水底みなぞこ)” の例文
暗き水底みなぞこ深くにあって、今、悲しくも彼女の甘き愛撫を思い、彼女の名を呼ぼうとしてもがいてその小さな生命いのちを絞り尽している
本當に、「水は我が魂をひたし、我は深き海に沈みぬ。立つべき足場もなく、我は水底みなぞこに到り、洪水は我を溺らしめぬ。」
柳の間をもれる日の光が金色こんじきの線を水のうちに射て、澄み渡った水底みなぞこ小砂利じゃりが銀のように碧玉たまのように沈んでいる。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
水底みなぞこ水漬みづく白玉となつた郎女の身は、やがて又一幹ひともとの白い珊瑚のである。脚を根とし、手を枝とした水底の木。頭に生ひ靡くのは、もう髪ではなく、藻であつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
もすそひらいて、もだくるしむがごとくにえつゝ、本尊ほんぞんたるをんなざうは、ときはや黒煙くろけむりつゝまれて、おほき朱鷺ときかたちした一団いちだんが、一羽いちはさかさまうつつて、水底みなぞこひとしく宿やどる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殯宮ひんきゆう通夜つやをしてゐるやうな赤楊はんのきよ、おまへの王樣は崩御になつた、赤楊はんのきの民よ、靜かな水底みなぞこかんむりの光を探しても、うたげ歌舞かぶの響を求めても、詮ない事になつてしまつた、赤楊はんのきの王樣、今
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
水底みなぞこのようにつめたく青い月の夜で、庭の樹々は心あるものが強いて沈黙を守っているような静けさで、矗々すくすくと空に裸の枝を延ばしていた。その静けさは雨戸をしめ切った室の内までも沁みて来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
午後六時、鵞鳥がてうの見たる水底みなぞこ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
千人ちたりなむ水底みなぞこに。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ほくそ水底みなぞこみや
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
をんなだてらに水底みなぞこ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
と思い思う、まさしく、そこに、水底みなぞこへ、意中の夫人が、黒髪長くかかって見ゆる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水底みなぞこ水漬みづく白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹ひともとの白い珊瑚さんごの樹である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生いなびくのは、玉藻であった。玉藻が、深海のうねりのままに、揺れて居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
海よ、いまし水底みなぞこの富を數へしものやある。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
水底みなぞこどろ逆上さかあ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
かくて水底みなぞこ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
水底みなぞこぬしむ……その逸するのを封ずるために、雲にゆわえてくろがねの網を張り詰めたように、百千のこまかな影が、ささなみって、ふらふらと数知れず、薄黒く池の中に浮いたのは、亀の池の名に負える
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海よ、いまし水底みなぞこの富を数へしものやある。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
『おゝ、わしいま出逢であふた、水底みなぞこから仰向あふむけにかほいた婦人をんなことぢや。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)