父娘おやこ)” の例文
その酒屋の一人娘がワーワー泣いて阿父おやじさんに叱られていたが、小さなアンポンタンの胸は、父娘おやこのあらそいを聞いてドキンとした。
お隣の半助さん父娘おやこもよくは思っていないことでしょう。私の家がこの通り運がいいのに、半助さんが長患いで、むずかしい顔を
二人の父娘おやこを養つて行く義務はないと思つてゐるし、月々、二百円からの小遣を大威張りでふんだくられるのは、いまいましいのである。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
たしかにあれは神尾喬之助で、壁辰の父娘おやこのあいだに、こんな話もあったのを聞いたのだ、という幸吉の陳辯ちんべんには耳をもさず
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
社長父娘おやこと文吾と、腕力の強い社員を二人のせたランチは、明石町の河岸かしをはなれて、約束の九時には月島五号地沖を静かにはしっていた。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むしろうれいの色すら濃い。血は同じでも、人生の伴侶はんりょを選ぶについては、父娘おやこでも見解の相違のぜひないことが、とたんにはっきり分った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父娘おやこただ、紫玉の挙動ふるまいにのみ気をられて居たらう。……此の辺を歩行ある門附かどづけ見たいなもの、と又訊けば、父親がつひぞ見掛けた事はない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分のふとした罵倒が、瑠璃子父娘おやこに、どんなにわざわいしているかと云うことを聴けば、熱情な恋人は、どんな必死なことをやり出すかも分らない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
床前に、三斎父娘おやこが控えて、左右には浜川、横山、それに三郎兵衛、芸者、末社も、もうおいおい集まりはじめていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうして巫山戯ふざけさせた。併し、菊枝と春吉とは父娘おやこ揃ってふさぎ込んでいた。他人が冗談を言っても、春吉と菊枝とは、微かな笑いしか笑わなかった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
おまけにその熊が大勢の人を傷つけたというので、父娘おやこは後難を恐れて、どこへか影をかくしたと伝えられた。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その外に、構内別館——そこは赤沢博士の住居になっていた——に博士夫人珠江子たまえこという、博士とは父娘おやこにしかみえぬ若作り婦人がたった一人閉じ籠っていた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小さいときから一緒に育ったけれども、青年期に入る頃から海に出はじめ、だんだん父娘おやこには性格が茫漠ぼうばくとして来た若い店員には、今はもう強いて遠慮する必要は無い。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どうしたって父娘おやこだとは見てくれまい。大池の生活に密着した、抜きさしのならない関係にある女だと、解釈したこったろうから、ここへ話をもちこんでくるのは当然だ。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父娘おやことも芸事が好き上手であったから自然その道の方へ熱心になり、娘は十か十一の時、もう諸方の御得意から招かれて、行く末は一廉ひとかどの富本の名人になろうと評判された位でありました。
父娘おやこ、腹を合せて不義をいるような不埓者、すておかば恩寵おんちょうに甘えて、どのような非望企らむやも計られませぬ、知りつつお膝をお借り申し奉ったは、みな、主水之介、上への御意見代り
しかし、この無造作なうちにも包み切れない品位と、弱気のくせに純情らしいところが、すっかり遠藤父娘おやこの気に入りました。
あと振り返り振り返り、朝霧の中を、渭州いしゅうの場末から立ち退いていく父娘おやこの姿へ、魯達ろたつもちょっと大きな手を振って見せた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父娘おやこはただ、紫玉の挙動ふるまいにのみ気をられていたろう。……この辺を歩行あるく門附みたいなもの、とまた訊けば、父親がついぞ見掛けた事はない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このお駒ちゃんと板さんの久助は、父娘おやこなのだ。その父親てておやの久助に、こうこっぴどくいわれても、お駒ちゃんは相変わらずしゃあしゃあとしたもので
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父も娘も、無言のまゝに、三十分も一時間もすわっていた。いつまで、坐っていても父娘おやこの胸の中の、黒いいやなかたまりが、少しもほぐれては行かなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
伊兵衛はその頃からお孝と小田原町の家へ移り、飯炊きの老婆と女中を使って、父娘おやこ二人さし向いの生活を始めた。……妻と娘とが交代したかたちである。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或は、自分は農業技術の指導員として、娘たちは託児所の保姆見習として働かせ、父娘おやこの生活を全体として新しい農村建設のために献げる夢をも描いてみた。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
(あの人がもしわたしたち父娘おやこを憎んで、あのことをだれかに言ったら、わたしはどうなるのだろう?)
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
元旦の朝、若旦那と並んだ姿を見せたのは、影身かげみに添うことだけはゆるしてくれというのだったかも知れない……抑留所ではじめて父娘おやこがめぐり逢うなんて、これは因縁。
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父娘おやこでもあろうか——と、始めはそうおもった。もう六十ぢかい太った老紳士の腕を、その横からピンク色の洋装のうつくしく身についた若い女が支えて、ブリッジをのぼってくる。
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だからこの夏期は夜番といつくろって父娘おやこ二人水泳場へ寝泊ねとまりである。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
疑うべくもない浩一郎とその母親です、そう解ると、陽子父娘おやこの表情は、足の下に横わる鉄板のように冷たくなりました。
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
父娘おやこの者が、人目もなく、そこに相擁しているすがたを奥から眺めながら、禰宜の妻は、いぶかしげに、ふところをあけて、児に乳ぶさを与えていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今迄いままでは、元気であった父も、折々は嗟嘆さたんの声を出すようになった。夕方の食事が済んで、父娘おやこが向い合っている時などに、父は娘にびるようにった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最初からこんなことばづかいが出ても、二人はすこしもおかしく感じないほど、父娘おやこといっても似つかわしい。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼等父娘おやこはちらちらと崩れかかる榾火ほだびを取り巻いて、食後のいこいを息ずいていたのであったが、菊枝は野を吹く微風になぶられて、ゆれる絹糸のもつれのような煙を凝視みつめて
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
伊兵衛の部屋は、青岳父娘おやこの住居と同じ棟の、道場に近い六じょう二た間であった。片方が寝間で、居間のほうには切炉きりろがあり、机とか手文庫とか、用箪笥だんすなどが備えてある。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
われわれ父娘おやこにとつて有難い役割を果して下さることになるのです。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「何ですか。」と、坊主は視ないで、茶屋の父娘おやこに目をった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この話には、翠蓮父娘おやこもわがことのようによろこんだ。かくて趙の長者と馬を並べて、魯達が山紫水明な七宝村へ入ったのは次の日のことだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊賀井の殿樣に惡智慧をつけて、八方から清水屋の父娘おやこを責めさいなんだ。金づく、義理づく、それでもいけないとなると、今度は腕づくでおどかした
千浪はそれを、人形のように両袖に抱き締めて、父娘おやこは土間の上りがまちまで、大次郎を送って出る。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつまで、坐つてゐても父娘おやこの胸の中の、黒いいやな塊が、少しもほぐれては行かなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「何ですか。」と、坊主は視ないで、茶屋の父娘おやこに目をつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とま子 父娘おやこだと思ふから笑はないのよ。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
権十は、生返辞なまへんじだった。父娘おやこが二人きりの船世帯なので、十五の小娘を一人残して行くには忍びないらしいのである。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊賀井の殿様に悪智恵わるぢえをつけて、八方から清水屋の父娘おやこを責めさいなんだ。金ずく、義理ずく、それでもいけないとなると、今度は腕ずくでおどかした
表面、お蓮さまによって父娘おやこのあいだに、へだたりができたように見えたけれど……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
美女 けれども、父娘おやこの情愛でございます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、今はもう他人事ひとごとではなかった。大老の死は、自分たち父娘おやことまの下へも、忽然こつぜんと、泥のような波をげてきた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こしらえ事の縁結びの事、金の力で丹次をさらって行った事、有馬屋父娘おやこに対する怨みは、まだまだうんとあるにしても、それはここで言う筋ではなかったのです。
お駒と久助が父娘おやこであろうとは! 全く世の中は、広いようで狭いものだと、感心と戦慄せんりつをちゃんぽんにしたような心状で、いそがしく対応策をめぐらしながら縁側を歩いて行くと
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宿の亭主も事が嘘なのは、百も承知のくせにして、ぐるになってか、高利の日金貸ひがねかしみたいに日々、父娘おやこを責めたてる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ずいぶん痛々しい取立てもしたそうですが、その代り私たち父娘おやこの身も詰められるだけは詰めたのです。