無為むい)” の例文
旧字:無爲
ただ、自分のみている夢が事実になって現れるか、夢のままで消えるかというだけの話だ。無為むいの人間にちょうどいい人生の遊戯だ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「姥の調伏を無為むいにしようと、こう思ったら姥の身辺から、範覚を放さなければならないのだよ……その範覚を迷わしたかえ?」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無為むいな日が続いた。細川の陣でも、ときどき物見の者を出すばかりであった。甚兵衛は、毎夜のように惣八郎と顔を見合せた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その学者は決して懶惰らんだ無為むい日月じつげつを消する者に非ず、生来の習慣、あたかも自身の熱心に刺衝ししょうせられて、勉強せざるをえず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
春宵怨しゅんしょうえん」とも言うべき、こうしたエロチカル・センチメントを歌うことで、芭蕉は全く無為むいであり、末流俳句は卑俗な厭味いやみに低落している。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
この一カ月を超ゆる無為むいの期間が、或いは次の大事な祭を迎えるための、斎忌さいきすなわち「ゆまはり」の期間ではなかったか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私であったら、馬鹿らしく、なにも書かないでいるだろう、そんな無為むいに暮れた日でも、雨だの、晴れだの与一は事務のようにかき込んでいた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
とかく帰りの旅は気もゆるみやすく、つ練習がないので、みんなは酒を飲んだり、麻雀マアジャンをしたりした無為むいの日々を送っていましたが、どうも一種
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「僕は念のために専門学校の方を調べて見たが一級俸は矢張り絶無だ。尤も校長はペテン省の棒先丈けに何処でも無為むいにして一級俸をむさぼっている」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろ病気で身体が弱くなって、学問など出来ぬようになれば、それだけ自分の夢みているような無為むいの生涯に近づくのではあるまいかと考えたりした。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もし自然がこのままに無為むいの月日をったなら、久しからぬうちに、坂井は昔の坂井になり、宗助は元の宗助になって、崖の上と崖の下に互の家がへだたるごとく
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病弱のぼくは学校に残され、たまに連絡を命じられて大井町まで通うほかは、四、五人の同僚とともに、毎日、玄関脇げんかんわきの小部屋でポツンと無為むいの時間を過すのである。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
この世に生まれ来るのはただ一度きりであることを思えば、この生きている間をうかうかと無為むいごしてはもったいなく、実に神に対しても申しわけがないではないか。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ココに一つの説あり、全く自家のを欲し富貴逸楽をこいねがわんとて賄賂を行うもあり、また恬憺てんたん無為むいにせば終身きこゆるきのみならず、かみのために心力を尽すこともなし得ず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
水また水の無為むいな海上生活が、十日ばかりつづいた。それは月のない晩であった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
上海から帰って以来約半年の間、素人探偵明智小五郎は無為むいに苦しんでいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
忘れがたい人々との心にもない別離べつり、その間の私の完全な無為むい
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いわゆる無為むい空日を過していたのだ。信長が、いかにこの間を、焦々じりじり思っていたことかは、今、その譴責状けんせきじょうとなってから、初めてみな
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人あるいはいわく、天下泰平・家内安全をもって人生教育の極度とするときは、野蛮無為むい羲昊ぎこう以上の民をもって人類のとどまるところとなすべし。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
独りぽっちの仕様ことなしに、近所の子供と遊んだり、子供達から自転車を借りて乗りまわしたり、ただあてもなく散歩したり、そんな無為むいな日々をすごすことが多かった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
自分は一年のうちで人の最もうれしがるこの花の時節を無為むいに送った。しかし月がかわって世の中が青葉で包まれ出してから、ふり返ってやり過ごした春を眺めるとはなはだ物足りなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無為むいの日がドンドンたって行った。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一角は、三位卿の加勢に対して不快はないが、決してきょうまで無為むいにいたわけではないという意味をチラと、ここで釈明しておいた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野蛮の無為むい、徳川の泰平の如きは、平安と称すべからざるのみならず、かえってこれを苦痛不快と認めざるをえず。その平安の美は煙草の麁葉にひとしきものといいて可なり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
オリムピックのなかでも、ブリュウリボンと呼ばれる、壮麗そうれいなレガッタのなかで、ぼくには、負けてあおいだ、南カルホルニアの無為むいにして青い空ほど、象徴しょうちょう的に思われたものはありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
見給え個性発展の結果みんな神経衰弱を起して、始末がつかなくなった時、王者おうしゃたみ蕩々とうとうたりと云う句の価値を始めて発見するから。無為むいにしてすと云う語の馬鹿に出来ない事を悟るから。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無為むいに日数が経って行った。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
などと月日から割り出したはかない観測などに無為むいな日を暮している者はなかった。——この世は戦国、戦国は日常——という通念が徹していた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まさかそのような犬神の屋敷などに、ご上人様がおいでになろうとは思われませぬが、といってここに思案ばかりして、無為むいにおりますのもいかがなものか。……せっかく重助様がああおっしゃることゆえ、ともかくもそこへ行って探ってみては?」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もういうな。無為むいにこうしているのではない。おれにもここへ来ては考えがあることだ。……それよりはな、主膳」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのおつもりに相違はない。……が、ああいう御気性、平日たりとも、無為むいに過しておられぬままに、その計策を問うておよこしなされたものだ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れるはなを見、飛ぶ蝶に眠気ねむけを誘われ、のどかな町の音響や、城普請しろぶしんのみの音など聞いていると、将士は無為むいに飽いて、ふとそんな錯覚すら抱くのだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その途中にこうして、幾日も無為むいにおいで遊ばしては、いよいよ安土あづちへの聞えもよろしくあるまいに」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したがって、近習の細川頼春と一色右馬介も、庫裡くりの裏で、ぜひなく薪割まきわりや水汲みまでをやっていた。彼らだけが日々ただ武者張って無為むいにもいられないのであろう。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう無為むいやまいに、自分は三年に一度か、二年に一度ずつは、きっとかかるのだが、その時、駄目と思う自分を鞭打って励まし、無為のからを蹴やぶって、殻から出ると
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今時、誰ひとりとして、一日たりと、無為むいに送っていられる閑人などはないが、信雄の希望で
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……なに少しも探査がはかどらんと申すか。それもよかろう、貴公たちには難事件にぶつかる程よい修業じゃよ。……わしか? ははは、わしは無為むい無病、いつもこの通り頑健じゃ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が自分でいうところの無為むい空虚うつろの悩みが足もとにもまつわっているような歩みで——。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、秀吉は、その明示を下すに、無為むいな時日を移さなかった。彼が帷幕いばくのうちから
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、れを待って、なお無為むいな日を宿所に過ごしているほかなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱海あたみへ行った釘勘の返辞を待っている約束で、根岸へ帰った後、しばらくおとなしくしておりましたが、春かんとする呉竹くれたけの里に、歌をよむでなく詩を作るでもなく、無為むい日永ひながを歎じていますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無為むい、坐食、そんな日がもう五年目になる——
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
劉備玄徳は、毎日、無為むいな日に苦しんでいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無為むいに、余生を過しておりまする」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無為むいから
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)