爪先上つまさきあが)” の例文
のきいた運転士うんてんしくるまをつけたところが、はたしてそれであつた、かれ門前もんぜんくるまをおりて、右側みぎがわ坂道さかみち爪先上つまさきあがりにのぼつてつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかし間もなくこの陰鬱いんうつ往来おうらい迂曲うねりながらに少しく爪先上つまさきあがりになって行くかと思うと、片側に赤く塗った妙見寺みょうけんじの塀と
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
右へ右へと爪先上つまさきあがりに庚申山こうしんやまへ差しかかってくると、東嶺寺とうれいじの鐘がボーンと毛布けっとを通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。何時なんじだと思う、君
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爪先上つまさきあがりになって来たようだ。やがて段〻勾配こうばいが急になって来た。坂道にかかったことは明らかになって来た。雨の中にも滝の音は耳近く聞えた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大崩おおくずれまで葉山からは、だらだらの爪先上つまさきあがり。後はなぞえに下り道。車がはずんで、ごろごろと、わしがこの茶店の前まで参った時じゃ、と……申します。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岩屋いわやからすこまいりますと、モーそこはすぐ爪先上つまさきあがりになって、みぎひだりも、すぎまつや、その常盤木ときわぎのしんしんとしげった、相当そうとうけわしいやまでございます。
「この真白の路が、あの山の入口まで、先づ二十五町かな? それから爪先上つまさきあがりが一里半近くか。少し参るな。」
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
二三ちやうまゐつて総門そうもん這入はいそれから爪先上つまさきあがりにあがつてまゐりますると、少しひろところがございまして、其処そこ新築しんちくになりました、十四五けんもある建家たていへがございました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
夜寒よさむの細い往来わうらい爪先上つまさきあがりにあがつてくと、古ぼけた板屋根の門の前へ出る。門には電灯がともつてゐるが、柱に掲げた標札の如きは、ほとん有無うむさへも判然しない。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
知縣ちけん官舍くわんしややすんで、馳走ちそうになりつゝいてると、こゝから國清寺こくせいじまでは、爪先上つまさきあがりのみちまた六十ある。くまでにはりさうである。そこでりよ知縣ちけん官舍くわんしやとまることにした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
すごさうにも見え、爪先上つまさきあがりになつて居るやうにも見える。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかもなくこの陰鬱いんうつ往来わうらい迂曲うねりながらにすこしく爪先上つまさきあがりになつてくかと思ふと、片側かたがはに赤くつた妙見寺めうけんじへい
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夜寒よさむの細い往来わうらい爪先上つまさきあがりにあがつてくと、古ぼけた板屋根の門の前へ出る。門には電燈がともつてゐるが、柱にかかげた標札へうさつの如きは、ほとん有無うむさへも判然しない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その後から爪先上つまさきあがり、やがてまた太鼓たいこどうのような路の上へ体が乗った、それなりにまたくだりじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路は左右に曲折して爪先上つまさきあがりだから、三十分と立たぬうちに、圭さんの影を見失った。樹と樹の間をすかして見ても何にも見えぬ。山を下りる人は一人もない。あがるものにも全く出合わない。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其後そのあとから爪先上つまさきあがり、やがてまた太鼓たいこどうのやうなみちうへからだつた、それなりにまたくだりぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
石炭殻せきたんがらなどを敷いた路は爪先上つまさきあがりに踏切りへ出る、——そこへ何気なにげなしに来た時だった。保吉は踏切りの両側りょうがわに人だかりのしているのを発見した。轢死れきしだなとたちまち考えもした。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大久保の停車場を下りて、なか百人の通りを戸山学校の方へ行かずに、踏切りからすぐ横へ折れると、ほとんど三尺許りの細いみちになる。それを爪先上つまさきあがりにだら/\とのぼると、まばらな孟宗やぶがある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くことおよそ二里ばかり、それから爪先上つまさきあがりのだらだら坂になった、それを一里半、とまりを急ぐ旅人の心には、かれこれ三里余も来たらうと思うと、ようやく小川の温泉に着きましてございまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我が居たる町は、一筋細長く東より西に爪先上つまさきあがりの小路なり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)