水夫かこ)” の例文
黙々とした水夫かこ、おびえた夢にとまをかぶっている旅客、人魂ひとだまのような魚油燈、それらを乗せて、船脚は怖ろしいほどはやくなっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船頭せんどう水夫かこも昂奮したが、船上の一座もすくんだように重くなって、立ち上る元気よりは、こわいものを見る心持が鉛のようになる。
ぢやによつて沖を通る廻船さへ、時ならぬ潮のさしひきに漂はされて、水夫かこ楫取かんどりあわてふためく事もおぢやつたと申し伝へた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あゝ屈辱のイタリアよ、憂ひの客舍、劇しき嵐の中の水夫かこなき船よ、汝は諸州くに/″\の女王にあらずして汚れの家なり 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
当時私は学校から帰ると、父と一緒に磯漁に出掛けるのを常としたが、弥市老人は私の家の舟の水夫かこで、毎日私の家へ仕事にやつて来てゐた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一人の水夫かこもなく蓮湖れんこの中に浮んでいて、死者がそれに乗ると、その命ずる意志のままに、種々いろいろな舟の機具が独りでに動いて行くというのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
神風かみかぜを起こしてあのをふくらせ、水夫かこうでの力を二倍にし、鳥のごとくにすみやかにこの岸に着かしめたまえ。(鳥居とりいのほうに走り出そうとする)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「御苦労」と水夫かこへ挨拶をして岸へ上るとその侍は、あたかも人目を忍ぶように、佐賀町河岸までやって来た。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船の上には、右往左往する水夫かこどもの姿が見えるだけで、成経、康頼はもとより、基康も姿を現さない。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
乗組のほうは、船頭金兵衛、二番水先頭与之助よのすけ帆係下一番ほがかりしたいちばん猪三八いさはち、同上一番かみいちばん清蔵せいぞう、楫取弥之助やのすけ、ほかに助松すけまつ以下船子ふなこ水夫かこが六人。ところで、その二十三人は、ただのひとりも船にいない!
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
水夫かこの歌聞かぬ大河だいがの寂しけれ船多けれど水ひろくして
つな投げよ。』一時に水夫かこ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水夫かこども。しばらくおかへあがっておれ。用談はここですみそうだ。そちたちは、わしの呼ぶまで、番所の小屋で休息しているがいい」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の水夫かこは身を捻ると、船から階段へ飛び移った。二人の水夫も飛び移る。続いて甚太郎も飛び移った。松火を捧げた二人の者が、先頭を切って進んで行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そこに坐つて煙草をんでる者あ誰やい! 何処からそんな立派な水夫かこを雇うて来たかい?」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
船の中でかしいだ飯を持って来てくれたのであるが、瞋恚しんいの火に心をこがしていた俊寛は、その久しぶりの珍味にも目もくれないで、水夫かこの手から、それを地上に叩き落とした。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遠州新居あらい筒山船つつやまぶねに船頭左太夫以下、楫取かじとり水夫かこ十二人が乗組んで南部へ米を運んだ帰り、十一月末、運賃材木を積んで宮古港を出帆、九十九里浜の沖合まで来たところで、にわかの時化しけに遭った。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紅毛か、水夫かこか、女か
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
天神の河岸のほうは、荷方の者や便乗のお人が混みあっておりますから、水夫かこなどがどんな御無礼をいたさないとも限りませぬ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
里見家の旧家臣里見一刀(今は桑名の網元の水夫かこ)、吉田家の浪人仙石定邦(今は車町の私娼じごく宿の主人あるじ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船は、無論、暗澹あんたんたる中をグルグル廻っているのである。水夫かこ楫主かんどり、船幽霊のような声をあげて、ワーッと八方の闇にうろたえている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人の水夫かこは黙っている。木像のように物を云わない。ただ時々微笑する。気味の悪い微笑である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お店には、手代だの若い者だの、それから船がつくと、水夫かこ軽子かるこがたくさんに出入りするから、生意気なことをいうと、らしめられますよ」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その燈火に照らされて見えるのは、七福神の宝船、それに則って作られた船と、満載されてある武器弾薬と、そうしてそれへ乗り組んでいる、七人の異様な水夫かこ達であった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さらに道誉の家臣、田子大弥太も干魚船の水夫かことなって、淀をまぎれ出で、海上これへまいる手はずとなっています」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その帆船のへさきにたたずみ、遙かに海上を眺めながら、追分を唄っている水夫かこがあった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
港には十数そうの大船と数百の小船を持ち、家には常にたくさんな武士と水夫かことも商人ともつかない男を養っている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ」と仰天する水夫かこや従者、それを制した右近丸は、スルスルと近寄って眺めたが
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帆のほか、両舷りょうげん大櫓おおろもある。水夫かこたちは、えいや声をらした。風がない。たよるのは櫓であった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ船から海へ飛んで、陸へ泳ぎついてようやく助かった、水夫かこたちが集まって来た。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
舟をあやつる水夫かこだけであった。孫堅の命令で、水夫は、敵にいたずらな矢数をつかい果たさせるため、暗澹あんたんたる江上の闇で、ただ、わあわあっと、声ばかりあげていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這入って見ますると、店の中は、諸国の水夫かこや楫取で、一杯になって居りました。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、すぐ、おのれ一人、かねて待たせておいた速舟はやぶねのうちに乗るやいな、両舷りょうげん水夫かこ
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国籍不明の水夫かこ達に依って、繰られている大型の船が、南海や支那海を横行し、海上を通る総船を、理由いわれ無しに引き止めて、その船内へ踊り込み、人間の数を調べたり掠奪を為るということは
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
九州津々浦々の船を、また、それに要する手馴てだれの水夫かこ楫取かんどりたちを、博多の一ヵ所に集めさせることだった。——大挙して、ふたたび上洛の用意であるのはいうまでもない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところでお前はどうかというに、以前は馬方今は水夫かこ、太刀抜くすべも知らないという。ちとこれは剣呑けんのんだな。なかなか武術というものは、二年三年習ったところで、そう名人になれるものではない。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや船中の者は、われら二人と六人の水夫かこだけで、余人は乗せてまいりません」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人力は尽くさねばならぬ! ヤアヤア水夫かこども帆を下ろせ! 帆柱を仆せ! 短艇はしけの用意! ……胴の間の囚人解き放せ! あかをい出せ! 破損所いたみしょつくろえ! 龍骨りゅうこつが折れたら一大事! 帆柱を
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それはことわる。殊に、お船手の水夫かこも、今では他国者たこくものをお召抱えにはなるまい」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水夫かこが甲板を飛び廻る。キリキリキリキリと轆轤ろくろが鳴る。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それぞれ、各船の大将たちも、水夫かこ楫取かんどりをつかまえて、空もようをだんじ合っていたのである。たちまちいろんな意見が出てきた。そして尊氏のお座船へ来てまず高ノ師直をとりまいていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてそこへ現われたのは、八助という水夫かこであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「待った、待った。水夫かこの衆、宰相さいしょう(尊氏)の御船はここらでとどまれ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、舟遣れ、水夫かこども漕げ」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
九鬼右馬允嘉隆くきうまのすけよしたかは、信長から水軍の建設をいいつかると、鳥羽、熊野などの船大工や、多年海上で動作に馴れた水夫かこなどを糾合きゅうごうして、やがて七艘の大船を作り立て、これをさかいの浦へまわして来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい。持船の水夫かこ、店の者たちは、絶えず往来しておりますが」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「逃がしては!」と、徐盛じょせいは、水夫かこや帆綱の番を励まして
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、水夫かこたちを叱咤した。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)