気狂きちがい)” の例文
旧字:氣狂
独仙も一人で悟っていればいいのだが、ややともすると人を誘い出すから悪い。現に独仙の御蔭で二人ばかり気狂きちがいにされているからな
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『だからね、母が何と言っても所天あなた決して気にしないで下さいな。気狂きちがいだと思って投擲うっちゃって置いて下さいな、ね、後生ですから。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だ伊之や/\とから気狂きちがいのようで、実の親でもなか/\斯うは参らぬもので、伊之吉はまことに僥倖しあわせものでげす。
ギンは気狂きちがいのようになって、あとを追っかけていきましたが、もう女の姿も牛や羊や馬の影も見えませんでした。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
母親の親戚は町にあるというが、来て顧みてくれる者もなかった。気狂きちがいは、時々、おりを破って外に逃げ出した。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
隣室の踊場のジャズ・バンドが気狂きちがいのように太鼓をたたいた。まばらなシュミーズをつけたレムブルグの女弟子が部屋に飛込むと陳子文がバルコニで自殺したことを告げた。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
つめたり、かみなかかおめたり、気狂きちがいじみた真似まねをしちゃァ、いい気持きもちになってるようだが、むしのせえだとすると、ちとねんがいりぎるしの。どうも料簡方りょうけんがたがわからねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
芳太郎は時々気狂きちがいの発作のように、お庄の手を引っ張って、明りの差さない草ッ原に連れ出した。足場の悪い草叢くさむらにはところどころに水溜りが、ちらちらと空明りに黒く光った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
門辺かどべにありたる多くのども我が姿を見ると、一斉に、アレさらわれものの、気狂きちがいの、狐つきを見よやといういう、砂利、小砂利をつかみて投げつくるは不断親しかりし朋達ともだちなり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みんな心配しんぱいしました。マサちゃんが気狂きちがいになったのだと思いました。そしてむりに、うちれかえりました。途中とちゅうでも、マサちゃんは風にむかって、「ばか、ばかー」とどなっていました。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
又一般にただ風といえば気狂きちがいという意で、風僧といえば即ち気狂坊主である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何だか気狂きちがいじみた眼付で私達を、殊に細君の方をきょろきょろと見ていた。
この気狂きちがいのような真理を話した時フランボーは巻煙草に火を点けた。
彼らは気狂きちがいのようになって騒いでいるに違いない。
するとそこへ気狂きちがいいの様になった一人の婦人が
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「皆出て行け、気狂きちがいを見て何が面白い」
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「この暑いのに、こんなものを立てて置くのは、気狂きちがいじみているが、入れておく所がないから、仕方がない」と云う述懐じゅっかいをした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この気狂きちがい! 私の娘に何をするんだ。可哀想に釘を打ち付けるということがあるもんか。」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
門辺かどべにありたる多くのども我が姿を見ると、一斉いつせいに、アレさらはれものの、気狂きちがいの、狐つきを見よやといふいふ、砂利じやり小砂利こじやりをつかみて投げつくるは不断ふだん親しかりし朋達ともだちなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あれは、気狂きちがいだよ、もう死んだよ。」
あなたの書いたもののうちには、人が気狂きちがいになる所があります。人が短刀で自殺する所も、短銃ピストルで死ぬ所もあります。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかりそろってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだかわかりゃしない。まるで気狂きちがいだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう自分と気狂きちがいばかりを比較して類似の点ばかり勘定していては、どうしても気狂の領分を脱する事は出来そうにもない。これは方法がわるかった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気狂きちがいが人の頭をなぐり付けるのは、なぐられた人がわるいから、気狂がなぐるんだそうだ。難有ありがたい仕合せだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向後こうごもし主人が気狂きちがいについて考える事があるとすれば、もう一ぺん出直して頭から考え始めなければならぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ところが哲学者なんてものは意味がないものを謎だと思って、一生懸命に考えてるぜ。気狂きちがいの発明した詰将棋つめしょうぎの手を、青筋を立てて研究しているようなものだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何でも構わんから追い懸けろと、下駄の歯をそちらに向けたが、徒歩で車のあとを追い懸けるのは余り下品すぎる。気狂きちがいでなくってはそんな馬鹿な事をするものはない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飄々ひょうひょうとしてわが行末を覚束おぼつかない風に任せて平気なのは、死んだあとの祭りに、から騒ぎにはしゃぐ了簡りょうけんかも知れぬ。風にめぐる落葉とさらわれて行くかんなくずとは一種の気狂きちがいである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ自分の満足をるために世のために働くのです。結果は悪名になろうと、臭名しゅうめいになろうと気狂きちがいになろうと仕方がない。ただこう働かなくっては満足が出来ないから働くまでの事です。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはく申しますると、如何にはたから見て気狂きちがいじみた不道徳な事を書いても、不道徳な風儀を犯しても、その経過を何にも隠さずにてらわずに腹の中をすっかりそのままに描き得たならば
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正気の自己の一部分を切り放して、そのままの姿として、知らぬ間に夢の中へ譲り渡す方が趣があると思ったからである。同時に、この作用は気狂きちがいになる時の状態と似ていはせぬかと考え付いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
噫々ああああ女も気狂きちがいにして見なくっちゃ、本体はとうてい解らないのかな」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして中に書いてある事が嫉妬しっとなのだか、復讐ふくしゅうなのだか、深刻な悪戯いたずらなのだか、酔興すいきょうな計略なのだか、真面目まじめな所作なのだか、気狂きちがいの推理なのだか、常人の打算なのだか、ほとんど分らないが
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしていつかこの努力のためにたおれなければならない、たった一人で斃れなければならないというおそれをいだくようになる。そうして気狂きちがいのように疲れる。これが市蔵の命根めいこんよこたわる一大不幸である。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この年齢になって色気があっちゃ気狂きちがいだわ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの志保田の家には、代々だいだい気狂きちがいが出来ます」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気狂きちがいなら謝まらないでもいいものかな」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあとで「気狂きちがいになった女に、しかも死んだ女にれられたと思って、己惚おのぼれているおれの方が、まあ安全だろう。その代り心細いには違ない。しかし面倒は起らないから、いくら惚れても、惚れられてもいっこう差支さしつかえない」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)