無口むくち)” の例文
彼はいつもごく無口むくちな男であった。昼は一日中、真鍮の望遠鏡を持って、入江の周りや、または断崖の上をうろついていた。
無口むくちな、おとなしそうなおとこ似合にあわず、きゅうおそろしいけんまくとなりました。おとこは、すぐさましていきました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし彼は三木に向きあったまま、急に無口むくちになってしまった。なにかしきりに考えこんでいるようである。ふだんの明るい隆夫の調子は見られない。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
醫學士いがくし細井ほそゐといふ色白いろじろひとにもまりかゝつたに、引違ひきちがへて旦那樣だんなさまのやうな無口むくちさまへ嫁入よめいつてたはうかいふ一時いちじ間違まちがひでもあらう、此間違このまちがひをこのまゝにとほして
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ついこのあいだ信州から質子として大坂へきたばかりの田舎者いなかもの、いたって無口むくちで、年も他のふたりよりは若く、ながい道中どうちゅうも、ただむッつりとしてあるいているが、秀吉ひでよし犀眼さいがん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無口むくちでがんじょうな四郎五郎しろごろうさんは、煙草たばこをすいながらぽつりぽつりこたえた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
元來無口むくちな性分で、娵に來た頃、博士は寡言がお前の一長處だと云つた位である。玉ちやんはつぺたをおとうさんの胸に押し附けて、目を半分いておとうさんを見て、すう/\と息をしてゐる。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして、いつのまにか、のびのびとした、しなやかさはなくなり、いろくらくろずんで陰気いんきになり、そして、は、たいへんに無口むくちになってしまったのです。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
無口むくちのほうで、伊那丸いなまるにたいしては柔順じゅうじゅんであり、友情にもろい男であり、小事しょうじにこだわらず、その、鉄杖てつじょう殺風さっぷうぶことも滅多めったにしない男であるが、いったん、そのまなじりをべにいたときには
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このとき、かれが、どんなことをかんがえていたか、だれもるものはありません。まれつき、無口むくちまんは、おもったこと、かんがえたことを、めったに、はなしません。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
最初さいしょ、このえたのをつけたものは、そらわたくもでありました。けれど、ものぐさな無口むくちくもは、ぬふりをして、そのあたまうえ悠々ゆうゆうぎてゆきました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
無口むくちわかおとこは、あたりのさびしくなった景色けしきまわしながらひとごとをしていました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いえ、五りんりないといかけていっていうと、たしかにいてきたといいなさるから、うそをいうことは、どろぼうのはじまりだといったのです。」と、平常ふだん無口むくちおとこ白々しらじらしくこたえた。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
は、無口むくちで、そして、こんなにとしをとっていましたけれど、遠慮深えんりょぶかくありました。とりたちから、みなみくにはなしをききたいとおもいましたけれど、つい、とりかって、たずねることがありません。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
父親ちちおやというのは、からだつきのがっちりした、無口むくちはたらものでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、無口むくちげいなしのからすをあざわらっていたのです。
からすの唄うたい (新字新仮名) / 小川未明(著)
「は、は、は。」と、無口むくちのおじさんは、わらっています。
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)