檀那だんな)” の例文
鐵心道人の第一番の大檀那だんなで、庵室を建ててやつたのも、諸經費の不足を出してやるのも、皆んなこの男の篤志とくしだといふことです。
今はあらゆる職業の人に交わって、誰をも檀那だんなといい、おかみさんといわなくてはならない。それがどうも口に出憎でにくいのであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの水口の檀那だんなが、子供たち(娼妓)がどれもどれも赤い衿ばかりで並んでいるのを見ると(張見世はりみせのことをいうのでしょう)
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
檀那だんなよ、そう威張りなさるな、若し村長さんが来て、税金や労役の事でせめ立てるなら、あなたも半分になってしまいましょう。どうです」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その市場の婆さんたちに「檀那だんなたちは『下手げてもの』が好きだねえ」等といわれて、初めて「下手もの」という俗語を教わり、その語感が面白く
「支那の芸者の檀那だんなになるのも、容易な事じゃありませんね。何しろこんな家具類さえ、みんな買ってやるのですから。」
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下手にしやがみ「檀那だんな、飛んだ粗相を致しました」と息を切りて言ひ「日は暮れかゝる、心は急く、重い軽いに気もつかず、途中に行つて心づき」
蒙古人など沍寒ごかん烈風断えざる冬中騎して三千マイルを行きていささかさわらぬに、一夜地上にさば華奢きゃしゃに育った檀那だんな衆ごとく極めて風引きやすく
六条坊門の白拍子しらびょうし翠蛾すいがの家は、吉次の定宿じょうやども同じようになっていた。翠蛾の妹は潮音という。彼は潮音の檀那だんなであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お妾さんはびっくりしてその処置を檀那だんなに相談すると、檀那は「構わないから家で遊ばして置け。」と言った。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
梵語でいえば、ダーナで、あの檀那だんなさま、といった時のその「檀那だんな」です。だからお寺の信者のことを「檀家だんか」といいます。財物をお寺に上げるからです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それから私たち三人の者は、ご上人様のご懇意の檀那だんなで、御谷町おたにまち三条上ルに住居しておられる、竹原好兵衛様というお方のお家へ、落ち着きましてございます。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
忘れもしません、ちやうど今から二千五百万年以前にも、檀那だんなは今日のやうに、手前どもの店でお午飯ひる
この神護寺の有様をみた文覚は、何んとしてもこれを再興しようと心に固く誓い、それからというもの勧進帳を手にして檀那だんなを廻り歩き、寄進を募ったのであった。
召使の者の云うには、まず夫人が檀那だんなさんを撃って、それから自分も撃ったのだそうですがね。
その時一人の檀那だんなが栄西をしょうじて絹一疋を施した。栄西は歓喜のあまり人にも持たしめず、自ら懐中して寺に帰り、知事に与えて言った、「さあこれが明日の朝の粥だ」。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
舟に召さずや、檀那だんな、トルレ、デル、アヌンチヤタへ渡しまゐらせんと呼ぶ聲は、身のほとりより起りて、そのアヌンチヤタといふ語は、猶能く思に沈みし我をび起せり。
檀那だんなぶりをして、満座の中で裏店神主はヒドイ、こいつは甥なるものがオコルのが当然だ、全くらちもない奴等だが、さて、こうなってみると酒が飲みたいな、吸物椀で一ぱい
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
楊億ようおく談苑だんえんによれば、丁謂が寂照を供養したとある。何時から何時まで給助したのか知らぬが、有力な檀那だんなが附かなくては、寂照も長く他邦には居れまいから、其事は実際だったに違無い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
羽左衛門うざえもんさんのところと、梅幸ばいこうさんのところと、それから六代目さん。六代目さいわいちょうさんは附属なんですね。そりゃ火鉢だってなんだって、こしらえておあげになるのです。たいした檀那だんなでございますよ」
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これけだし深川綾子の建案にて、麹町の姫様ひいさま檀那だんなとなり、あまたの貴婦人これをたすけ、大法会をしゅして縊死いしの老婆を追善し、併せて鮫ヶ橋の貧民の男女を論ぜず、老少を問わず、天窓数あたまかず一人に白米一斗
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三造は「あんなに湯を使う人はここの檀那だんなの外にありません」
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
春徳寺は貧乏寺で、ろくな用意もないから、三千兩といふ大金持參の大檀那だんなの接待に、門跡前の知合ひの寺へ道具を借りに行つたんださうで。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
僕はまだ日本にいた時、やはり三人の檀那だんなと共に、一人の芸者を共有したことがあった。その芸者にくらべれば、ダアワは何という女菩薩にょぼさつであろう。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鈴木の女主人おんなあるじは次第に優にしたしんで、立派な、気さくな檀那だんなだといって褒めた。当時の優は黒い鬚髯しゅぜんを蓄えていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「それは大丈夫。あの子はお金持だもの。何しろ玉の井御殿の檀那だんなって云うのがパトロンだから。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
檀那だんなは何とて斯く遲くこゝに來給ひしぞ。何の用のおはすにか。うしろめたき事には侍らずやといふ。戸外の人は又何やらん言ひたり。新婦。さなり/\。おん詞はまことなり。
あるいはまたいう、初めは道心を起こして求道者の群れに入ったものが、やがては真理探求の心を忘れ、ただ自分の貴い由を施主せしゅ檀那だんなに説き聞かせて彼らの尊敬供養を得ようとする。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
翠蛾は、妹の檀那だんなが、金にはきれいだが、何となく危険な人物ということは、年上だけに日頃から感じている。その吉次が立ってくれることは、来年の初夏まで、ほっと出来る事だった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「は、とんでもねえ、それどころか、檀那だんながねえで、亡者も居ねえ。だがな、またこの和尚が世棄人過ぎた、あんまり悟りすぎた。参詣の女衆おなごしゅが、忘れたればとって、預けたればとって、あんだ、あれは。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生憎あひにく檀那だんなは居ませんよ。」
「で、檀那だんな様は」
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黙ってして聞いていた文吉は、詞の切れるのを待って、頭をもたげた。みはった目は異様にかがやいている。そして一声「檀那だんな、それは違います」と叫んだ。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「へエ、折々手紙は參ります。たしかに伜の筆跡で——檀那だんな寺の和尚樣にも褒められましたが、伜は字もよく書きます、此處へ一本持つて參りましたが——」
「そうだ。青蓋せいがい句集というのを出している、——あの男が小えんの檀那だんななんだ。いや、二月ふたつきほどまえまでは檀那だったんだ。今じゃ全然手を切っているが、——」
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
月初めには以前世話になって財産まで分けてもらった檀那だんなのお墓参り、月の終には現金と証券とを預けた銀行への用事、その他は百貨店へ買物に行くというような事で。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
門に進みてはしために問へば、家にいますは夫人のみにて、目覺めざめて後は快くなれりとのたまへり。間雜つねの客をばことわれと仰せられつれど、檀那だんなは直ちに入り給ひてもよろしからんとなり。
のみならず同伴の外国人の男女なんにょと(その中には必ず彼女の檀那だんなの亜米利加人もまじっていたのであろう。)
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私の大学にいた頃から心安くした男で、今は某会社の頭取になっているのが、この女の檀那だんなで、この女の妹までこの男の世話になって、高等女学校にはいっている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「俺はさう思ふよ。嘘だと思つたら死體を縛つてお白洲へ据ゑて見るか、——いや、それより檀那だんな寺の和尚に訊いて見るが宜い、丁度離室はなれでお經を上げてゐる樣子だ」
重吉は檀那だんなの杉村が来る時刻を見計らって、きわどい時まで妾宅に臥起ねおきをしている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駿河國志太郡するがのくにしだごほり島田驛で桑原氏の家は驛の西端、置鹽氏の家は驛の東方にあつた。土地の人は彼を大上おほかみと云ひ、此を大下おほしもと云つた。苾堂は大上の檀那だんなと呼ばれてゐた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それは彼女が几帳面きちやうめんな彼に何かケウトイ心もちを感じた為にも違ひなかつた。しかし又一つには今の檀那だんなに彼女の息子むすこが尋ねて来たことを隠したかつた為にも違ひなかつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お六に取つては一番の大檀那だんなで、取込んだ金は三兩や五兩ぢやあるまいといふ評判ですよ
「呉服屋さんだったわ。とうとう店の檀那だんなが来て連れて行ったわ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしその檀那だんなと頼んだ人が、人もあろうに高利貸であったと知った時は、余りの事に途方に暮れた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかもその驚いた顔は、声のぬしを見たと思うと、たちまち当惑とうわくの色に変り出した。「やあ、こりゃ檀那だんなでしたか。」——客は中折帽を脱ぎながら、何度も声のぬし御時儀おじぎをした。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一生苦労をしてもうだつがあがらないと覚って、両国の広小路に三軒分もありそうな水茶屋を開き、御贔屓ごひいき檀那だんな方の後押しで、商売を始めましたよ、それが当って、近頃は大変な繁昌だ
女給らしきものにして檀那だんならしきものと連立って歩むもの幾人。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし檀那だんなが毎日のように来るので、若し留守を明けていて、機嫌を損じてはならないと云う心配から、一日一日と、思いながら父親の所へ尋ねて行かずに過すのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)