女の臨終に相応ふさはしいやうに思はれる。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
それに相応ふさわしい偉れた女に生い立たしめようとするのも、伯母に対するふた親の無意識の競争心から来るものであることを感付かないわけにはゆかなかった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、でゝてもしづくわからぬ。——あめるのではない、つき欠伸あくびするいきがかゝるのであらう……そんなばんにはかはをそけるとふが、山国やまぐにそれ相応ふさはぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今でこそ樟脳しょうのうくさいお殿様とのさまたまりたる華族会館に相応ふさわしい古風な建造物であるが、当時は鹿鳴館といえば倫敦ロンドン巴黎パリの燦爛たる新文明の栄華を複現した玉のうてなであって
下女は胸のあたりへ自分の手をやって書家に相応ふさわしい髯の長さを形容して見せた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少なくも浄土教が、狩野派よりも土佐派の方に相応ふさわしいとはいい得るだろう。
そしてそれに相応ふさわしい灰色の深いヘルメットを持ち、婦人でも用いそうな瀟洒しょうしゃな鼠色のスエード革の靴を穿かれた小柄な太子の姿というものは、これもまた何とも言えぬ愛らしさのそれであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのまま能役者のうやくしゃが用いたとて相応ふさわしいでありましょう。こういうものを誰も不断に用いるとは有難いことではありませんか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だが、その外貌に、それと肯く分別臭ふんべつくささはあっても、およそ彼女の肉体の上には、どこにもそのように多い数字に相応ふさわしいところが見当らなかったのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしの名のかの子は、この女丈夫を記念する為めにつけたのだという。しかも何と、その女丈夫を記念するには、相応ふさわしからぬわたくしの性格の非女丈夫的なことよ。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
通い廊下に藤の花をさかしょうと、西洋窓に鸚鵡おうむを飼おうと、見本はき近い処にござりまして、思召おぼしめし通りじゃけれど、昔気質かたぎの堅い御仁ごじん、我等式百姓に、別荘づくりは相応ふさわしからぬ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どんな国の女たちも沖縄の「びん型」より華麗な衣裳を身につけたことはないでしょう。とりわけ沖縄のような南国ではそれが非常に相応ふさわしかったと思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼はいかにふだん幅広い口を利こうと、衷心では料理より、琴棋書画に位があって、先生と呼ばれるに相応ふさわしい高級の芸種であるとする世間月並の常識をみしようもない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
生れ付き、本能の同型という深刻な原因を壊すには、やはりそれに相応ふさわしい深刻な度の本能の葛藤をおのに持って打たせなければ断ち割れないのです。私はそれを決心しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
特に緯縞よこじま霞縞かすみじまに美しいのを見かけます。これも色染を注意したら一段とよくなるでありましょう。とりわけ日本間の敷物として大変相応ふさわしく、どの家庭にもすすめ得ると思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人間の寿命に相応ふさはしい、嫁入り、子育て、老先おいさきの段取りなぞ地道に考へてもそれを別に年寄り染みた老け込みやうとは自分でも覚えません。縫針の針孔めどに糸はたやすく通ります。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
窯はわずか一個よりないが、年に五、六回は焼くというから、相当地方的需要があることが分る。長型丸型の水甕、片口、飯鉢めしばち、平鉢、だらい、切立きったて等いう名は地方窯に相応ふさわしい。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人間の寿命に相応ふさわしい、嫁入り、子育て、老先の段取りなぞ地道に考えてもそれを別に年寄り染みた老け込みようとは自分でも覚えません。縫針の針孔めどに糸はたやすく通ります。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこには逆らう感情や、てらう心や、主我の念は許されておらぬ。よき器物には謙遜けんそんの美があるではないか。誠実の徳が現れるではないか。高ぶる風情やいらだつ姿は器には相応ふさわしくない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
頭をこてで縮らし、椅子に斜にって、煙草をゆらしている自分の姿を、柱かけの鏡の中に見て、前とは別人のように思い、また若き発明家に相応ふさわしいものに自分ながら思った。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頭をこてで縮らし、椅子に斜にって、煙草をゆらしている自分の姿を、柱かけの鏡の中に見て、前とは別人のように思い、また若き発明家に相応ふさわしいものに自分ながら思った。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その妹は、たまさか姉にうても涙よりしか懐かしさを語り得ないような内気な娘であった。生よりも死の床を幾倍か身に相応ふさわしいものに思いして、うれしそうに病み死んだ。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この雰囲気に相応ふさわしく、ヒンズー教の精力的な寺院の空気にも相応わしかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)