留守居るすい)” の例文
やがて、男は、日のくれに帰ると云って、娘一人を留守居るすいに、あわただしくどこかへ出て参りました。そのあとの淋しさは、また一倍でございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云うのは当時大童おおわらが江戸屋敷の留守居るすいで世間の交際が広いと云うので、養子選択の事を一人で担任して居て、或時あるとき私に談じて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余は、御拝眉の上、万々申しあげたく、まずは、右のため、云々。というのが手紙のおもむき。差出人は、稲葉能登守いなばのとのかみのお留守居るすい溝口雅之進みぞぐちまさのしん
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたしにも、ちょうどぼうおなじぐらいのおとこがありますの。しかし、おとなで、さびしがりもせず、ひとりでわたしかえるまでお留守居るすいをしていますよ。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
老爺さんは、湯川というのも自分の本姓ほんせいではない。仙台屋敷に生れたから仙台様の藩士だろう。お留守居るすい役だともきいたが、廻米かいまいの事に明るかった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼がいかにその妻を熱愛していたかは、焼津やいづの旅先から、留守居るすいの妻に送った手紙によく現われている。
縫は享和二年に始めて須磨すまというむすめを生んだ。これは後文政二牛に十八歳で、留守居るすい年寄としより佐野さの豊前守ぶぜんのかみ政親まさちか飯田四郎左衛門いいだしろうざえもん良清よしきよに嫁し、九年に二十五歳で死んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女子衆達をんなしゆたちにあと/\までうらやまれしも必竟ひつきやうあねさまの威光いくわうぞかし、寮住居りようずまいひと留守居るすいはしたりともあね大黒屋だいこくや大卷おほまき長吉風情ちやうきちふぜいけをるべきにもあらず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三百諸侯みな幕府の豪奢を模範とし、各藩留守居るすいの如きは、一椀十両の料理を喫するに到るものあり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
お兼さんはまた嫂のくだくだしい叙述を、さも感心したように聞いていたが、実際はまるで無頓着むとんじゃくらしくも見えた。ただ一遍「よくまあお一人でお留守居るすいができます事」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大丈夫だいじょうぶ、しっかりお留守居るすいをいたしますから、をつけて、ぶじにはやくおかえりなさいまし。」
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かれはここに来てから、この時の留守居るすいほど味気ない気がしたことはなかったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして或る日、警視庁の捜査課長が、博士の研究室に、留守居るすいの丘助手を訪ねた。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山荘の留守居るすいにあの髭男ひげおとこの侍などが残るであろうことを思って、ここに近い領地の支配をする者を呼び寄せて、今後もここへそれらの人の生活に不足せぬほどの物を届けさせる用も命じた。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
燈火あかりわたし唯今たゞいまけたので御座ござんす、まこといままでお留守居るすいをしてましだのなれど、うちのやんちやが六ツかしやをふに小言こごといふとてけました、御親造ごしんぞ今日けふ晝前ひるまへ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仙台藩の留守居るすい役を勤めて居た大童信太夫おおわらしんだゆうう人があって、旧幕府時代から私はその人とごく懇意こんいにして居ました、といってその人が蘭学者でもなければ英学者でもない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お延は続けざまに留守居るすいとして適当な人の名を二三げた。津田はこばめるだけそれを拒んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これが苦労の一つである。またこの界隈かいわいではまだ糸鬢奴いとびんやっこのお留守居るすい見識みしっている人が多い。それを横網町の下宿にやどらせるのが気の毒でならない。これが保の苦労の二つである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ある日いつものとおり保名やすなはたけに出て、くず一人ひとりさびしく留守居るすいをしていました。お天気てんきがいいので子供こどもへとんぼをりに行ったまま、あそびほおけていつまでもかえってませんでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「私のほうでは田地などいらない。これまでどおりに君は思っておればいい。別荘その他の証券は私のほうにあるが、もう世捨て人になってしまってからは、財産の権利も義務も忘れてしまって、留守居るすい料も払ってあげなかったが、そのうち精算してあげるよ」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
けれども藩士が出抜だしぬけに公儀(幕府)の調所しらべしょに入門したいと云ても許すものでない、藩士の入門ねがいにはその藩の留守居るすいと云うものが願書に奥印おくいんをしてしかのちに入門を許すと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「気楽でしょうね。留守居るすいも何もおかないで出られたら」と御米が云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)